2013 Fiscal Year Research-status Report
妊娠映画――身体、視覚文化、リプロダクティヴ・ライツ
Project/Area Number |
23720078
|
Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
木下 千花 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 准教授 (60589612)
|
Keywords | 国際研究者交流 / ジェンダー / 検閲 / 日本映画 / リプロダクティヴ・ライツ / 妊娠 |
Research Abstract |
9月末、オーストラリアのクィーンズランド大学の言語比較文学学部および学会"Women and the Silent Screen VII"(開催校:メルボルン大学)で"Something More Than a Seduction Story: Abortion and Entertainment in the 1930s Japanese Film Culture"と題して研究発表を行った。1935年から1937年にかけて映画女優・志賀暁子が堕胎罪で逮捕され裁かれた事件を中心として、統制と検閲強化への映画業界の対応や優生学との関わりに着目し、 映画・文学における産や妊娠の表象とメディアの言説を分析した。1937-1938年の現代劇にみられる「婚外子を(堕胎せずに)産むが、自立して幸福を得る」という物語類型を明らかにし、女性像の規範化への内務省からのプレッシャーに対する映画業界の両義的な応答として読み解いた。25年度前半はこの発表準備に費やし、国会図書館、早稲田大学演劇博物館を中心に文献調査を続け、9/5には東京国立近代美術館フィルムセンターでの志賀の主演映画『霧笛』(1935年)をはじめとした関連作品の特別映写を行った。 Women and the Silent Screen VIIでは欧米やアジアの研究者と活発に意見交換した。この学会で女性とアメリカ初期映画についての第一人者であるシェリー・スタンプ教授(カリフォルニア大学サンタクルーズ校)の知己を得、2014年1/28には首都大学東京に招聘し、産児制限、堕胎、優生学と映画の関係について講演をしていただいた。 年度後半は、溝口健二作品に関連して内務省検閲の調査を行い、志賀スキャンダルと女性の表象の分析の土台を固めた。山形国際ドキュメンタリー映画祭にも参加し、『物語る私たち』など女性監督の産や妊娠にかかわる新作に触れた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
年度後半、単著『溝口健二の映画世界』(法政大学出版局)のために1936年の溝口作品について研究・執筆する過程で、内務省の検閲台本をはじめとする新資料を発見し、具体的な検閲の内規やプロセスについて新しい事実や視点が明らかになった。そのため新しい章を設定し、150枚加筆したため、妊娠映画研究に遅れが出た。さらに、単著執筆のためSociety for Cinema and Media Studiesでの1960年代の妊娠映画についての発表をキャンセルせざるをえなかった。しかし、内務省の検閲研究は志賀暁子スキャンダルについての『妊娠映画論』第二章を支える基礎であり、今年度以降にはそのまま有効に利用できる。1960年代についての研究はドキュメンタリーやお産映画と劇映画の間ジャンル的関係をさぐるという点で日文研の共同研究(下記)として行う1950年代の研究と連続性が強く、26年度中に十分行うことができる。 現代までを視野に入れた単著の草稿を仕上げるという当初の目標は下方修正せざるをえないが、26年度中に1970年度までの日本の妊娠映画の研究を終え、単著のプロポーザルを作成して名古屋大学出版会に提出し、単著完成へのめどをつけるつもりだ。 このように溝口についての単著の研究・執筆が膨張していることが遅れの原因だが、女性の身体性、とりわけ産と映画産業や国家統制との関係という視点は本研究と共通しており、占領期の作品を「妊娠映画」として捉える第六章ではこの二つのプロジェクトが重なっている。
|
Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる今年度は、1)日本の戦後期における性教育映画や医学/科学映画のなかの産と妊娠の表象についての研究を完了し、発表する、2)映倫改組(1956年)および映倫時代の製作・配給・興行における自己規制とその抜け道について研究し、草稿にまとめる、3)『溝口健二の映画世界』第六章のGHQの検閲と妊娠映画としての溝口作品の分析の章を完成させる、4)名古屋大学出版会と「妊娠映画論」単著の企画を検討し、企画書を提出する、という四つの目標を立て、遂行する。 1)2)については、今年度国際日本文化研究センター共同研究「昭和戦後期における日本映画史の再構築」(代表:谷川建司)の共同研究員として、8/30に同センターで「映倫の成立と妊娠映画」と題して口頭発表を行う。産をめぐる(セミ)ドキュメンタリーは科学・教育映画として作られながらポルノグラフィとしても消費されたため、映倫を通さない興行が問題となり、改組の引き金にもなった。この問題について年度前半に資料収集を進め、神戸映画資料館での「お産映画」の特別映写を行い、発表の草稿にまとめる。発表後もより広範な資料収集や聞き取り調査を続け、最終的には英語版を作成し、3月のSCMSに出席して報告する。 3)は夏までを目処に進め、秋には4)のプロセスに入る。年度後半は『妊娠映画論』単著に向けて1960年代後半以降の劇映画作品の収集・分析を進める。また、教育・科学映画については東京都立図書館所蔵の16mm作品の首都大学東京での上映・分析も行うことを予定している。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
春休み中に単著『溝口健二の映画世界』第四・五章を終わらせるため、シアトルで2014年3月に開催されたSociety for Cinema and Media Studiesの年次大会の査読をとおり発表予定だった"The Public Fetus and Private Fantasy: Imaging Technology and Representations of Women's Reproductive Functions in the 1960s Japanese Cinema"をキャンセルしたため。 1960年代の科学映画・教育映画における産と妊娠の表象についての研究を進め、新たな研究発表として2015年度年次大会(モントリオールで開催)に応募し、発表する。
|
Research Products
(4 results)