2012 Fiscal Year Research-status Report
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23720373
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
加藤 玄 日本女子大学, 文学部, 准教授 (00431883)
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Keywords | 中世 / イングランド / フランス / 宮廷 |
Research Abstract |
研究二年目にあたる本年度は文献の購入など研究環境の充実を図るとともに、以下の四点の成果につながる研究を行った。 第一に、先行研究の検討である。まず、研究代表者が編者の一人となり、11世紀から15世紀までの英仏関係史に関する最新の知見を総合した『中世英仏関係史』を、2012年4月に刊行した。さらに、中世の英仏関係に関して、2000年以降の欧米学界における研究動向をまとめ、『西洋史学』フォーラムに投稿した(現在、査読中)。 第二に、プランタジネット家と対立するカペー家による南フランスの支配の性格について、2012年12月に東京大学で行われた国際シンポジウムにて報告した。英文報告原稿を加筆修正したものを"Relationship of Infrastructure Control and Regional Dominion in Medieval Languedoc"(『日本女子大学大学院文学研究科紀要』第19号所収)として発表した。 第三に、昨年度にスイスやフランスの文書館で収集した未刊行史料に基づき、エドワード1世の宮廷で活躍したサヴォワ出身のジャン・ド・グライーが南フランスに所領を獲得していたことを分析し、2013年3月にトゥルーズ大学附属のフラメスパ研究所のラウンドテーブルにて口頭報告"Between Savoy and Gascony: A Testament of Jean de Grailly"を行った。 第四に、国王家政組織記録を用いてエドワード1世の移動宮廷を分析し、移動の実態と史料の形態との関わりを検討した。この成果は、『地形と移動(仮題)』(東大出版会から刊行予定)に収められる論考として発表予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記のトゥルーズ大学附属研究所におけるエドワード1世の側近に関する口頭報告が現地の研究者から一定の評価を得たため、当該テーマを発展させる形で論考をまとめ、現地の学術誌Annales du Midiに投稿する見通しが立った。他方、国王家政組織や宮廷構成員の出自や権力基盤の解明は部分的なものにとどまった。 エドワード1世の宮廷の性格の解明に関しては、おおむね計画通りであった。先行研究の体系的な検討を踏まえ、プランタジネット王権の「中心」としての宮廷が「周辺」である諸領邦を維持するために、アングロ・ノルマン文化を核とする政治モデルを洗練させ、諸領邦に広めていった過程をまとめた。その結果、1)巡回裁判の開催、陰謀や反乱の場といった宮廷の機能、2)奉仕や反乱など諸領邦において王権と貴族層が取り結ぶ多様な関係、3)アーサー王伝説を利用した王権イデオロギーの形成と、様々なメディアによる宮廷からのプロパガンダの発信、以上の三点の知見を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度の作業を継続するとともに、以下の3段階を踏んで、本研究課題に関する総合的な知見を提示する。 1)当該時期のブリテン諸島と大陸所領における宮廷滞在地の情報を総合する。 2)領主裁判圏、行政管轄区といった、それぞれの空間の成立過程に各滞在地を位置づけ、その機能と性格を考察し、巡幸先としての役割を明らかにする。 3)国王家政組織や宮廷構成員の出自や権力基盤を上記1)、2)の中に位置づけ、宮廷との接触で地域的な権力秩序がいかに変容し、構築されたかを解明する。 以上の検討を踏まえて、イングランド国王(大陸ではアキテーヌ公)が宮廷という回路を通じて、住民との間のコミュニケイションを構築する支配形態と、その結果として錬成された支配空間としてのプランタジネット家支配領域の新たな像を提示する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度と同様に、25年度の研究費の使途は(1)図書費(2)国内外旅費(3)謝金に大別される。 (1)図書費 未刊行史料を文書館からマイクロフィルムによる複製の形で取り寄せるほか、刊行史料を購入する。 (2)旅費 未刊行史料の網羅的収集のために、フランスの地方文書館にて史料調査・収集を行い、可能であればデジタル画像の形で史料を入手する。また、定期的に関西大学や青山学院大学で開催される研究会に参加し、ヘンリ3世統治期のイングランド国制史を専門とする朝治啓三教授、および13世紀のフランス国制史を専門とする渡辺節夫教授と研究情報を交換する。 (3)謝金 業者にデータ入力とデータベースの作成を依頼する。
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Research Products
(6 results)