2011 Fiscal Year Research-status Report
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23730126
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
上野 達弘 立教大学, 法学部, 教授 (80338574)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 国際情報交流 / ドイツ |
Research Abstract |
本年度は、まず著作権法上の権利制限規定をめぐる従来の議論を再検討し、これを整理・総括することから始めた。この問題については、いわゆる日本版フェアユースと呼ばれる著作権法改正が震災の影響で遅れたものの、立法のあり方や、司法との役割分担などをめぐって、幅広い議論が行われた。そこで、こうした議論を分析した結果、この問題が、政策形成過程という観点から興味深い検討が可能なことが明らかになった。 また、ドイツ法の議論を網羅的に分析するという計画通り、Matthias LeistnerやMartin Senftlebenといった、新しい論文を含めて、深く検討した。その結果、伝統的には権利制限の一般条項に対して消極的なドイツ法においても、近時積極的な議論があることが明らかになった。 また、国際的議論について調査を開始する計画にあわせて、ちょうど議論が盛んになった「European Copyright Code」に焦点を当て、そこにおける権利制限規定のあり方に関して、集中的な検討を行った。ちょうど2011年9月に、ベルギーでこれに関するシンポジウムに参加し、起草者の学者たちと議論する機会を得たのは非常に有意義だった。 こうした研究を進めた成果発表として、2011年6月には北海道大学において、8月には同志社大学において、2012年2月には著作権情報センター研究会において、同年3月にはロンドン大学クイーンメアリ校において、そして同年4月には著作権法学会において、本研究に直接関係する研究報告を行ってきた。 以上のように、本年度は、国内外において、本問題に関する非常に充実した研究を行うことができただけでなく、その直接的な研究成果を、極めて活発に公表し、これをもとに研究者間で議論することができた。研究初年度としては、最高の1年を過ごせたと自負している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
第一に、国内の議論の分析については、本研究のテーマ(権利制限の一般条項)が、政策形成過程をめぐる議論へと拡大していることを受けて、当初想定していたよりも、幅広い観点からの深い検討が可能となったことである。これにより、単なる権利制限規定の一般条項のあり方を議論するのみならず、その立法プロセスや司法の役割といった点についてまで思索を深めることができた。 第二に、ドイツにおける議論の分析については、Matthias LeistnerやMartin Senftlebenといった若い学者による論文が2011年前後に積極的に公表され、この問題に関する議論が盛り上がったことである。これにより、ヨーロッパ大陸法における権利制限の一般条項に関する議論が深まり、わが国に与える示唆もさらに大きくなったからである。 第三に、国際的な議論の分析については、なんといっても、「European Copyright Code」をめぐる議論が盛んになったことである。ヨーロッパにおいても、頻繁にシンポジウムなどが行われたため、これに参加するとともに、同Codeの起草を担当した学者たちに直接会って議論できたことは、極めて有益であった。 第四に、研究成果の発表に関しては、上記【研究実績の概要】に記載したように、非常に多数にわたって、本研究テーマに直接関係する研究報告を行うことができた。とりわけ、Jonathan Griffithsの招きによりロンドン大学クイーンメアリ校において行われたセミナーにおいて、日本における権利制限規定をめぐる最新動向について報告し、日本の議論を外国に発信することができたことは、わが国にとっても、ヨーロッパにとっても意義深いものと考えている。 以上の点において、当初計画以上の研究を行い、成果を発表できているものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、当初計画にしたがって、ドイツ法および海外における国際的議論の分析をさらに深めていきたい。この問題をめぐる議論は、ドイツのみならず、ヨーロッパ全体において、非常に充実して盛んになりつつあるため、検討対象は大変豊富である。 方法としては、計画通り、文献の精読はもちろんのこと、外国出張による研究にも力を入れたい。というのも、前年度において、「European Copyright Code」をめぐるルーヴェンカトリック大学(ベルギー)におけるシンポジウムや、ALAIのポルトガル研究大会などに参加し、そこにおける議論を聴講するのみならず、これに参加している著名な学者と直接交流して得た知見は、文献の精読では得られないものがあると感じたからである。幸いなことに、外国におけるこうした研究活動を継続するうちに、諸外国の学者との関係も緊密なものとなり、相互的な学術交流がますます可能になっている。今後は、こうした関係を生かして、国際的な研究活動、そして日本の議論を世界に発信していくことに努めていきたい。 また、次年度は、いよいよわが国における法改正が具体化するものと推測されるため、改正される規定の内容はもちろんのこと、そのプロセスについて研究することが可能になる。これは、当然のことながら、本研究を進める上において、またとない分析対象になることは間違いない。そこで、こうした立法動向をリアルタイムに分析することによって、本研究のテーマに関する重要な経験と記録を実現し、将来の立法過程の研究に資するようにする所存である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
まず、文献等の収集のために、やはり一定の費用が必要となる。限られた範囲ではあるが、これは議論の把握のための不可欠な費用として、優先して使用するものとする。 そして、上記のような推進方策にしたがって、外国出張を是非とも実現したい。これも限られた予算の中で、効率よく、最大限の効果が得られるように、滞在計画を工夫したいと考えている。 その他、研究活動を進める上でどうしても必要となる諸費用につき、可能な限り、出費を抑える形で使用していきたい。 以上の点を基本として、与えられた予算を、最大限効率的かつ有効に使用する所存である。
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Research Products
(12 results)