2012 Fiscal Year Research-status Report
ソ連農村ミュージカル映画の巨匠イヴァン・プイリエフ研究
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23720070
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田中 まさき(池田まさき) 東京大学, 人文社会系研究科, 研究員 (30600184)
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Keywords | ソヴィエト文化 / ソ連 / 大衆文化 / スターリン時代 / ロシア / 社会主義リアリズム |
Research Abstract |
平成24年度は、研究計画にのっとり映画『クバン・コサック』の分析に取り組んだ。これは、イヴァン・プイリエフ監督によるミュージカル・コメディーの最後の作品にあたり、代表作の1本である。その点で彼の創作史上における重要性はもちろんであるが、スターリン時代を代表する映画とみなされ、広くソ連文化を考えるうえでも特筆すべき作品となっている。 この作品が当時のソ連社会で高く評価されたために、かえって後代になって映画作家としてのプイリエフに対する評価を二分する結果を招くこととなった。この作品と同時代の社会との結びつきが強かったがゆえに、56年の「スターリン批判」とその後のソ連国内における価値観の大転換とともに、『クバン・コサック』に対する客観的な作品評価もまた時代とともに遠ざけられ、結果的に、現在に至るまでプイリエフが本格的な学術研究の対象から漏れ落ちていく背景を生んだといえる。 『クバン・コサック』の分析にあたり、次のような点に注目した。第1にプイリエフが構築した世界像の独自性である。戦後スターリン時代に製作されたこの映画では、戦前から一連の娯楽作品群においてプイリエフが展開してきた作品世界の到達点が、大祖国戦争をはさむ形で示されている。これまでの研究の成果を踏まえることで、『クバン・コサック』の完成度を測ることができる。 第2にプイリエフ独特の物語手法の完成である。『クバン・コサック』は理想的社会を描出したことで、戦後ソ連の人々の目を同時代の厳しい現実から逸らし欺いたとする後世の批判を招いた一方、フィクションとしての物語は神話的な別の次元に昇華している。同時代の他の映画作家の作品と比較することでより明白となるが、実はプイリエフの場合、ソヴィエト社会の事実を物語に取り込みながらも、「ソ連的」なものを超えた普遍的な物語を志向し、成立させることに成功している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は、研究計画にのっとり、プイリエフの代表作の1本『クバン・コサック』に集中し、分析に取り組んだ。この作品は、文化研究上ならびに時代研究上において非常に特筆すべき重要な芸術作品であるにもかかわらず、これまで本格的な研究の対象からは漏れ落ちていた。研究上の空白となっていた分野において、作品の観察から見出された具体的な論点を設けることで、分析の作業を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度に取り組んだ『クバン・コサック』の分析を踏まえ、それを論考の形であらわすことを目指す。さらに、研究計画で平成25年度に予定されていたテーマである、プイリエフの遺作となった『カラマーゾフの兄弟』(ドストエフスキー原作)の映画化について分析の準備を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1.新しいパソコン機材の購入。これまでの分析を踏まえ、平成25年度に論考の形をまとめ発表をするためには、従来の機器では画像の処理作業などにおいて処理能力が劣っている。さらに、現在使用している機器は今年度中にメーカーのサポートが打ち切られる予定であるため、新しい方式に対応した機材も求められる。 2.平成25年度に予定しているテーマのために、ロシア本国から助言のための専門家を招くことを計画している。
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