2011 Fiscal Year Research-status Report
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23720022
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
KIM JIHYUN 京都大学, 人文科学研究所, 助教 (20553473)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 中国宗教 / 中国思想 / 伝経儀礼 / 三師 / 経師 / 玄師 / 道教 |
Research Abstract |
23年度は玄師と経師の観念を中心に、経典伝授系譜上の三師(経師・籍師・度師)について考察した。玄師は道教の三寶(道・経・師)のうち、師宝にあてられたが、その淵源は4世紀末の茅山の啓示と上清経の成立に遡る。つまり「玄師」は霊媒楊羲のもとに降臨した仙人魏夫人のことを指し「天界の師」、「道の世界における師」という意味を持ち、「経師」は玄師から天上の経典を授かり許謐一家に伝えた楊羲を指す。最初「経師」は媒介役に過ぎず、師としての権威を持たなかっだが、上清経は経師の尊重を唱え、それを下敷きにして「経師・籍師・度師」の三師を尊んだ霊宝経において、経師は「伝授系譜における曽師」にあてられ、経典の由來するところとして崇敬の対象となった。これらの三師は、伝授系譜の由緒正しさを証明するものとして、授経の際に三師の諱を記し経典と合わせて伝授されたのみならず、誦経の際に師の姿を思い描いて拝礼を行う、存思の対象となった。 このような諸師観念の展開と共に道教史に起きた注目すべき変化は盟の形式にある。『抱朴子』が伝える古典的な道教の盟は、師弟が動物の血をすする「血盟」であった。しかし上清経の成立に伴って血盟は廃止され、神々に伝授の事実を告げる「告盟」と、経師がいない場合は玄師に誓って経典を自受する「隱盟」という新しい盟の形式が登場した。このような新しい儀式の発達は、六朝時代における上清経の流布という特殊な事情を背景としている。霊宝経における、髪と血を赤青の絹に代替する「丹青」の誓は、帰三宝礼とともに道教の標準的な伝経儀礼に取り入れられた。 以上の成果を通じて、道教における「師」観念の諸相を解明するとともに、道教の伝経儀式が、仏教の影響のみならず、道教特有の経典観に基づくこと、そして教えの淵源を問う中国の伝統的な系譜意識をその根底におくことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は計画どおり、六朝から隋唐にいたるまでの、道教における「師」観念と経典伝授儀式について研究を行った。 経典伝授の系譜を表す三師(經師・籍師・度師)と道教経典の伝授儀礼については、若干の先行研究があるが、概ね三師説に基づいた経典伝授の系譜を探ることにとどまった。本研究では道教の伝経儀式に現れる「玄師」「経師」「籍師」「度師」などの「師」観念の由来とその変遷を全面的に考察し、道教が仏教の影響を受けつつも、独特の経典重視思想に基づいて「師」観念や伝経儀礼を発展させたことを明らかにした。以上の成果は、論文にまとめて『三教交渉研究論叢続編』に発表した。また香港中文大学の『道教文化研究中心通訊』にその成果を海外に紹介した。 計画以上の成果としては、道教の伝経に関連する資料調査において、文献資料のほかに、図像資料を発見したことである(道蔵の中の図像、北京故宮博物院や日本MOA美術館所蔵の絵画)。これらの図像資料は、道教においては「経典を授ける」のが教えの伝授を象徴するほど重要なものであったことを物語っており、中国宗教思想の観点から検討する必要があろう。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度は主に道教史を中心に研究を行ったが、24年度は道仏交渉史の側面から研究を進める。具体的な研究内容は以下のようである。 (1)仏教における経師観念:仏教における経師は、一般的に三蔵(経・律・論)に対応する経師・律師・論師の中の「経師」を指すが、「美声をもって経典を読誦する僧侶」「梵唄に長けたもの」を意味する場合もある。特に後者は経典の転読が流行した六朝時代の宗教文化と関連するものと思われる。仏教文献に現れる用例分析を通じて、「経師」観念の多様な意味とその歴史的変遷を探り、道教との関係も検討する。 (2)仏教の受戒と道教の伝経儀式における三師観念の比較:道教の経典伝授の儀式に登場する「臨壇三師(度師・監度・保挙)」は、仏教の受戒における三師と対応関係が認められるものの、完全に一致するのではなく、道教経典にその淵源を持つものである。仏教と道教の三師観念の比較を通じて、道教はいかなるところを仏教から借用しているか、また道教独自の意味合いがあるのはいかなるところかを明らかにする。 (3)道仏交渉史からみる六朝宗教文化の研究:六朝時代の仏教と道教の間には共通する現象が少なくない。たとえば、仏教の菩薩戒では、戒を授ける直接の師匠がない場合、仏菩薩に誓って自ら受戒する「自受」の方法がある。それと非常に類似した経典の伝授方法が六朝道教文献にみられる。このほかにも経典の誦読、入門式(受戒と伝経)の整備などにおいても共通するところがある。このような道仏の両教の共通現象の比較分析を通じて、相互影響関係を解明するとともに、六朝時代の独特な精神文化ないし宗教文化の様相を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究を行うためには、仏教の受戒関係資料とそれと関連する道教儀礼文書を体系的に収集・整理することがその前提となる。研究費は主に(1)その資料の収集と整理、(2)敦煌写本(フランス国立図書館)と道蔵版本(宮内庁)などの文献調査にあてる計画である。
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Research Products
(2 results)