2012 Fiscal Year Annual Research Report
近世武家社会における軍書の成立背景に関する基礎的研究
Project/Area Number |
23720102
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
山本 洋 金沢大学, 国際機構留学生センター, 准教授 (50583168)
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Keywords | 軍書 / 軍記 / 関ヶ原軍記大成 / 陰徳太平記 / 吉川家 / 毛利家 / 黒田家 |
Research Abstract |
本研究の第一段階として、『陰徳太平記』『関ヶ原軍記大成』『南海通紀』に引用されている書状類の出典に関する調査を行った。これらの軍書についてはいずれも岩国藩吉川家が、自家の家格の宣伝を目的として編纂に関与していたことをすでに明らかにしていたが、本調査の結果、とりわけ『関ヶ原軍記大成』に掲載されている書状類が吉川家の関ヶ原合戦における内通の正当性を主張する性格を帯びていることが確認できた。 次に、第二段階として、岩国藩、萩藩、福岡藩の藩政史料を中心に、藩の役人と軍書の著者の間でかわされた書状や藩の記録類の調査・分析を行った。そして、第三段階では、第二段階において収集・調査した史料をもとに、近世軍書が成立した経緯・背景について当時の社会・政治状況との関連から分析を試みた。 その成果の一つとして『関ヶ原軍記大成』を例にあげると、岩国藩に現存する史料から藩が吉川家の事績の書き入れを依頼するため、『関ヶ原軍記大成』の作者に吉川家の由緒書を送っていたことが確認できるが、福岡藩側の藩政史料の調査の結果、吉川家から送られた覚書や書状類が実際に現存することが明らかになった。すなわち、送った側、受け取った側双方の史料から裏付けがとれたわけであり、軍書の著者に対する工作の経緯、ならびに全体像についてもかなりの部分が明らかになってきた。『関ヶ原軍記大成』はその性格上、当該期の大名家にとっても単なる読み物として無視できない存在であったことは、本書が結局板行されずに写本として流布したことからしても想像に難くないが、岩国藩が『関ヶ原軍記大成』に自家の書状類を掲載させた背景には、近世軍書が単に読み物としてではなく、実際に大名家の「家格」にまで影響を及ぼしうるメディアとしての役割があったことを考慮する必要があろう。なお、本研究を通して新たに見つかった史料に関しては、本研究からの発展的な課題として準備を進めている。
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Research Products
(3 results)