2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23730016
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
中島 宏 山形大学, 人文学部, 准教授 (90507617)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 共和主義 / 多文化主義 / 人権論 |
Research Abstract |
本年度は、研究計画に従い、フランスにおけるブルカ禁止法の立法過程における議論を主に分析・検討した。特に議会報告書やコンセイユ・デタ報告書の分析を中心に、ブルカ禁止法の立法者がどんな論理で、何を意図したのか、を検討した。 ブルカ禁止立法において鍵となったのは、コンセイユ・デタ報告書である。仮にライシテや男女平等を根拠として、ブルカの着用それ自体をフランス共和国の価値に反するものとして法的に禁止した場合、人権保障や欧州人権裁判所判例との整合性から、憲法違反あるいは条約違反と指摘される可能性がある。そこでコンセイユ・デタ報告書は、人権制約原理である公的秩序概念を修正し、「顔を隠す行為」一般を禁止するという方策を示唆した。同報告書自身はこのやり方を推奨せず、「顔を隠す行為」の部分的禁止を提案しているが、議会は敢えて「抽象的な公的秩序」を根拠に「顔を隠す行為」一般を禁止したのである。そこでしばしば指摘されたのは「他者と共生する限りは、顔を露わにしなければならない」との主張である。 同立法に対して一部の議員や研究者から批判もあったが、憲法院は合憲判決を出した。憲法院は、ブルカ着用は「公共の安全に対する危険を構成し、社会生活に関して最小限要請されることを理解していない」と立法者がみなしていると指摘し、立法者の意図を追認した。欧州人権裁判所判例との関係から、「公衆に開かれた信仰の場における宗教的自由の行使を制限するならば、1789年人権宣言第10条を過度に侵害することになるであろう」との留保を付けたものの、この留保がどのような射程を持つものかは不明確である。 本年度の研究実績の概要は以上のとおりである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度5月の全国憲法研究会春季総会において、「フランスにおける『ブルカ禁止法』と『共和国の課題』」と題する研究報告を行うことができた。そのおかげで、報告の準備だけでなく当日の質疑応答等、有益な刺激をうけることができたことにより、研究を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度における研究成果を基にして、より発展的な研究を行う。特に法学や政治学を中心に、「ブルカ禁止法」を巡る様々な評価を二次資料から検討し、研究者・専門家の立場からどのような応答があったのかを分析する。「ブルカ禁止法」の持つ法的意義や問題点だけではなく、フランス共和主義に対する影響についてどのような評価があり得るのかを特に重視する。従来の人権保障の枠組みと、「ブルカ禁止法」が取る論理との整合性を検討することが重要な研究課題となる。研究成果は論文として公表する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、可能な限り、資料収集やインタビューを内容とする現地調査を行いたい。文献読解だけでは読み取ることの難しい立法意図や学説の動向を分析することが重要な目標となる。現地調査で得た示唆を、二次資料の収集および分析に生かしつつ、研究全体の軌道修正を試みることを予定している。初年度から収集を継続しつつ、随時二次資料としての学説の分析を試みる。
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