2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23720373
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
加藤 玄 日本女子大学, 文学部, 准教授 (00431883)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 宮廷 / フランス / イングランド / 中世 / エドワード1世 / プランタジネット家 |
Research Abstract |
本年度は研究初年度であるため、当初の計画に基づき、機器や文献の購入など研究環境の整備を図るとともに、以下の四点に集約される研究を行った。 第一に、エドワード1世統治下のガスコーニュにおける高官であったジャン・ド・グライーJean de Graillyやオットー・ド・グランソンOtho de Grandsonに関して、ローザンヌLausanne市(スイス)のヴォーVaud州文書館にて目録調査を、モントーバンMontauban市(フランス)のタルン・エ・ガロンヌTarn-et-Garonne県文書館にて史料調査を、それぞれ行った。その結果、サヴォワ出身者が、イングランド宮廷において重要な役割を果たし、南フランスに所領を獲得していたことを跡づけることができた。 第二に、英仏間のパリ条約締結(1259年)から百年戦争開戦時(1337年)の英仏関係史を、近年の研究動向を踏まえて概観し、英仏両宮廷間の人的ネットワークが英仏関係を支えていたことを強調した。この成果は、研究代表者が編者の一人となり、『中世英仏関係史』として刊行予定である(2012年4月20日に創元社から刊行済み)。 第三に、エドワード1世統治期にウェストミンスター宮殿の国王寝室に描かれ、現在では焼失した壁画について、19世紀に残された模写を基に分析した。先行研究に拠りつつ、壁画に描かれた聖書の場面から、当時の宮廷の世俗的な性格とエドワード自身の十字軍遂行への意志を指摘した。この成果は、「中世ウェストミンスター宮殿の壁画群」として発表した。 第四に、12世紀から14世紀初頭における「アンジュー帝国(とその遺産)」の一領域をなすポワトゥー地方を対象とする先行研究を批判的に検討し、その一部を踏まえた書評を執筆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
関連未刊行史料の収拾に関しては、予想以上の成果があった。Lausanne市(スイス)のVaud州文書館で閲覧した手書きの目録によって、ガスコーニュにおける高官であったJean de Graillyの遺言状がMontauban市(フランス)のTarn-et-Garonne県文書館に所蔵されていることが判明した。その後、同県文書館にて史料調査を行ったところ、未刊行のため、これまで十分に活用されてこなかった史料群であるSaume d'Isleに関連文書が多数含まれていた。今回は当該文書を全て閲覧することができなかったが、今後マイクロフィルムを取り寄せ、分析を続けたい。 エドワード1世の宮廷の性格の解明に関しては、おおむね計画通りであった。先行研究の検討や絵画史料の分析から、イングランド宮廷は騎士道精神を尊び、十字軍への志向が強い世俗的な性格を持つことを指摘でき、同時期に国王の聖性を強調するフランス宮廷との性格の違いを明確にできた。また、英仏両王家の関係を13世紀後半から14世紀前半の政治史を中心に検討した結果、両宮廷間の人的ネットワークの構築は国王の婚姻が一つの契機になることが裏付けられた。ヘンリ3世妃はプロヴァンス出身であり、エドワード1世妃はカスティーリャの出身であり、王妃の取り巻きとして、多数の外来者が宮廷に流入し、国王の近習として各地で活躍した。さらに、こうした宮廷における外来者の存在に対し、反感が醸成されることも具体的な事例から判明した。 他方、エドワード1世の移動宮廷の滞在先の分析は、不十分なものに止まった。主な分析の対象とした会計記録はしばしば作成の日付を欠いており、その特定に予想外に時間がかかったからである。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続き、13世紀から14世紀のエドワード1世の国王家政組織の人的要素(組織・構成)と空間的要素(移動・宿泊)、外来者を含む宮廷構成員と国王との間のコミュニケイションの諸相の解明を目指す。 まず、前年度に完了しなかった作業である未刊行史料の収拾、およびエドワード1世の移動宮廷の滞在先の分析を継続する。未刊行史料の収集に関しては、オンラインでの閲覧やマイクロフィルムによる複製の取り寄せ以外に、やはり現地の文書館に直接赴いて関連史料を博捜することが不可欠である。また、移動宮廷の滞在先の分析の主たる史料であるが、しばしば作成の日付を欠く会計記録に関しては、情報をデータベース化することで、日付の特定の効率化を図る。 さらに、検討対象を拡大し、エドワード王太子期、エドワード1世のブリテン島滞在期を加える。これらの先行研究の検討や史料の分析を行う際には、ヘンリ3世統治期のイングランド国制史を専門とする朝治啓三教授(関西大学)にアドヴァイスを頂く予定である。 なお、次年度に繰り越して使用する予定の研究費はない。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
24年度の研究費の使途は(1)図書費(2)国内外旅費(3)謝金に大別される。(1)図書費:未刊行史料を文書館からマイクロフィルムによる複製の形で取り寄せるほか、刊行史料を購入する。また、日本の大学図書館では所蔵しておらず、入手が困難である地方史雑誌、中世考古学を専門とする学術雑誌を適宜購入し、その他の最新研究文献の補充も合わせ、情報のアップデートを図る。(2)旅費:未刊行史料の網羅的収集のためには、やはり現地の文書館に直接赴いて関連史料を博捜することが不可欠である。24年度は、イングランド国王関連文書の所蔵先であるイギリス国立公文書館にて史料調査収集を行い、可能であればデジタル画像の形で史料を入手する。また、定期的に関西大学での研究会に参加し、ヘンリ3世統治期のイングランド国制史を専門とする朝治啓三教授と研究情報を交換する。(3)謝金:会計記録の作成日付を特定する作業の効率化を図るために、業者にデータ入力とデータベースの作成を依頼する。
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Research Products
(2 results)