2011 Fiscal Year Research-status Report
「離婚時年金分割制度」のあり方 ―2009年ドイツ法改正を受けて―
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23730086
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
生駒 俊英 福井大学, 教育地域科学部, 講師 (00514027)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 年金分割 / 財産分与 |
Research Abstract |
本年度、ドイツにおける「年金権調整制度」について、2009年改正に至った理由・従来の問題点を明確にする事に主眼をおいて研究を進めた。そして、各種論文(独・日)等を考察する上で、日本の制度と異なり私的・公的を問わずあらゆる年金を分割の対象としている点が、その主たる原因である事が明確となった。従来の年金調整の方法は、当事者が加入している年金の種類の組合せなどによって、約300種類に類型化することができ、その複雑さからごく一部の専門家のみしか制度を把握していないとの事であった。また、全ての年金を一括して分割する為に、年金額の計算が非常に複雑であり、あまりに擬制的であった点も問題点として指摘されていた(スライド制、消滅可能性の考慮等)。このように1976年に導入された制度は、非常に複雑で利用し難い制度となっており、本制度を国民が迅速かつ簡易に利用できる事を目的として制度改正がなされた。以上より明確となったドイツにおける制度改正の経緯を踏まえて、わが国の制度を見てみると、日本では公的年金のいわゆる2階部分のみを分割の対象としており、進むべき方向としては正しかったと評価できる。しかし、公的な年金以外の老齢保障(私的年金等)も含めた包括的な調整の必要性からすると、わが国の制度は不完全とも言える。この点は、今後のドイツの改正制度の運用状況を注視する事としたい(改正制度についても、制度内での格別の調整という原則は、すべての期待権に著しい困難をもたらしかねないとの指摘がある)。 また、我が国における年金調整の裁判所における判断についても研究を進めたが、一貫して2分の1(按分割合0.5)との判断を下している。この点、柔軟な対応がないとの批判もありうるかもしれないが、社会保障法上の制度から理解すると、画一的に処理が行われており妥当であると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画に沿って、ドイツにおける改正前の問題点を整理・明確にする事ができた。改正制度についても、資料(ドイツ文献検索機において収集)、最新のコンメンタール等の文献(現地において調達)を収集する事ができ、順次研究を進める事ができた。 また、日本における制度についても、制度導入後の裁判例、新たな論文等についても収集する事ができ、随時研究を進めている。 従って研究は、ドイツにおける制度、日本における制度、双方ともにおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、本年度のドイツに起きえる改正前の状況を踏まえて、改正制度を中心に研究していく。そして、それらを踏まえてわが国への示唆となる点を明確にしたい。本年度ドイツの改正制度に関する文献・資料を調査したところ、想定より多くの文献が公表れていた為、現状の運用から生じている問題点を明確にする事に重点をおいて、研究を進める。 また、ドイツでの改正制度を踏まえて、我が国における離婚時年金分割制度の今後のあり方(ドイツの制度により近づけるのか否か)、さらに財産分与との関係(相互的作用)、追加的に扶養との関係にも広げて研究を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費は、引き続きドイツ文献検索機データベースの利用(15万円程)、現地調査費用(25万円程)、書籍代(2万円程)、複写代(3万円程)、研究会・学会への参加費(5万円程)、へと利用する予定である。
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