2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23720059
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Research Institution | Kyoto University of Art and Design |
Principal Investigator |
杉崎 貴英 京都造形芸術大学, 芸術学部, 講師 (30460744)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 説話画 / 春日曼荼羅 / 興福寺南円堂 / 南都復興 / 解脱房貞慶 / 興福寺食堂 / 像内納入品 |
Research Abstract |
本研究は、古代に制作された奈良の仏像彫刻が、中世においてどのように改めて受容され、新たな意味づけを与えられたのか、その消息を跡づけようとするものである。・研究の基盤整備を目的とし、文献史料や説話的言説のほか、礼拝画や説話画に描かれた彫像などについて、主として既公刊資料による基礎的・全般的資料収集と関連年表の作成等を、年間を通じて進めた。・興福寺南円堂本尊不空羂索観音像(国宝)を描く作例の調査の一環として、京都・細見美術館所蔵の春日社寺曼荼羅(興福寺南円堂曼荼羅)について実査をおこなった。かつて言及された色紙形の和歌については現状ではほとんど視認しえなかったが、その図様の詳細を把握することができ、九条家旧蔵という伝世経緯を追認するとともに、類品中でも意義の高い作例であることが改めて理解された。・興福寺に関してはもう一つ、南都焼き討ち後の復興造営における食堂本尊千手観音像(国宝)の再興造像について検討をおこなった。両膝間の衣縁にあらわされる大きな旋転文などに古代彫刻の影響がみられるこの巨像の造像背景については従来詳解されてこなかったが、頭部内の墨書銘や像内納入品を検討した結果、解脱房貞慶の観音信仰の影響を見出し、貞慶の周辺人物の介在を推測できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実施計画では、平成23年度の最優先作業として、基盤整備を目的とした公刊資料を情報源とする資料収集とリサーチを挙げていた。これについては、当初の予想をこえる範囲・量と要検討課題の所在が把握されたため、なお次年度に委ねるべき部分が少なくないのであるが、本研究の範囲確認調査という意味ではひとまず達成しえたと考えている。 作品調査については、研究実施計画に最優先の検討対象として挙げていた京都・細見美術館本の興福寺南円堂曼荼羅の実査を、同館の協力で年度の早い段階で行うことができた。さらに同館からは、平成24年2~3月に開催の所蔵品展「麗しき日本の美─祈りのかたち─」の監修の依頼を受けるに至り、実査および本研究に関して得られた内容を展示という形に反映させることができたのは望外の成果であった。その他の作品については実査という形では計画ほどの進展はみせなかったものの、平成23年度の10~11月、根津美術館(東京都)において特別展「春日の風景─麗しき聖地のイメージ─」が開催され、春日曼荼羅の重要作例が一堂に会したのは幸運であった。研究実施計画において検討対象に挙げていた興福寺南円堂不空羂索観音像を描く作例も複数展示され、二度の訪問によって肉視による比較観察を実施することができた。南円堂本尊不空羂索観音像をめぐる既存の研究成果の統合と新たな理解の獲得という所期の計画は、以上により概ね達成し得たと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度の研究実施計画中、既公刊資料の収集と検討は、当初の予想をこえる範囲・量と要検討課題の所在が把握された。そこで平成24年度も収集とデータ入力作業を続行する。また画像データの収集と入力は、既公刊資料にもとづくインデックス的全図の蓄積から、作品の実査を含む精細な画像および部分図の蓄積に比重を移す。さらに当初の平成24年度研究実施計画のうち、長谷寺本尊十一面観音像と新薬師寺本尊薬師如来像の検討、および平成23年度の重点であった興福寺南円堂本尊像について、それらの中世における再受容・再定義の過程のうち、興福寺出身の学僧、解脱房貞慶とその周辺が関わる範囲を最優先して調査研究を進める。折しも平成24年4~7月を会期として、奈良国立博物館および神奈川県立金沢文庫にて御遠忌800年記念「解脱上人貞慶─鎌倉仏教の本流─」展が開催される好機でもあり、人文科学の諸領域において研究が活況を呈している貞慶に留意する意義は高いと考えている。 平成23年度の研究費のうち、少なからぬ額が次年度繰り越しとなったのは、上記のごとく既公刊資料による情報収集と把握を優先し重点的におこなったことが大きい(現実的な事由としては、所属先の職位の変更に伴い、当初の予定ほどには研究のための時間とスペースを確保できなくなり、年間を通じて単独による断続的な室内作業を基本とせざるをえなかったという事情も関係している)。その作業の範囲では、情報処理機器の新規導入はひとまず要しなかった。また資料収集にかかる費用に関しては、購入を予定していた図書の多くが稀覯に属し、古書価の高騰などにより入手困難なものが少なくなく、かつ大部分の情報は雑誌文献からの複写や借覧時のスキャニングによる収集によらざるをえなかったという事情も大きい。及ばなかった諸点はいずれも平成24年度の課題としたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
まず物品費に関しては、図書資料の購入を計画的におこなうほか、作品の実査をより精度の高いものとするため、撮影機材(ライティング用器具等)および情報処理用機器(スキャナ等)の導入を熟慮のうえおこないたい。 次に旅費に関しては、ひきつづき作品の実査や研修(学会、展示等)をおこなうが、実査については平成23年度の成果を踏まえて優先順位を再検討しつつ実施したい。またその際、アシスタントやアドバイザーの随行に際しては人件費・謝金を支出する。 また複写等による資料収集にかかる費用に関しては、既公刊資料に加え、作品の実査を補う手段として、既存の写真原板およびデジタルアーカイブ(いずれも作品の所蔵機関あるいは借用・展示歴をもつ機関の作成にかかるものが大部分となる)からの精細な図版/画像資料の入手を推進したい。これについては、既公刊資料に所載の図版資料によってうかがいうる限界を見極めた上で、所蔵者からの許諾を得つつおこなう。 研究成果の発表にともなう支出に関しては、発表の場となる学会・学術誌関係等の新規開拓も含めて計画的に進めたい。
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