2013 Fiscal Year Research-status Report
近代英国小説史における作者の身体表象の研究:十八世紀小説を中心に
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23720135
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
武田 将明 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (10434177)
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Keywords | Jonathan Swift / Daniel Defoe / 18th century fiction / author and fiction |
Research Abstract |
2013年度の前半は、『「ガリヴァー旅行記」徹底注釈』の完成に力を注ぎ、8月に無事に刊行した。これは原田範行氏(東京女子大学)、服部典之氏(大阪大学)との共著であるが、これは注釈だけで593頁にわたる大部の著作であり、私はその三分の一強を執筆した。また、2014年5月に刊行予定の『名誉革命とイギリス文学』(冨樫剛編)に「名誉革命とフィクションの言説空間――デフォー作品における神意(プロヴィデンス)の事後性」という論考を寄稿した。いずれの研究業績も、本研究で得られた知見を応用して完成させることができた。 また、現在発表媒体を模索中であるが、2011年の東北大学での集中講義、および2012年の高知大での集中講義をもとに、「小説の機能」という標題の長い論考を書きはじめた。この論考では、十八世紀イギリス小説において、作者と登場人物との関係が今日では想像もできないほど複雑であったことに注目することで、近代小説の特質を新たな見地から明らかにするものである。現在のところ、『ロビンソン・クルーソー』に関する章を完成させている。 その他、2014年5月に刊行予定の『イギリス文学入門』(三修社)では、イギリス18世紀の作家紹介の多くを担当し(上述の作家はすべて私が担当した)、「分人主義と小説の未来ーー平野啓一郎論」では、平野啓一郎が提唱している「分人」という概念が、『ロビンソン・クルーソー』以降の近代小説史の流れのなかでいかなる意味をもつかを考察している。 なお、2013年12月から2014年1月にかけて、アメリカ合衆国ロサンゼルス近郊にあるハンチントン・ライブラリーにて、デフォーとスウィフトの手稿を集中的に読んだ。まさに作者の身体に触れるような経験で、研究上の発見も多数あった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年度はじめの計画では、2013年度はローレンス・スターンの文学を研究する予定であったが、この方面では研究発表や学会論文の形では成果発表ができなかった。ただし、『イギリス文学入門』でスターンの作家評伝を執筆する際、この作家に関する伝記的な知識を深め、最新研究を読むこともできたので、2014年度には何らかの研究成果を発表できるはずである。 このように残念な点もあったものの、18世紀小説における作者の身体表象をめぐる考察を深めるという点では、十分に成果を挙げることができたと思う。たとえば、『「ガリヴァー旅行記」徹底注釈』では、『ガリヴァー旅行記』の肖像について詳しく考察した際、作者と作品との関係を再考する本研究の視点が大いに役立った。また、「名誉革命とフィクションの言説空間」では、デフォーの時代の政治をめぐる論争がいかに著者自身のイメージと関わっているかに触れる際、本研究に関連して調査していた内容が大いに役立った。 さらに、「小説の機能」という論考では、作者と作品の関係について、本研究の視点をさらに進める形で議論を行っている。これも現在完成しているのはデフォーに関する章までだが、同じ視点で本研究の取りあげる他の作家も分析可能である。 本研究の成果の応用という観点では、平野啓一郎の文学を論じるに当たり、日本の現代文学においても作者と作品との関係は重要な問題であることを確認できた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は本研究の最終年度なので、上述の「小説の機能」という研究論文を書き進め、成果をまとめる年にしたい。スウィフト『ガリヴァー旅行記』、リチャードソン『パミラ』、フィールディング『トム・ジョーンズ』およびスターン『トリストラム・シャンディ』について書き進めるための構想ができている。 海外での研究発表は、2013年には韓国で平野啓一郎の作品に関する発表を行ったものの、18世紀イギリス文学に関するものがなかったので、国際18世紀学会での成果発表を目指すことにした。その前段階として、2014年に日本18世紀学会の年次大会(6月22日)のシンポジウムで発表することになっている。また、同時期(6月21日)には、日本英文学会関東支部のユートピア表象をめぐるシンポジウムに登壇し、スウィフト『ガリヴァー旅行記』をルソー『社会契約論』と比較しながら論じる。さらに、6月27日には、東京大学駒場キャンパスで開かれる、日米中の作家・研究者の会合にて、デフォー『ペスト』に関する研究発表が予定されている。いずれの発表も、できれば今年度に論考としてまとめることにしたい。 研究計画では、19世紀はじめに活動したスコットとオースティンまでを研究の射程に入れているので、18世紀から19世紀に移行するに当たり、小説における作者の位置づけがいかに変化したのかについて、Homer Obed BrownのInstitutions of the English Novel (University of Pennsylvania Press, 1998)などの先行文献を参照しながら新たな研究の方向性を模索したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
年度末に一部の図書の納品が遅れたため、残額が発生した。 該当する書籍は平成26年4月に入荷済なので、残額は全額使用する予定である。
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Research Products
(9 results)