2012 Fiscal Year Research-status Report
中近世移行期における絵巻・絵入り本の製作と大名家を中心とする受容
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23720061
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Research Institution | Kinjo Gakuin University |
Principal Investigator |
龍澤 彩 金城学院大学, 文学部, 准教授 (00342676)
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Keywords | 美術史 |
Research Abstract |
平成24年度は次のように研究を実施した。 【作品調査】「唐子遊図貝桶および歌貝・絵貝」(春日大社蔵)・「義経記絵巻」(個人蔵) 【論文刊行】①「源氏絵の『表』と『裏』―扇面画と冊子表紙絵を中心に」(『金城日本語日本文化』第八十九号1-11頁(金城学院大学日本語日本文化学会、平成25年3月1日発行)・・・さまざまな画面形式に描かれた源氏絵の中から、表と裏の両面に絵が描かれるという特色をもつ扇面画と冊子の表紙絵をとりあげ、それらの絵画表現に共通して「対照性」と「連続性」が認められることを指摘した。②「春日大社蔵「唐子遊図貝桶」および絵貝・歌貝について」(『金鯱叢書 史学美術史論文集』第三十九輯(49-63頁、徳川黎明会、2013年3月25日発行)・・・春日大社所蔵「唐子遊図貝桶」および絵貝・歌貝の特色を紹介し、貝の大きさや絵のバリエーション、歌絵との関わりなどの特色が、近世初頭の合貝の特徴を示していることを指摘した。 【学会発表】①源氏絵の諸相―「源氏物語冊子表紙絵模本」の紹介をかねて(日本語日本文化学会秋季大会 平成24年11月21日)・・・平安時代から江戸時代までの源氏絵の系譜をたどり、特に「源氏物語冊子」の表紙絵について、新出資料の模本の紹介をおこなった。②「Mastering Visions of the Borderlands: Claiming Sovereignty through Myth」(Association for Asian Studies、平成25年3月24日)・・・「Visualizing Stories of Twelfth-century Japan: Retired Emperor Go-Shirakawa’s Image Repository」と題されたパネルの中で、「彦火々出見尊絵巻」を取り上げ、その異界の表現について論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は研究段階としては半ばではあるが、論文2本の執筆と国内・海外(アメリカ)での学会発表と、研究成果を発表する機会に恵まれた。東京国立博物館所蔵の「源氏物語冊子表紙絵模本」は、中世から近世にかけての物語絵、就中冊子の表紙という特殊な媒体にどのように絵が描かれたかを知る上で重要な資料である(資料全体の紹介を行った論文は平成25年度に別途刊行)。また、調査をした「合貝」は絵本・絵入本の範疇からは外れる作例であるが、慶長六年という年記からこの時期の絵師の活動を知る上で興味深い作例であるため取り上げた。合貝の絵は、南都絵所が手がけた可能性があり、筆致や絵具の用い方は、本研究がテーマとする中近世移行期の絵巻にも通じる性質をもつ。 また、大名家の絵巻コレクションを考える上で、権力者による絵巻制作、絵巻の所持という問題に取り組む必要があるとの判断から、「彦火々出見尊絵巻」に関する研究を行った。同絵巻は江戸時代に酒井家から徳川家光に献上されたという点においては本研究がテーマとする時代に合致し、かつ、原本は後白河院の蓮華王院宝蔵の絵巻群の一つであったと考えられており、権力者による絵巻所持の一例でもある。同絵巻には異界および異界からもたらされる宝物(特別な力)の存在が描かれており、そうした物語を視覚的イメージとともに表した絵巻を所持することは、異界の力をも掌握するという象徴的な意味があるように思われる。その点で、大名家が所蔵した「酒呑童子絵巻」などにも共通する側面が見いだせる。 大名家コレクションの調査については、徳川美術館が所蔵している売立目録の調査に、同館の協力を得て着手し、順次進めている。写真で確認できる作品は少なく、得られる情報は限られているが、「平家物語」や「酒呑童子」などの絵画作品が散見され、大名家コレクションを考える一つの指標にできるとの手応えが得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、当初予定していなかったAssociation for Asian Studiesでの発表が認められたため、その準備(原稿の執筆、研究会への参加等)に時間を割くこととなった。その分、作品を実見する機会としてはできるだけ展覧会見学を活用するなどして、調査の回数を調整した。平成24年度に予定していた作品調査のうち、作品所蔵先の都合(閲覧の一時停止等)により今年度の調査が叶わなかった所もあるため、平成25年度はできる限り調査を依頼し、実行したい。平成24年度に引き続き、17世紀前半の奈良絵本の調査を行っていく。17世紀に奈良絵本の形で絵画化された物語(画題)の種類についても検討し、旧大名家を中心とする売立の目録調査も進める。売立目録については、徳川美術館が所蔵する資料の閲覧・複写を依頼する予定である。平成25年度は最終年度となるため、研究成果をまとめ、積極的に発表していきたい。現段階では、平成25年6月の説話文学会での発表を予定しており、ほか、論文の執筆等によりアウトプットをしていきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の予算は、作品調査(展覧会見学含む)の旅費(国内5カ所程度を予定)、作品の実見が叶わない場合の写真資料の購入、複写費に充てたい。また、論文をまとめるにあたり、作品所蔵先への画像掲載料、論文英訳の謝金なども見込んでいる。
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Research Products
(4 results)