2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23730125
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
小山田 朋子 明治大学, 政治経済学部, 講師 (50436507)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 医事法 / 医学研究 / 利益相反 / 英米法 |
Research Abstract |
本研究がテーマとしているのは、医学研究における利益相反問題(産学連携により、産業界から大学や医師へ資金が提供され、医師の利害が被験者の利益と対立しうることおよび研究の科学的妥当性をも損ないうるという問題)である。わが国でも産学連携が国家戦略とされる中、利益相反問題への対応が急がれている。本研究は、この問題でわが国の20年先を行っていると評されるアメリカ法を研究対象とし、わが国のあるべきルールを探ることを目的としている。本年度は主に以下の方法で研究および成果の公表を行った。1.アメリカ法の以下の動向につき調査・分析した。(1)2009年に連邦法案(Physician Payments Sunshine Act of 2009)が提出され、2010年3月に連邦議会を通過した。これは年間100ドルを超える製薬企業等から医師への贈与につき政府への報告を医師に義務づける内容である。2)製薬企業等に対するFDAの規制につき、連邦厚生省(DHHS)の調査によれば、その実効性が十分か疑われる結果であった(2009)。(3)連邦厚生省規則が求めている、研究者から研究機関への利益相反の報告についての同省の調査によれば、この報告内容につき90%の機関は研究者の解釈に委ねていた(2009)。(4)同省では同規則の改正案が検討されている(2010)。2.日米の法学者・弁護士・医師からなる研究会(医療の発展と患者の保護をめぐる倫理・法の現代的課題に関する研究(岩田太教授代表・厚生労働科学研究費補助金)に参加した。3.後見制度の日米比較の共著論文執筆のために、わが国の後見法の実態調査およびアメリカ法との比較を行った(ミズーリ大学デイビッド・イングリッシュ教授と共著)。4.アメリカ代理法の研究会(樋口範雄教授主催)に参加し、代理法リステイトメント3rdの条文の翻訳、分析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度進めた研究および成果の公表には次のような意義があったと考えている。1.アメリカ法については、上記のような動向を分析した。2010年3月に連邦議会を通過したいわゆるサンシャイン条項は、この分野で、医師会の自主規制等が中心であった状況に対する大きな変化となりうる点で興味深い。また、連邦厚生省による既存の規則の実効性についての調査は、わが国の規制のあり方を考える上でも示唆になり得る。2.日米の法学者・弁護士・医師からなる研究会(医療の発展と患者の保護をめぐる倫理・法の現代的課題に関する研究(岩田太教授代表・厚生労働科学研究費補助金)からは、日米の医事法をめぐる研究につき有意義なな情報交換や意見交換を行った。3.後見制度の日米比較研究については、本研究のテーマである「利益相反」という概念および法理が他の隣接した法分野でどのように扱われ、意義があるかを検討する有効な手法であると考えている。信託法および後見法の一人者であるイングリッシュ教授と共同研究が始動したことは、本研究にとって意義が大きいと考えている。4.アメリカ代理法の研究についても、「利益相反」概念の隣接分野での意義を学ぶ機会と位置づけている。研究会には、英米法・医事法の専門家である樋口範雄教授、会社法の神作裕之教授、わが国の代理法の専門家である佐久間毅教授らが参加しており、本研究にとっても得るところが大きかったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に引き続き、アメリカでの医療における利益相反規制の動向を調査・分析する。さらに、医療における利益相反問題につき「いかなるルールが必要か」を探るために、利益相反概念が用いられているさまざまな法分野を横断的に研究する。たとえば「利益相反」は、英米信託法では古くから用いられてきた重要概念である。医療に限らず、他者のためになにかを「託されている」立場の者には、同様の「利益相反禁止」ルールが応用されている。弁護士、医師、会社の取締役、後見人などである。これらの議論の枠組みやルールを援用、あるいは比較対象とすることで、この問題の本質が浮かび上がると考えている。幸い、アメリカ信託法および後見法の統一法典の起草者であり両分野の第一人者であるディビッド・イングリッシュ教授より、後見制度の日米比較の共著論文執筆を提案され、始動した。この研究を進め、成果として英語論文を公表する。(本論文は完成次第、The Journal of International Aging, Law & Policy誌に掲載が内定している。)後見法は、未成年や高齢者等の意志決定が十分にできない者の代わりに財産や医療についての決定を行う後見人の責務を中心とした法だが、アメリカでの歴史は長く、「利益相反禁止ルール」の判例・学説の蓄積も厚い。この機会を本研究と結びつけて、利益相反概念の横断的比較を行う。また、代理法においても「利益相反」は重要な概念である。日米の代理法比較研究も進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度に引き続き、以下の調査・研究のための資料・旅費・その他の経費として使用する。1.日米の医療および利益相反規制2.日米の後見法3.アメリカの代理法
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