2012 Fiscal Year Research-status Report
用法基盤モデルに基づく前置詞の文法・談話機能の研究:文法化と意味拡張の認知的基盤
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23720244
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
大谷 直輝 埼玉大学, 英語教育開発センター, 助教 (50549996)
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Keywords | 認知言語学 / 前置詞 / 多義性 / 身体性 |
Research Abstract |
平成24年度は研究計画の2年目として、主に、1年目に行った、英語の前置詞の三種類の機能(文法・談話・直示)の記述を発展させて、前置詞の機能が、前置詞の中心的な空間的意味から抽象的な意味を介して、派生する過程を身体性の観点から説明した。 平成24年度に行った研究は、以下の5点にまとめられる。 第一に、一つの語が複数の意味や機能を持つとはどういうことかという、語彙が持つ多義性に関して再検証を行った。具体的に言うと、先行研究において論じられてきた、具体的な意味から抽象的な意味への拡張だけでなく、具体的な意味から機能への拡張を論じることの重要性を、前置詞の機能を例にして論じ、認知言語学会で口頭発表を行った。第二に、垂直関係を表す前置詞(up-down, over-under, below, など)を例にして、日常での上下に関する様々な経験が、前置詞の文法機能を動機づけている点を明らかにし、認知言語学会でワークショップを行った。第三に、条件節の主要部となるunderの文法機能が、何かの下に居るという具体的な経験に基づいて、空間的な意味から広がっている点を、overとunderの意味拡張の非対称性を通じて明らかにした。第四に、前置詞の副詞的な用法(=不変化詞)が持つ完了用法に注目して、不変化詞による完了と文法的なhave完了の比較を通じて、不変化詞の完了は目的語指向であり、目的語が表す指示物の最終状態を表す点を論じた。 また、第五に、方法論に関しては、本研究の理論的な背景となる認知言語学と方法論となるコーパス言語学の学際的な研究の可能性に関する論文「コーパスと認知言語学」を執筆した。 また、以上の成果を応用した2つの研究を行った。まず、23年度に引き続き、コロケーション辞典の執筆を行い、次に、埼玉大学で25年度から導入予定のオンラインの英語教材CALL4の執筆を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、研究計画の2年目である。計画書では、2年目以降の計画として、第一に、言語構造の非対称性とその認知的な基盤を分析する、第二に、前置詞の文法機能・談話機能とその認知的な基盤を分析する、第三に、研究成果を用いて言語学や英語教育へ応用する、という3つの具体的な目標を挙げている。 まず、一点目に関しては、垂直関係を表す前置詞の対を考察することで、反意語間の非対称的な振舞いを明らかにして、その振る舞いが、「上」「下」に関する非対称的な経験を反映している点を論じた。また、この上下の非対称的な経験が、意味の拡張だけでなく、文法機能の定着にも深く関与している点を明らかにした。 次に、二点目に関しては、前置詞が持つ文法・談話機能をいくつか取り上げ、具体事例の分析を行った。代表的なものには、不変化詞の完了用法、above・beyondの間接否定、underの仮定法を導く導入部の主要部としての用法などが挙げられる。また、具体的な事例研究を通じて、文法機能や談話機能の定着にも、身体的な経験が深く関与している点を明らかにした。 最後に、三点目に関しては、認知言語学を定量的に行うための方法論に関して「コーパスと認知言語学」(25年度出版予定)を執筆し、量的な言語分析の方法論の紹介を、研究者向けに行った。また、研究成果の教育的な応用に関しては、特に、日常的な言語使用の用法に着目した、コロケーション辞典の執筆と、グローバルな人材を育成することを目的とした英語教材の開発を行った。 以上のように、一点目と二点目に関しては、順調に研究が経過している。また、三点目の応用的な研究に関しても、研究が始まっており、最終年度の25年度に向けた準備が進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画最終年度である25年度は、過去二年間の成果に基づき研究を完成させることを目的とする。まず、23-24年度に引き続き、これまでほとんど注目されてこなかった前置詞の文法機能の記述を行い、その振舞いを動機づける基盤の考察を行う。また、これらの現象を論じることで、認知言語学、談話機能言語学、コーパス言語学の学際的な分析を行うための研究方法を示す。まず、認知言語学と談話言語学の学際的な研究としては、underの文法機能の認知的基盤を論じた研究を、『English Linguistics』にて発表を行うことで、認知言語学的な視点を取り入れた談話・文法機能の研究方法を示す。次に、「コーパスと認知言語学」の改訂を通じて、理論としての認知言語学と方法論としてのコーパス言語学を統合した学際的な研究の方法を示す。 また、前置詞の機能や意味に関しては、継続して記述・説明を行う。さらに、前置詞の振舞いを動機づける上で重要となる、人間の世界の認識の仕方に関しても、身体性の観点から考察を行う。特に、overとunderの支配的意味に見られる非対称的な特徴に注目した論文を執筆して、国内外の学会にて発表を行う。 最後に、本研究で得られた知見を生かした応用的な研究を行う。まず、現在執筆に参加しているコロケーション辞典では、大量の発話された言語データに基づいた用例の収集を行う。また、辞書の意味記述に関しては、複数の意味を動機づける認知的な基盤に注目した記述を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(6 results)