2011 Fiscal Year Research-status Report
清代生態環境档案を用いた西北開発における環境認識と技術的対応に関する研究
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23720352
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
井黒 忍 早稲田大学, 高等研究所, 助教 (20387971)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 西北開発 / 沙漠化 / 生態環境档案 / 水利灌漑 / 環境適応 / 技術対応 / 環境認識 / ローカルナレッジ |
Research Abstract |
本年度においては、総合地球環境学研究所に所蔵される清代の農業、水利、気象関係の档案史料の閲覧および必要箇所の複写を完了させることができた。著作物として、論文3篇、総説1篇、調査・学会参加報告2篇、書評2篇を執筆するとともに、研究発表を国際会議で2回、国内のシンポジウム等で2回行った。このうち、10月に台湾にて行われたThe Association for East Asian Environmental History主催の第1回東アジア環境史会議に参加し、研究発表"A Study of Agricultural Water Supply Technology in 18th century Northwestern China: Historical Knowledge and the Response to Desertification"を通して、英語での研究成果の発信を行った。その内容としては、甘粛省黒河流域における塩類集積の問題に対して、国家主導による水路開削とローカルナレッジに基づく施水管理という方法を用いて解決を図ったが、排水に対する認識不足と行政区画の変更に伴う水利施設運営上の摩擦によって、再生アルカリ化が進行するという結果に陥ったことを明らかにした。会議の席上、20世紀の新疆においても同様の試みと失敗が見られたことについて指摘を受け、農業水利および環境問題に関する経験と知識の継承について議論を深めることができた。2010年度における復旦大学でのシンポジウムおよび2011年度における中山大学でのシンポジウムでの成果とあわせて、甘粛省黒河流域における環境・信仰・境界に関する研究を完了させ、本年度の「18-19世紀の西北開発政策の分析を通して、当時の環境変化に関する認識を読み解き、その技術的対応を明らかにする」という研究目的を達成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度内に総合地球環境学研究所に所蔵される「清代甘粛地区生態環境档案」および「清代陝西地区生態環境档案」の閲覧と必要箇所の複写を行い、当初2年間を予定していた作業を繰り上げて終了することができた。また、予定していた第1回東アジア環境史会議への参加に加え、予定外であった中山大学歴史人類学研究中心主催の「流域歴史与政治地理学術研討会」(中国広州市、2011年9月26日)および2011年度中国水利史研究会大会(大阪狭山市、2011年10月30日)に参加し、研究発表、学会参加報告を行うことで、研究成果の発信という点において想定以上の成果を収めることができた。また、論文3篇以外に、総説1篇、書評2篇を執筆し、海外研究協力者である張俊峰氏の論文翻訳を行ったことにより、進捗状況はおおむね順調であると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は「生態環境档案」の読解作業を主たる活動内容とし、国内・外の環境学関係と歴史学関係という背景の異なる場における研究発表と論文化を並行して行う。研究成果の公開にあたっては、国際的な発信力を高めるため、英語および中国語を用いた研究発表と論文執筆を行うよう努める。また、碑刻資料の収集を目的として、中国陝西省北部・山西省西北部・内モンゴル自治区南部での現地調査を実施するとともに、档案・地方志・地図資料の閲覧・収集を目的として、北京市(中国国家図書館・北京大学図書館)および台湾(中央研究院・故宮博物院)への海外出張を行う。研究期間内には、国内外から関係する研究者を招聘し、「中国西北地区における開発と環境の歴史」をテーマとしたワークショップおよびシンポジウムを開催し、研究成果の社会への還元につとめる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度においては計5回の海外出張を行うこととし、(1)~(3)は資料調査、(4)~(5)は学会参加を目的とする。(1)山西省西北部における現地碑刻調査(2012年5月)、(2)陝西省北部における現地碑刻調査(2012年8月)、(3)北京市における資料調査(2012年8月)、(4)「"改革開放以来的中国社会史研究"国際学術研討会曁第十四回中国社会史学会年会」(山西大学,太原市,2012年5月11日~5月14日)、(5)「"明清以来西北地区経済、環境与社会変遷"学術研討会」(陝西師範大学,西安市,2012年8月)。その他、研究推行に必要な図書およびデジタル資料、ソフトウェアの購入を予定する。
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