2011 Fiscal Year Research-status Report
「法律行為論の本質論」についての体系的・原理的研究
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23730111
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Research Institution | Toin University of Yokohama |
Principal Investigator |
中野 邦保 桐蔭横浜大学, 法学部, 准教授 (10440372)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 法律行為論 / 法体系 / 法構造 / 思考原理 / 近代私法 / 啓蒙期自然法 / 莫大損害 / 行為基礎論 |
Research Abstract |
1.本研究は、何故、法律行為の当事者の意思からだけでは解決することが困難な「法律行為論の限界」の問題が生じたのか、その理由を体系的・原理的観点から明らかにしようとするものである。すなわち、ヨーロッパ大陸法系に存在する2つの法体系――フランス民法典が範となる法律行為論成立以前の啓蒙期自然法体系と、ドイツ民法典が範となる法律行為論成立以後の近代私法体系――の法構造・思考原理の相異を比較・検討し、その理由を明らかにしようとするものである。2.「法律行為論の限界」の問題とは、換言するならば、当事者が自律的に決定した契約内容につき、契約遵守原則を貫徹すると、取引の対価的均衡が崩れ、必ずしも衡平・妥当とはいえない場合に、契約の拘束力を制限するための正当化根拠をいかなる点に求め、どのようにして給付と反対給付の等価性を確保するべきであろうか、という問題である。このような場合に、法律行為論成立以前の啓蒙期自然法体系のもとでは、莫大損害論が展開されてきたが、法律行為論成立以後の近代私法体系のもとでは、主として、莫大損害論が廃棄され、行為基礎論が展開された。そのため、莫大損害の法理を採用するか否かが、啓蒙期自然法体系と近代私法体系という2つの大きな法体系の相異を示す一つの基準とされる。3.このようなことから、初年度は、莫大損害論の展開を通じて、啓蒙期自然法体系の法構造と思考原理を明らかにしたうえで、その後、カントが、どのようにして、客観的・外部的基準をも用いる義務・他律の啓蒙期自然法体系から、客観的・外部的基準によらない権利・自律の近代私法体系への転回を促したのか、いわば、私法体系のパラダイム転換となる哲学的基礎をどのように築いたのか検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は、これまでの研究成果をふまえ、少し余裕をもって計画を立てていたことから、おおむね順調に進展したものと思われる。具体的には、初年度は、今後の研究の基礎となる次の5点につき、検討・考察を行うこととしていた。 (1)啓蒙期自然法論者(グロティウス、プーフェンドルフ、トマジウス、ヴォルフ)の私法理論と莫大損害の取扱いの検討、(2)自然法的諸法典(プロイセン一般ラント法、フランス民法典、オーストリア一般民法典)の私法理論・法体系・法構造と莫大損害の取扱いの検討、(3)啓蒙期自然法体系から近代私法体系へと、私法体系をパラダイム転換させる哲学的基礎を築いたカントの思考転換の検討、(4)啓蒙期自然法体系の法構造と思考原理の解明。(5)次年度以降の研究に向けた、資料収集・分析等の準備作業、および次年度の課題の予備的考察。 上記5点のうち、(1)(2)は、すでに検討し、研究成果を公表していたことから、その内容につき、再考したうえで、(3)(4)の点につき検討を試みた。もっとも、(3)については、次に述べる資料収集・分析の時間との関係で、一応の検討は終え、原稿案も執筆したものの、それを初年度中に公表するには至らなかったので、次年度の5月までには原稿を脱稿し、公表する予定である。 (5)については、必ずしも十分に行えるまでには至らなかった。その理由としては、初年度当初の段階では、科研費の支給がどのようになるのか分からない状況で研究を開始したため、前期中は、科研費の使用を抑えながら研究活動を行う必要があった。そのため、ドイツへも私費で資料収集に行き、文献整理も自らが行ったため、資料の分析・次年度の課題の予備的考察については、必ずしも十分に行うだけの時間的余裕がなかった。 このようなことから、全体としてはおおむね順調に研究は進展したものの、上記5点のうち、一部のものについては十分な研究成果をあげることができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、まず初年度に十分になしえなかった点を行ったうえで、近代私法体系の法構造と思考原理を明らかにするために、次の8点につき、検討・考察を行う予定である。 (1)サヴィニーによるパンデクテン方式による権利の体系の確立についての検討、(2)サヴィニーの私法体系とヘーゲルの私法体系の比較検討、(3)近代私法の三大原則との関係からパンデクテン方式による権利の体系の意義の検討、(4)近代私法体系のもと莫大損害が廃棄された理由の検討、(5)近代私法体系のもとヴィントシャイトが前提論を提唱した理由の検討、(6)ドイツ民法典の私法理論・法体系・法構造と莫大損害ないし前提論の取扱いの検討、(7)近代私法体系の法構造と思考原理の解明、(8)最終年度に向けた、これまでの研究成果の整理・再検討・予備的考察。 次年度は、主として、サヴィニーとヴィントシャイトに焦点をあて、莫大損害が廃棄された理由と、行為基礎論の前史として位置づけられる前提論が提唱された理由を考察し、両者がドイツ民法典においてどのように取り扱われたのか、その背景を含め考察することとする。ただ、この年度の計画は、最終年度に余裕をもたせるよう、少しタイトなものとなっていることから、(8)については、全体の計画に支障がでないよう、適宜調整して行うこととする。 なお、次年度の2月、3月には、最終年度に研究成果全体をスムーズにまとめることができるよう、ドイツにおいて現地調査・資料収集等を行う予定である。初年度の8月に、すでに、ヘーゲルが所属したハイデルベルク大学に行き、一定程度、一次資料等は収集したものの、サヴィニー、ヴィントシャイトについては、高名な法学者であり、資料が多数存在することから、本学にあるサヴィニーミュージアム等を利用しつつ、ドイツに行く前に、どのような観点から分析・検討するか決め、可能な限り、事前に収集する資料を精査しておくこととする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、大きく3つの項目で研究費を使用する予定である。 まず、初年度に引き続き、関連文献・資料の収集のために使用する。検討対象とする人物が、サヴィニー、ヴィントシャイト、カント、ヘーゲルといった高名な法学者・哲学者であることから、また、検討対象とする法典も、ヨーロッパ大陸法系を代表するフランス民法典、ドイツ民法典といったものであることから、それらに関連する文献は国内外において多数存在する。そして、検討対象を、民法学に限らず、法思想史、法哲学、歴史学といった、広い視点から考察する必要があることから、広範にわたって文献・資料を収集し、分析する必要がある。このようなことから、引き続き、関連文献・資料の収集のために研究費を使用する必要がある。 次に、上記のようなかたちで集める予定の文献・資料の収集および収集した文献・資料を整理し、データ処理するための人件費として使用する。この点は、前述したように、初年度は科研費の支給状況が不明であったことからも必ずしも十分になしえなかったので、次年度は、資料収集・整理のために、積極的に人を雇い、多数の文献・資料等の整理を行いたい。なお、多数の文献をスキャンし、保存するためのHDD等は初年度すでに購入し、基本的なパソコンソフト等も購入していることから、次年度は設備備品等を購入する必要は少ないものと思われる。 最後に、ドイツに現地調査・資料収集するために使用する。初年度は、前述したように科研費の支給状況が不明であったこともあり、私費で3週間程夏に、ヘーゲルが所属していたハイデルベルク大学に資料収集に赴いたが、次年度は、同大学に再度資料収集にいくか、サヴィニーが所属していたベルリン大学、ヴィントシャイトが晩年過ごしたライプツィヒ大学に行き、現地調査・資料収集等を行う予定である。
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