2012 Fiscal Year Research-status Report
阻害剤・タンパク質複合体の分子科学計算による定量的構造活性相関手法の構築
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23710272
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
吉田 達貞 徳島大学, ヘルスバイオサイエンス研究部, 助教 (80527557)
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Keywords | 金属タンパク質 / 定量的構造活性相関 / 分子間相互作用 / 分子軌道法 / 理論・計算化学 / 炭酸脱水酵素 / マトリックスメタロプロテアーゼ |
Research Abstract |
平成23年度に引き続き、薬物-受容体相互作用の原子・電子レベルからの理解と創薬に資することを目的として、両分子の複合体構造に対する分子科学計算・シミュレーションの遂行およびそれらに立脚した新しい定量的構造活性相関 (Quantitative Structure-Activity Relationship; QSAR)解析の提案を目指し、亜鉛含有タンパク質を解析対象とし、非経験的フラグメント分子軌道法および拡張Born理論を用いて、両分子間の複合体形成に関わる自由エネルギー変化の代表エネルギー項の詳細解析に基づくQSAR解析を行った。平成24年度は新たな亜鉛含有タンパク質として、がんやリウマチに関与するマトリックスメタロプロテアーゼ-9 (Matrix Metalloproteinase-9; MMP-9)とその一連の阻害剤を解析対象に加え、前年度までの解析対象である炭酸脱水酵素 (Carbonic Anhydrase; CA)・阻害剤系における解析結果との比較を行った。この結果、下記の(1)-(3)を明らかにし、従来の古典QSAR解析に対し、薬物-受容体の相互作用の観点から阻害剤の活性強度の変化をより明確に理解することができた。 (1) 両解析系ともに実測の全自由エネルギー変化は、結合相互作用エネルギー、水和および解離自由エネルギー変化の代表エネルギー項を用いて定量的かつ高精度に再現可能である。 (2) 両解析系ともに活性中心に存在する亜鉛と阻害剤との結合相互作用・水和自由エネルギー変化の寄与がタンパク質中の他のアミノ酸残基からの寄与に比べて顕著に大きい。 (3) CA・阻害剤系では、結合自由エネルギー変化よりも水和・解離自由エネルギー変化が、一方MMP-9・阻害剤系では、水和・解離自由エネルギー変化よりも結合自由エネルギー変化がそれぞれの複合体形成において支配的要因である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度の推進方策として、本申請課題で提案する新しいQSAR手法の適用範囲の可能性と予測精度、創薬への応用の可能性についての検証を目的とし、より多くの解析系への方法論の適用を行う予定であった。実際に平成24年度は、前年度までのCAに加えてMMP-9を新たな対象とする解析を遂行し、両タンパク質に対する阻害剤の作用メカニズムに関する共通点・相違点を定量的に明らかにし、その結果は学術論文として発表することができた。また、タンパク質のような生体巨大分子においては、水和自由エネルギー変化の評価方法・定量的精度が問題となるが、連続溶媒和モデルによる非経験的分子軌道法 (量子力学計算)や一般化Bornモデル (古典力場計算)、ならびに新しい試みとして両者のハイブリット法など複数の方法に基づく比較評価を行い、その妥当性について検証を行った。 研究代表者本人が頸髄損傷により平成24年10月11日から平成25年2月3日までの間、入院・療養を余儀なくされており、この間は引き続き研究補助者(大学院生)の協力により研究を推進し、学会等での成果発表を代理で行った。結果として、当初予定していた研究成果の発表のための学会等への参加ならびに物品等の購入による研究経費の使用ができず、431,520円の未使用額が生じた。現在、研究延長申請を行い平成25年度中に研究の遂行と残り経費の執行に努力する。 以上から、おおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までに、CAやMMP-9を解析対象に新しいQSAR手法の適用を行ってきた。平成25年度は、引き続き方法論の実用化に向けた汎用性の検証、ならびに亜鉛含有タンパク質における亜鉛の役割をより系統的に理解するために、これらに加えて亜鉛含有のTNF-α変換酵素(TACE)とその一連の阻害剤を解析対象とする予定である。また、上記のいずれの解析タンパク質においても、活性中心の亜鉛原子はイオン化してもd軌道が10電子で満たされた閉殻構造をとる。一方で、同じ遷移金属である鉄原子は開殻構造をとり、電子スピン状態の変化に関係して生体内では酸化還元などの重要な機能発現を行っている。そこで、亜鉛含有タンパク質に加えて、ヘム鉄を活性部位に含む薬物代謝酵素のチトクロームP450 (CYP)とその阻害剤との結合相互作用様式の解析を視野に入れ、金属タンパク質に対するより体系的な方法論の構築を行う予定である。なお、TACEならびにCYPに関する文献調査、分子科学計算の準備は現時点でほぼ終了している。 最終的な研究成果は学術論文としてまとめるとともに、専門分野の異なる学会等にも積極的に参加し、成果発表を行っていく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度に生じた未使用の研究経費 (431,520円)の使用用途として、以下の(1)-(3)を主として予定している。 (1) 研究成果発表、情報収集のための学会参加に係わる出張経費 (国外を含めて年に二件以上を予定) (2) 平成24年度に購入したハイパフォーマンス・コンピュータ (HPCSYS製 HPC5000-XW 218R2S-SIP)の計算環境を増強するための増設用メモリの購入 (3) 大規模な容量となる分子科学計算の出力結果を記録・保存しておくためのハードディスクやDVDメディア等の記録媒体の購入
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[Journal Article] Modeling of Human Neuraminidase-1 and Its Validation by LERE-Correlation Analysis2013
Author(s)
Seiji Hitaoka,Yuto Shibata, Hiroshi Matoba, Akihiro Kawano, Masataka Harada, M Motiur Rahman, Daisuke Tsuji, Takatsugu Hirokawa, Kohji Itoh, Tatsusada Yoshida, Hiroshi Chuman
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Journal Title
Chem-Bio Informatics Journal
Volume: Vol.13
Pages: 30-44
DOI
Peer Reviewed
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