2013 Fiscal Year Research-status Report
清代生態環境档案を用いた西北開発における環境認識と技術的対応に関する研究
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23720352
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
井黒 忍 早稲田大学, 高等研究所, 招聘研究員 (20387971)
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Keywords | 生態環境档案 / 資源分配 / 環境認識 / 環境適応 / 官営牧場 / China Inland Mission / 水利権売買 / 気候変動 |
Research Abstract |
本年度においては、「清代甘粛地区生態環境档案」および「清代陝西地区生態環境档案」の読解を主たる活動内容として研究を行った。これら档案史料の読解を通して、清代の西北地域に設置された官営牧場では、春夏季に馬群を草地へと移動させ、秋冬季に牧場へと連れ戻すという定期的な牧馬の移動がなされ、その際に移動頭数や死損頭数のリストが作成されたことが明らかとなった。これらの馬群の数量と異動先、異動元の関係性が降水量変化に代表される気候変動の影響を受けるものであることは疑いない。ただし、これらリストが中央政府への報告書に添付されたものであることに留意すれば、その数値を無批判に信用することはできない。 そこで、これら清代档案に記載される数値の信ぴょう性を立証するために、同時代かつ視点の異なる資料との比較検討が必要であると考え、完全に情報源を異にする外国人宣教師による報告書や手紙、伝記に記される中国西北地域の自然環境や地理的情報との比較検討を行うこととした。まとまった量のデータを収集するため、2013年10月30日から12月13日にかけて、イギリス(ロンドン)への出張を行い、School of Oriental and African Studies(SOAS, University of London)の図書館に所蔵されるMissionary Collectionsの閲覧および複写を行った。 このほか、石碑に刻まれた水利権売買契約書の解読を通して、売り手と買い手の関係性を明らかにした。売り手は水利用権を時間を単位として自らが属する村に売却し、村は買い手となり、水利組織が水利権の転移を仲介する役割を果たすことで、水利権の完全な商品化が阻止され、地域内における資源利用の最大効率化が果たされたことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度においては、2013年5月に中国近世の華北における農業および水利に関する論考をまとめた『分水と支配-金・モンゴル時代華北の水利と農業』を出版した。また、“A Study of Agricultural Water Supply Technology in 18th century Northwestern China: Historical Knowledge and the Response to Desertification”、『中国経済史』の「水利」の項目を執筆した。くわえて、2013年10月に台湾花蓮県の国立東華大学にて開催されたThe Second Conference of East Asian Environmental Historyにおいて、Carved Contracts in Stones: Water Trading in Pre-modern Chinaのタイトルにて研究発表を行った。 自己評価の理由は、本年度に予定していた陝西省における現地調査の実施およびワークショップの開催を行うことができなかったためである。これは生態環境档案の読解を進める中で、公文書とは異なるリソースに基づく数値データの検証作業が必要であることが明確となり、その検証材料の収集のためにロンドンへの出張を行ったことにより生じた状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も「清代甘肅地区生態環境档案」および「清代陝西地区生態環境档案」の読解作業を継続して進めることとし、特に馬群の移動に関する数値データおよび異動先と異動元の地理分布に関する整理作業を完成させる。降水量の変化は植生への影響を通して、馬の生育環境を左右したと考えられることから、西北地域における馬の欠損率と移動数を用いて降水量との相関関係を考察し、既知の地域的な降水分布の変化と移動先、移動元とを比較対照する。くわえて、China Inland Missionの宣教師達による報告書に見られる気象、災害に関する情報との比較検討を行う。 なお、2014年7月にUniversity of Minho(ポルトガル・ギマランイス)にて開催されるThe Second World Congress of Environmental Historyにおいて、“Reconstruction of Spring and flood irrigation system in northern China from inscriptions on the water conservancy and water trade”のタイトルにてポスター発表を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初予定していた中国陝西省における現地調査およびワークショップを実施する代わりにロンドンでの資料調査を実施したため、想定していた金額に差異が生じたことによる。 平成26年度に予定する国際会議での発表原稿の英文校閲費として使用する。
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[Book] Environmental History in East Asia: Interdisciplinary Perspectives2013
Author(s)
Ts'ui-jung Liu, Mark Elvin, Susumu Kitagawa, Jin Liu, Yan Gao, Kohei Matsunaga, Jianxiong Ma, Shu-min Huang, Chih-Da Wu, Xin-hao Du, Shinobu Iguro, Peter Lavelle, Zhaoqing Han, Emiko Higami, Hiroshi Kawaguchi, Michael Shiyung Li, Mika Mervio, Paul Jobin.
Total Pages
416(199-212)
Publisher
Routledge