2013 Fiscal Year Research-status Report
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23720107
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Research Institution | Nara University of Education |
Principal Investigator |
中谷 いずみ 奈良教育大学, 教育学部, 准教授 (10366544)
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Keywords | 原水禁署名運動 / 1950年代 / 日本教職員組合 / 大田洋子 / 生活記録運動 / 母の歴史 / 国民的歴史学運動 / 二十四の瞳 |
Research Abstract |
2013年度は、「反戦平和言説とジェンダー」について1950年代の資料調査・収集、データベースの作成を進めた。また、収集した資料と同時期に発表された大田洋子の小説『夕凪の街と人と― 一九五三年の実態』に基づき、1950年代における原水爆禁止署名運動と女性表象との関わりについて分析した。その成果は、「〈未来〉の諸相――原水爆禁止署名運動とジェンダー」として著書『その「民衆」とは誰なのか』(青弓社、2013年7月)に収めた。同書には、2010年に発表した日本教職員組合婦人部の平和運動と映画「二十四の瞳」を取り上げた論文を加筆修正し、「泣く「女」たち―「平和」の語りとジェンダー」として掲載した。これも本課題の成果を含むものである。 また、反戦平和運動のみならず、同時代の労働運動や文化運動とジェンダーとの関わりについても調査・分析を進めた。広く「運動」をめぐる言説と女性表象との関わりからアプローチすることを研究計画に組み込んでいたが、2013年度は特にそこに力点を置いた。2013年11月には、戦後文化運動合同研究会で「生活記録と〈運動〉」と題するシンポジウムを企画し、女性が主体となった1950年代の生活記録運動が、他のサークル運動とどのような関係にあるか、どのように引き継がれたか等について議論を行った。その成果は『クァドランテ』16号(2014年3月)で報告した。また発表済みだった論文を加筆修正し「「私」を綴る「人びと」―一九五〇年代における「綴方」」と題し前掲著書に収めた。研究計画に記した「母」の表象の分析については、2013年12月の日本近代文学会国際研究集会で、「歴史の〈当事者〉を求めて――国民的歴史学運動における「母」と「民族」」と題し、1950年代の国民的歴史学運動の「母の歴史」運動をめぐる言説の調査分析結果を報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
資料調査・収集は概ね良好に進んでいる。データベースへの整理が予定よりも少し遅れ気味であるが、2014年度に取り戻すことができると考えている。また、それらの資料を基に、反戦平和語りの形式の変遷と運動主体としての女性表象の形成と受容に関する分析を進めてきた。それらについては研究実績の概要欄で示したように「〈未来〉の諸相――原水爆禁止署名運動とジェンダー」「泣く「女」たち―「平和」の語りとジェンダー」など、著書『その「民衆」とは誰なのか』で広く公表済みである。 また、研究計画に記した「母」の表象と反戦平和言説との関連についての研究は、その一部を日本近代文学会で報告した(「歴史の〈当事者〉を求めて――国民的歴史学運動における「母」と「民族」」2013年12月)。そこでは、国民的歴史学運動による「母の歴史を書こう」運動など、「母」が被抑圧的存在の象徴として語られると同時にナショナリズム的枠組みを形成していく過程を追いながら、国民国家の歴史の主体として「女性」が表象されていくことについて分析を行った。この「母」の表象が反戦平和言説における女性表象と繋がるものであることはいうまでもなく、本課題の成果である。 以上、反戦平和言説とジェンダーに関する研究は、おおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2014年度は最終年度にあたるので、収集できた関連資料のデータベースを完成させる予定である。また、以下に重点を置いて研究を進めていきたい。 まず、サークル誌における女性の書き手と反戦平和についての研究を進めていきたい。生活記録サークルの雑誌について研究してきたが、反戦平和言説との関わりについてはまだ調査中である。2014年度は引き続きこの課題を進めることとしたい。 次に、これまでの個々の成果から見えてくる新たな問題の研究に着手したい。2013年度までの研究で「運動」における女性表象の定型が浮き彫りになってきたが、その表象をめぐる社会構造を分析するためには、社会的政治的文脈と男性運動者たちの表象について考えなければならない。そのことに関連して分かってきたことは、セクシュアリティ研究も含めたジェンダー批評の成果をより積極的に取り入れていく必要があるということである。これまでも言説研究や運動研究、文学研究の方法とともにジェンダーの観点を組み込んできたが、本課題を更に発展させるためには、より広範な意味でのジェンダー批評の成果をいかすことが必要である。それらにおける現代的課題へのアプローチ方法を意識しつつ、戦後の社会的政治的文脈と「運動」、そして運動主体としての女性表象・男性表象の定型化について考えていくこととしたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
年度末の時期に調査を予定していたが、校務等で日程調整がうまくいかず、遂行できなかったため。 資料調査に使用する予定である。
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Research Products
(4 results)