2012 Fiscal Year Research-status Report
12~16世紀の南シナ・東南アジア海域におけるイスラーム系集団の移動と文化変容
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23720345
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
向 正樹 大阪大学, 文学研究科, 招へい研究員 (10551939)
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Keywords | ディアスポラ論 / イスラーム / 移動 / 文化変容 / 海域史 |
Research Abstract |
平成24年度は、本研究のテーマに関係する国際学会とその関連刊行物での情報収集と研究成果発表の機会に恵まれた。 4月に韓国ソウルでのアジア世界史学会(AAWH)、8月に中国天津での元史国際会議、12月にインド・コルカタでのアジア太平洋学会(IAAPS)と、本研究推進のための情報交換や成果発表のために非常に重要な学会が開催され、ディアスポラや石刻資料をテーマに報告し、討論を通じて理論面・ファクト面について有意義な情報交換ができた。 くわえて学会参加と並行し、学会に同席した関係分野の研究者や現地研究者からアドバイスを得ながら現地調査を行い、多くの情報を収集することができた。具体的には8月に、泰山・開封・洛陽・万栄県・西安での宋・元・明代史蹟・石刻調査を行い、12月、コルカタ博物館にて古代インドの石彫美術や現地のイスラーム教、ヒンドゥー教寺院の調査を行った。 本研究に関連する成果としては、「従福州到杭州―元代初期江南行省官員忙兀台対南海貿易的影響(1274-1290)」(『馬可波羅遊歴過的城市』)、「モンゴル帝国の海上進出を読み直す」(『ふびと』64)、「詳しく学ぶ世界史教材 モンゴル時代の世界の一体化と交易ネットワーク」(『大阪大学歴史教育研究会 成果報告書シリーズ』6)、「モンゴル・シーパワーの構造と変遷-前線組織からみた元朝期の対外関係-」(『グローバルヒストリーと帝国』)などを投稿・寄稿し今年度内に刊行された。 これらの研究実績は,やや理論先行的なディアスポラ論とファクトファインディングに陥りがちな文献史学とを互いに補い合うという本研究が掲げる目標にとって大きな意義があり,グローバルな視点からの歴史学を一歩進める重要な成果であるといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究目的から最も大きく変更を強いられた点は、主として次に述べる海外調査の内容である。交付申請書に従えば、平成24年度にインドネシアでのイスラーム碑文調査を実施するはずであったが、協力者とのスケジュール調整の結果、本調査は翌25年度に実施することとなった。 一方、平成25年度に予定していたシリア・パレスティナでのイスラーム碑文調査は、現地情勢が依然として予断を許さず、現段階では実施を見送る方針である。ただ、平成25年度には、すでに収集した中国(楊州)のイスラーム碑文の訳注作業のため渡仏し、専門家と意見交換を行う予定もあり、従来からイスラーム碑文研究の拠点であったパリの研究機関・博物館に収蔵されるシリア・パレスティナ地方出土の碑文を調査することも可能であるため、上記変更がもたらす遅れを挽回することは十分可能であろう。 収集したイスラーム碑文の分析については、とくに楊州の碑文の訳注作業に集中して成果を挙げつつあり、平成26年度以降に出版予定の当該分野の論集に寄稿する準備が進んでいる。平成24年度には、本研究の成果を部分的に反映させた論文・著作の発表が相次いだ。全体的に見れば、順調に計画は推移していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
申請者がこれまでに進めてきたイスラーム系集団の移動と文化変容の実態についての(1)基礎研究(文献資料、現地史蹟の調査など)をさらに進めつつ、(2)そこに比較史の観点を加え、現時点で構築可能な全体的な歴史像を国内外の学界および教育界に向けて提示することを目的とする。具体的には、現地調査によるイスラーム石刻テキスト情報収集およびその解読と整理,揚州の漢語・ペルシャ語・アラビア語イスラーム碑文の訳注研究,オランダ統治期ジャワ発行の『考古学報告』(OV)掲載マイクロフィルム・リストの整理,を継続する。同時に,近年の国内外の研究成果を積極的に吸収し,申請者が分担執筆する一般市民向けのミネルヴァ書房の世界史叢書第2巻『グローバル化の歴史的変遷』担当部分の原稿に本研究成果の一部を反映させる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費を使用して、以下の海外調査を実施予定である。 8月~9月 深見純生(桃山大学)・山内晋次(神戸女子大学)・四日市康博(早稲田大学)・冨田暁(大阪大学)らとインドネシア現地調査…グルシッにて、マウラナ・マリク・イブラヒムの墓碑および関連史跡調査、マジャパヒトにて,マジャパヒト王国遺跡出土のジャワ人ムスリム墓碑の調査、ジャカルタにて、考古局(Oudheidkundig Dienst)所蔵アラビア語碑文写真マイクロの調査を行う。 10月 25~26日、韓国木浦での海域アジア史研究会20周年記念国際シンポジウムに参加。新安沈船の引き揚げ船体と陶磁器を見学。 そのほか、10月に中国山東省での水中考古学シンポジウムへの参加、1月にフランス・パリでの研究滞在(楊州出土イスラーム碑文訳注を専門家のアドヴァイスを受けつつ完成させるため)を計画している。
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Research Products
(13 results)