2011 Fiscal Year Research-status Report
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23720238
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Research Institution | National Institute for Japanese Language and Linguistics |
Principal Investigator |
儀利古 幹雄 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所, 理論・構造研究系, プロジェクト研究員 (00580028)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | アクセント / 平板化 / 平板型アクセント / 言語内的要因 / 形態音韻論 / 社会言語学 / 音韻論 |
Research Abstract |
平成23年度の研究実績としては主なものとして、外来語複合名詞アクセントの平板化に関する研究成果の発表と、東京方言話者に対する漢語複合名詞アクセントの発話調査の実施が挙げられる。研究実施計画では、23年度中に外来語複合名詞アクセントの平板化に関する調査を終える予定であったので、それと照らし合わせると少し早いペースで研究は進んでいると言える。 外来語複合名詞アクセントに関する調査では、まず、若年層を中心としてアクセントの平板化が確かに進行していることが確認された。しかし、若年層の発話であればどのような外来語複合名詞でも一律にアクセントの平板化が進行するわけではないことも明らかになった。具体的には、語末が撥音「ん」である外来語複合名詞(例:フランスパン)は平板化が進行しているが、語末が長音「-」である語(例:カクテルバー)は、たとえ若年層の発話であっても平板化は観察されない(平板型アクセントで発音されるようになることはない)。これこそがアクセントの平板化に関わる言語内的要因(言語構造的要因)であり、その影響力は、年齢といった言語外的要因(社会的要因)よりも大きいことも確認された。この発見は、アクセントの平板化という言語変化現象を言語外的要因にのみ重きを置いて分析してきた先行研究に対し、一石を投じるものである。 漢語複合名詞アクセントの平板化に関する発話調査では、まず、全ての語が一律にアクセントの平板化を起こしているのではなく、特定の後部要素を持つ漢語複合名詞においてのみ平板化が顕著に観察されることが明らかになった。具体的には、「町」「会」「祭」などを後部要素とする複合名詞においてアクセントの平板化は顕著に観察される(例:末広町、連絡会、文化祭)。今後はこれらのような語のアクセントを集中的に調査して、そこに関わる言語内的要因を明らかにしていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
外来語複合名詞アクセントに関する発話調査が当初の計画より早く終了したのが、研究の進捗状況を順調なものとしている。そのおかけで、外来語複合名詞アクセントの平板化に関する研究成果をいち早くまとめることができた。また得られた結果も、当初想定していた仮説通りのもの(アクセントの平板化には言語外的要因以上に言語内的要因も大きく影響を及ぼす)であり、その意味においても本研究は順調に進捗していると言える。 また、24年度から開始する予定であった漢語複合名詞アクセントの発話調査に23年度中に着手できた。さらに、「町」を後部要素とする複合名詞のアクセントの平板化については24年度6月には国内学会で発表できる段階まで仕上がっている。漢語複合名詞アクセントの平板化に関する調査はその対象とする語数が多いため、外来語のときのように迅速に進まないかもしれないが、現時点では当初の計画よりは進捗していると言っていい。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度は、当初の計画の通り漢語複合名詞アクセントの平板化の実態を探るべく、発話調査を中心として研究を進捗させる。ただし、23年度中の調査により、漢語複合名詞はアクセントが平板化するものとしないものの差が激しいことが明らかになっており、この事実を踏まえ、ある特定の漢語を後部要素として有する複合名詞に特化して発話調査を進める。具体的には、「町」「会」「祭」を後部要素として有する漢語複合名詞に焦点を当てる(例:末広町、連絡会、文化祭)。これらの語について集中的に調査するだけでも、十分に本研究の目的は遂行できると考える。なぜなら、「町」を後部要素とする複合名詞の調査はすでにほぼ完了しているが、そこにもやはり言語内的要因の干渉が少なからず観察されたからである。すなわち、若年層の発話においても、ある特定の言語構造を有する町名だけがアクセントの平板化の対象となっているのである。 また研究成果を随時国内学会、国内専門誌において発表していく。具体的には、6月に開催される日本言語学会全国大会での口頭発表、8月に開催される音韻論フォーラム2012での口頭発表、『音韻研究』『音声研究』『国立国語研究所論集』への論文投稿を予定している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
23年度は支出が少なかったが、取りも直さずそれは統計ソフトをまだ必要とする段階ではなかったためそれらの購入を控えたこと、書籍の購入を控えていたこと、以上の2点による。次年度は、23年度および24年度の調査で明らかになったアクセントの平板化に関わる要因間の影響力の差を統計的に分析する必要が出てくるため、当初の計画の通り統計処理ソフト(SPSS)を購入する。また、アクセントおよび言語変化に関する知識を深め、研究成果をより実りあるものとするため、関連書籍の充実を図る。 また、アクセントの知覚の方面から平板化に関する知見を得られる可能性も出てきたため、その研究に必要な器具を新たに購入する必要もある。 さらに、次年度は学会で発表する機会が増えるため、23年度よりも研究費の多くを旅費に充当していきたいと考えている。
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Research Products
(3 results)