2012 Fiscal Year Research-status Report
契約成立段階の法的規律とその司法的性格に関する研究――契約形成論の深化のために
Project/Area Number |
23730110
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
山城 一真 早稲田大学, 法学学術院, 准教授 (00453986)
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Keywords | 契約法 / フランス法 / 比較法 / 契約の成立 / 契約の解釈 / 意思表示の解釈 / 証拠法 / 国際情報交換 |
Research Abstract |
当年度においては、契約の拘束力の認定プロセス(「法性決定」の問題を含む)に重点を当てて、契約成立段階の法的規律を考察した。具体的には、①契約の成立段階と内容確定段階、②合意内容が書面に顕出されている場合と、そうでない場合とをそれぞれ区別し、合計4つの局面について「契約内容の確定」が論じられる際の認定プロセスの特性を分析するという視角に基づき、日仏の理論・実務における議論を比較考察した。そのために、文献調査を継続するとともに、次の2つの機会に、これまでの研究成果に基づいて私見の概要を述べ、批評を仰いだ。 1 まず、パリ第二大学にて開催されたシンポジウム「民法の基本的概念を巡る対話の試み」にて、「契約締結過程における正当な信頼」と題する研究報告を行い、オリヴィエ・ビュスタン氏(パリ第2大学博士・弁護士)による詳細なコメントを得るとともに、参加者からの多くの教示を得た。その結果、(A)原則論としては、証拠評価のあり方に関する日仏の相違に由来して、書面に顕出された内容と矛盾する合意を認定することの可否について、日仏間で法的取扱いに重大な差異が存すること、(B)しかし、例外的に、フランス法においても、裁判官がある種のプラグマティックな思考方法に基づいて当事者の合意を認定する場面があり得ることが明らかにされた。 2 大阪地裁裁判官との意見交換を行い、実務的観点からの助言を得た。私見が上記①②に即して4つの局面を区別したことを大綱において支持されたうえで、実際の紛争においては、それぞれの場合につき、(A)交渉過程・意思決定過程の解明を目指す解決方法と、(B)文言の客観的意味の解明を目指す解決方法とが考えられるとの教示を得た。 そのほか、ミシェル・キュマン教授(ラヴァル大学)の論稿、「大陸法と英米法におけるエピステモロジー」を翻訳する機会をもち、「法認識論」の知見を深めることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当年度においては、当初、フランス法における「法性決定(qualification)」論を重点的に考察し、これを通じて契約内容の確定に対する裁判官の関与のあり方を模索するという計画を構想していた。しかし、これまでの研究の進展状況から、「書面」の機能に焦点を当てて検討を進めるほうが、契約の成否の認定プロセスを直截に把握することができると考えるに至った。その結果、当年度の研究は、当初の計画とはやや異なる経路を辿ることとなったものの、「実績の概要」欄記載のとおり、企図した目的に適合する成果が得られたと考える。以下、本研究の二つの「柱」に即して、自己点検の理由を敷衍する。 1 日仏比較法研究という柱については、パリ第2大学にて研究報告をしたことにより、一つの区切りを付けることができた。同シンポジウムにおける報告原稿は、主催者の一人であるムスタファ・メキ教授(パリ第13大学)の求めに応じて、2012年12月、論述と引用を補ったうえで出版のために同教授に委ねている。また、キュマン教授の論稿を翻訳する機会を得たことによって、前年度の課題である「法認識論」に関する研究を深めることができた。翻訳というかたちではあるが、わが国に「法認識論」研究の一動向を伝える方途を得たことにより、基礎理論面での成果に一応の見通しが付いたと考える。 2 実務的考察という柱については、わが国の裁判官との意見交換の機会をもったことにより、新たな考察の端緒を得ることができた。この点については、いまだ具体的な成果をみていないので、次年度において研究を進める必要があると考える。 以上を要するに、なお細部に検討の余地を残してはいるものの、内外の研究者・実務家との意見交換に基づき、私見の分析枠組が一定の有益性をもち得ることを確認することができた点で、本研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度においては、当年度までに得られた成果をさらに深めるとともに(1)、最終年度に望んで本計画を総括するための作業を進める(2)。 1 平成24年度研究から得られた成果に基づき、契約をめぐる訴訟において、書面がいかなる役割を果たしているかに焦点を当てて検討を進める。もっとも、訴訟における書面の取扱いという主題は、きわめて実務的な性格が強いため、わが国においては、これまで、実体法の観点からの考察はあまりなされてこなかった。そこで、これまでと同様、比較法的研究と実務的研究という二つの側面から問題に接近するという基本戦略に則って研究を進めることを計画している。 ① フランス法においては、わが国における以上に、書面の機能に焦点を当てた論稿(特に博士論文)が多く公刊されている。それらを分析する作業を継続し、実体法学の観点から「書面」論を考察する際の分析視角を獲得する。 ② わが国の裁判官との意見交換から得られた知見をも踏まえて、裁判実務における書面の取扱いにつき、実務家が展開してきた議論を実体法的観点から再評価する作業を行う。 2 また、これまでの成果の総括・公表に向けての作業として、①既公刊の論文と合わせて、これまでの成果を書籍にまとめるための準備を進めるとともに、②目下進行中の民法(債権法)改正の進行状況と、その間に現れた諸議論を念頭に置いて、契約成立に関する見解を適時に公表することを計画している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前述の方策に従って研究を推進するために、次年度は、以下のとおりに研究費を使用することを計画している。 1 フランス法の研究にあたっては、未公刊の博士論文等、日本においては入手の難しい文献を広く収集する必要がある。また、実務的性格の強い問題を扱う必要があることから、現地での意見聴取を行うことが有効であると考えられる。そのために、1週間程度を目途に、フランスにて現地調査を行う。これにより、わが国にとどまって研究を進める場合に比べて、短期間で文献収集を行うことができ、かつ、一度の機会に複数の研究者から意見を聴取することができるという利点があると考える。なお、調査にあたっては、ストフェル・マンク教授(パリ第1大学)より、同大学のアンドレ・タンク研究所の使用につき許諾を得ている。 2 前記の観点から日本法の研究を遂行するにあたっては、実務家によって執筆された文献を精査する必要がある。この種の問題を扱った論稿は、(裁判実務が未成熟であったためか)戦前から戦後初期にかけてかなり多く存在するように思われる。そこで、それらの文献を重点的に収集する。また、学会・研究会等の機会を活用して、私見に対する批評を仰ぐこととする。その際には、民法研究者のみならず、裁判官および民事手続法研究者からも意見を聴取する機会を求めたいと考えている。
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