2011 Fiscal Year Research-status Report
12~16世紀の南シナ・東南アジア海域におけるイスラーム系集団の移動と文化変容
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23720345
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
向 正樹 大阪大学, 文学研究科, 招へい研究員 (10551939)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 交流史 / 南シナ海 / 東南アジア / イスラーム / 海域アジア |
Research Abstract |
[1] 海外での調査(1)中国イスラーム碑文および関連史蹟の調査:(1)北京(7月)…国際学会WHA(世界史学会)に出席、パネル(Reconsidering Early Age of Commerce)を主催、7~9世紀のソグド人、13・14世紀のペルシャ系イスラームの中国における活動について意見交換。北京市牛街モスクにて、元朝時代のアラビア碑文調査。北京西郊外房山の雲居寺および元朝時代のキリスト教寺院十字寺跡調査。(2)西安(8月)…陝西師範大学に短期滞在。元・明朝時代より、福建とイスラーム教徒間の人的交流があったとみられる西安市の化覚巷地区の清真大寺における碑文調査。現地ムスリム研究者との情報交換、陝西省歴史博物館見学を行う。滞在中山西省太原市を訪問、清真古寺にて碑文調査。(2)パリ・ロンドン・トロント訪問(2~3月):(1)パリ…フランス国家図書館にて14~15世紀のアラビア語・ペルシャ語古写本の調査、文献複製を行う。また、パリ第四大学Ludvik KALUS教授とイスラーム碑文や写本の印報交換、同教授が中心となって運営するスラーム碑文のオンラインデータベース(URL=http://www.epigraphie-islamique.org)について最新情報を入手する。(2)ロンドン…大英図書館にて14~15世紀のアラビア語・ペルシャ語古写本の調査を行う。(3)トロント…国際学会AAS(アジア学会)にて報告。[2]海外調査の準備および成果のとりまとめ(1)中国調査で集積した各地の漢語・アラビア語碑文の電子テキスト化を継続。(2)パリやロンドンで収集した写本史料のテキストの比較校訂を継続。(3)インドネシア・イスラーム史についての英語・オランダ語文献収集(とくに碑文関連)およびオランダ統治期ジャワ発行の『考古学報告』(OV)掲載のマイクロフィルム・リストの整理を開始。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、12~16世紀の南シナ・東南アジア海域において、アラブ・ペルシャ系移民の移民先での通婚や文化接触を通じ形成された、各地のイスラーム系集団の多様性や一体性を、当該海域各地で出土した多言語イスラーム碑文(アラビア・ペルシャ語・漢語等)相互の比較研究により探るものである。現在、フランスのLudvik Kalus教授がイスラーム碑文のオンラインデータベース公開を開始し、イギリスのGeorge Lane教授が中国杭州の新たなアラビア語・ペルシャ語イスラーム碑文の研究を発表し、わが国では四日市康博氏らの研究グループがイランで新たな文書史料の調査を進めている。これらの関連研究の進展により、本研究にとって多大な便宜がもたらされることになった。と同時に、とりまとめるべき情報量、こなすべき基礎作業も大きく増加しており、本来の作業計画やタイムスケジュールにも変更を余儀なくされている。本研究では、この集団の当該海域内での移動経路を、碑文の情報と他のアラビア語・漢語文献の情報とを照合しつつ探り、推定結果をマッピング(地理情報化)することで、各地のイスラーム系コミュニティ間の歴史的連関性を探る。本研究を通じて、海域イスラーム系集団の広域にまたがる活動実態を実証的に提示し、前近代アジア海域史の空白を埋めることを目的とする。
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Strategy for Future Research Activity |
近年、本研究と密接に関連する研究領域に大きな進展がみられるため、次のような点にさらに力を注いでいく。(1)国内外の関連研究グループとの連携の強化、情報のさらなる共有につとめる。とくにLudvik Kalus教授とのイスラーム碑文のオンラインデータベースの更新状況を随時確認する。本データベースには一部地域の碑文のデータが未入力であるなど、利用にあたって確認すべき事柄も多く、直接の情報交換が欠かせない。George Lane教授はイスラーム碑文研究の分野をリードする研究者となりつつある。また、中国でも、2012年内にGeorge Lane教授を招いて中国イスラーム碑文研究のシンポジウムを開催予定である。これらの方面との連携をはかっていく必要がある。わが国の四日市康博氏らのモンゴル帝国期イランの多言語文書史料研究グループともすでに密接に協力しあっているが、今後も共同で研究会合を開くなどして連携をはかっていきたい。(2)研究成果のアピール本研究は国外での関心が相対的に高いため、国際的な学界での研究成果のアピールが重要である。今後、中国などから新たに関連分野に参入する動きも予測されるため、本研究のプライオリティやオリジナリティを国際的な場でアピールしていく必要がある。2012年4月末にソウルで開催される国際学会AAWH(アジア世界史学会)、8月に天津で開催される元史研究会などで発表し研究成果の周知につとめる。また同時に、新規参入者との研究視覚の差別化もはかっていく必要がある。ディアスポラ論については人類学・社会学などの研究を参照し精緻化をはかる。また比較史の観点から、アラビア海のキリスト教徒コミュニティー、中国におけるソグド人コミュニティー、東南アジアの中国人コミュニティーの研究者との意見交換、共同研究にも手を広げ、より広い世界史的見地から本研究の成果を位置づけ直したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
[1]インドネシアでの碑文・史蹟調査:(1)ジャカルタ…考古局(Oudheidkundig Dienst)を訪問する。考古局所蔵アラビア語イスラーム碑文写真マイクロの調査およびインドネシア出版のイスラーム関連書籍購入。(2)グルシッ…マウラナ・マリク・イブラヒムの墓碑および関連史跡調査。(3)マジャパヒト…マジャパヒト王国遺跡出土のジャワ人ムスリム墓碑の調査。[2]国内外での研究成果発表、イスラーム碑文分析結果についての意見交換(1)国内…中国イスラーム碑文のテキスト・年代・デザインに基づく分類:申請者のこれまで収集したデータをもちいて、碑文冒頭や内容のなかでどのようなイスラーム経典の章句が選択されているかを比較する。また、これらの諸特徴を持つ墓碑がいかなるグループを構成するのか、時期や被葬者の身分などとの関連を探る。(2)国外…中国イスラーム碑文と他地域のイスラーム碑文の比較:中国イスラーム碑文とシリア・パレスチナ、トランスオクシアナなど他地域のイスラーム碑文のテキスト面での共通性・類似性を分析。パリのLudvik Kalus教授、ロンドンのGeorge Lane教授を訪問し、アラビア語・ペルシャ語テキストの読解について意見交換を行う。また両教授と共同での成果発表などについて打ち合わせを行う。また、研究成果を8月に天津で開催される予定の元史研究会にて報告。
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Research Products
(2 results)