2012 Fiscal Year Research-status Report
「法律行為論の本質論」についての体系的・原理的研究
Project/Area Number |
23730111
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Research Institution | Toin University of Yokohama |
Principal Investigator |
中野 邦保 桐蔭横浜大学, 法学部, 准教授 (10440372)
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Keywords | 法律行為論 / 私法体系 / 法構造 / 思考原理 / 自由 / 平等 / 権利 / 意思 |
Research Abstract |
1.本研究は、伝統的な法律行為論の限界を克服し、新たな私法理論を構築するべく、法律行為論成立以前の啓蒙期自然法体系と法律行為論成立以後の近代私法体系の法構造・思考原理を比較・検討し、私法体系における法律行為論の位置づけについて検討したうえで、何故、法律行為論に限界が生じたのか、体系的・原理的な観点から明らかにしようとするものである。 2.初年度は、このような法律行為論の本質を明らかにするための基礎作業として、まず、啓蒙期自然法論における莫大損害をめぐる取扱いを検討し、啓蒙期自然法体系の法構造と思考原理の特徴を明らかにした。 3.2年目となる今年度は、そのような啓蒙期自然法体系が、どのようにして近代私法体系へと転換していったのか検討した。具体的には、「私的自治の原則」、「権利能力平等の原則」、「所有権絶対の原則」といった近代私法の三大原則が、いかなる思考原理によって確立されたのかという分析を通じて、啓蒙期自然法体系から近代私法体系への展開につき検討した。その際、思考原理レベルでの影響関係という観点から、私法体系をパラダイム転換させる哲学的基礎を築いた者として、カントをとりあげ、カントの『人倫の形而上学の基礎づけ』と、『人倫の形而上学』を中心に検討した。 4.その結果、カントが、啓蒙期自然法論とは全く異なる、「自由=自律」を基調とする「自由の体系」を構築したうえで、他律から自律へと思考転換させ、自律的意思、自律的人格といったことを基礎に、権利概念を自律によって哲学的に基礎づけ、次の近代私法へと繋がる新たな途を切り開いたことが明らかとなった。また、近代私法の三大原則は「自由」と「平等」を体現するものとして、パンデクテン方式による「権利=自律」の体系を担保するものとして機能しており、自由と平等が段階的に確立していくことによって近代私法体系が成立していったことも明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は、初年度に十分になしえなかった課題につき検討を加えたうえで、近代私法体系の法構造と思考原理を明らかにするべく、次の8点につき検討・考察することを予定していた。 ①サヴィニーによるパンデクテン方式による権利の体系の確立についての検討、②サヴィニーの私法体系とヘーゲルの私法体系の比較検討、③近代私法の三大原則との関係からパンデクテン方式による権利の体系の意義の検討、④近代私法体系のもと莫大損害が廃棄された理由の検討、⑤近代私法体系のもとヴィントシャイトが前提論を提唱した理由の検討、⑥ドイツ民法典の私法理論・法体系・法構造と莫大損害ないし前提論の取扱いの検討、⑦近代私法体系の法構造と思考原理の解明、⑧最終年度に向けた、これまでの研究成果の整理・再検討と予備的考察およびドイツでの現地調査・資料収集。 このように、今年度は、昨年度の報告書にも記していたように、最終年度に余裕をもたせるべく、当初の計画段階から多くの課題を設定していたため、適宜調整して行うことを予定としていた。実際には、初年度に取り残した「カントによる思考転換」という検討課題が予想以上に広がりをみせ、カントの著作全体の中で、ルソーとの比較・検討等をも行ったうえで、カントの体系・思考原理を位置づけたため、それだけで一つの研究テーマとなりうるような本格的な研究となってしまい、多くの時間が割かれた(この研究の概要は、2012年6月21日に赴任先の桐蔭法学研究会にて報告済で、総論的な部分については同年6月に原稿を脱稿・初校済で、各論的な部分については次年度前半に公表する予定である)。 その結果、研究の進展はなされているものの、今年度予定していた上記8点のうち、①②③④⑦の点については予備的考察を終えているが、⑤⑥⑧の点については時間的な都合から未検討となっているため、全体としては遅れているといわざるをえない。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる次年度は、研究全体をまとめるべく、下記の4点について検討していく予定である。 ①啓蒙期自然法体系と近代私法体系の法構造と思考原理の最終検証作業、②私法体系のパラダイム転換と法体系の法構造と思考原理の変遷との影響関係の検討、③以上のすべての検討をふまえたうえでの「法律行為論の本質論」の解明、④本研究全体のまとめ。 もっとも、今年度予定していた検討課題においては未検討のものや十分に検討が終えていないものなどがあったことから、次年度中に、上記検討課題をも含め、すべて検討し終えることを目指すものの、本研究の成果が一部でもきちんまとまるよう、次の2つの段階に分けたうえで、今年度と次年度の検討課題を同時に検討していくこととする。 まず、近代私法体系が成立するまでの段階につき、サヴィニーに焦点をあて、本学にあるサヴィニーミュージアム等を利用しつつ、ヘーゲルと対比したうえで、近代私法体系およびその中核に位置づけられる法律行為論がどのようにして展開されたのか考察し、啓蒙期自然法体系と近代私法体系の法構造と思考原理について検討する(今年度の検討課題である①②③④⑦の点と、次年度の検討課題である①②③の点について検討し、まとめる)。 次に、後期普通法の時代から近代私法体系が確立されるドイツ民法典制定までの段階につき、ヴィントシャイトに焦点をあて、莫大損害が廃棄された理由と行為基礎論の前史として位置づけられる前提論が提唱された理由を考察し、両者がドイツ民法典においてどのように取り扱われたのか、その背景を含め検討し、法律行為論の本質を明らかにする(重複する検討課題があるものの、今年度の検討課題である⑤⑥⑦の点と、次年度の検討課題である①③④の点について検討し、研究全体をまとめる)。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初は、今年度中に、サヴィニーが所属していたベルリン大学、ヴィントシャイトが晩年を過ごしたライプツィヒ大学、ヘーゲルが所属していたハイデルベルク大学等に行き、現地調査・資料収集等を行う予定であった。しかし、昨年度、科研費の支給状況が不明であったことから、私費ですでに3週間程ドイツへ資料収集に行ったことから、また、今年度の研究の進捗状況が遅れていたことから、ドイツでの現地調査・資料収集のための研究費を次年度に繰り越すこととした。そのため、今年度は、当初予定していた金額よりも多くの研究費を使用できることから、大きく次の3つに分け、計画的に使用していく予定である。 まず、今年度に引き続き、本研究に関連する文献・資料の収集のために使用する。本研究は、カント、ルソー、サヴィニー、ヘーゲル、ヴィントシャイトといった高名な法学者・哲学者を検討対象とすることから、また、民法学に限らず、法思想史、法哲学、歴史学といった、様々な学問領域を超えて、広い視点から考察する必要があることから、内外において多数存在する文献・資料を積極的に渉猟し、考察していくこととする。 また、それに伴い、より効率的に研究が行えるよう、様々な領域から内外の文献・資料を幅広く収集し、それらを整理するための人員の費用のために使用し(可能ならば、いつでもどこでも資料にアクセスできるよう、文献・資料をスキャンし、データ化し、保存することをも意図している)、研究環境の整備につとめたい。 最後に、次年度が本研究の最終年度であることから、これまでの研究成果を発表するために各種資料(論文等)の印刷、および研究成果報告書発行のための印刷製本費等に使用したい。
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Research Products
(1 results)