2012 Fiscal Year Research-status Report
大戦間期ガリツィアのポーランド系ユダヤ人作家、画家の芸術思想的系譜とモダニティ
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23720174
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
加藤 有子 東京大学, 人文社会系研究科, 助教 (90583170)
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Keywords | ポーランド文学 / ポーランド文化 / ガリツィア / 中欧 / ユダヤ人の文化 / 表象文化論 / 比較文学 / モダニズム |
Research Abstract |
2012年は両大戦間期のユダヤ系ポーランド語作家であり画家、ブルーノ・シュルツの生誕120周年・没後70年にあたり、各地で開かれた記念シンポジウムや学会に参加した(ドロホビチ、シカゴ、パリ)。シュルツ作品に関する研究発表を行ったほか、研究者と最新の研究情報を交換した。シュルツ研究の国際雑誌『シュルツ/フォーラム』(ポーランド語)が今年から刊行され、2号から、企画編集委員に名を連ねている。12月には東京でシュルツの作品をめぐるシンポジウムを企画し、世界的にも貴重なシュルツのガラス版画のオリジナル作品を日本では十数年ぶりに公開した。このときの報告内容などは、2013年度前半期に書籍として刊行する予定である。 夏には、ポーランドの国際文化センターと在東京EUインスティチュート(東京外国語大学)共催による、研究者向けの第三回国際移動セミナー「クラクフからミンスクへ―ヨーロッパ東部境界地域の共有遺産研究」に参加し、旧ポーランド領ベラルーシを回った。ポーランド時代の文化が現在のベラルーシでいかに保存され、記録されているか、資料では知りえない最新の現状を見ることができた。ガリツィアを含む、旧ポーランド東部国境地帯の文化の記憶をめぐるより大きな研究につなげていくつもりだ。 3月には東京で開かれた日本学術振興会助成の世界文学をめぐる国際研究集会に組織委員として関わり、本研究課題にも関連する、両大戦間期ポーランドのイディッシュ語文学やポーランド文学の専門家を呼び、研究上の情報交換をした。 両大戦間期のガリツィアのユダヤ系作家に対する影響として、ポーランドではエルンスト・ヘッケルの書物のポーランド語圏における受容を調査し、ユダヤ系ポーランド人で、未来派詩人からソ連作家に転じたブルーノ・ヤシェンスキの小説の版の比較、各国語翻訳の比較を行った。パリの図書館ではシュルツに関する新資料を調査した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画作成時には想定していなかった視点を得て、研究が進んだ。サイードのオリエンタリズムの文脈で、旧オーストリア領ガリツィアを論じる歴史研究(Wolff, 2010)の成果を踏まえ、両大戦間期のイディッシュ語作家やポーランド語作家、現代ポーランド作家の作品に、従来の辺境としての「ガリツィア」像を崩すような世界像を指摘する研究をまとめ、論文、口頭で発表した。両大戦間期ポーランドをポーランド語圏を越えて再検討するシンポジウムで発表する機会にも恵まれ、そこでの議論を通して、ガリツィアを20世紀初頭のモダニズムの流れのなかで再考する研究も、個々の作家に即して進めることができた。 2012年の記念年に際して学術的催しが世界各地で相次いだシュルツ研究に関しては、研究誌の委員に名を連ねるなど、研究の国際的なネットワークがかなり構築されつつあると自負している。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、長期休暇などを利用し、ポーランドの図書館で、19世紀から20世紀初頭にかけてのポーランド語圏における隣接国からの科学、疑似科学、文学、視覚文化の受容の調査と資料収集を行う。戦間期ポーランド前衛文学を、同時代のヨーロッパの科学、視覚文化の文脈で再考する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
拙著を章ごとにポーランド語に翻訳中であり、その校閲・翻訳協力が年度にまたがって進行中である。そのため、校閲謝金が繰り越しになった。今年度、翻訳を完了し、その謝金として繰り越して支出する予定。 今年度の研究費は、主に、1,2度を予定している短期ポーランド出張・資料収集にあてる。ワルシャワに2013年オープンしたポーランド・ユダヤ人歴史博物館の見学もこの渡航で予定している。
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