2011 Fiscal Year Research-status Report
現代アメリカ政治のイデオロギー的分極化と大統領選挙:オバマ政権誕生以後の検証
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23730129
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
渡辺 将人 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 准教授 (80588814)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 大統領選挙 / アウトリーチ / 共和党 / 民主党 / 分極化 / イデオロギー |
Research Abstract |
平成23年度は、先行研究の文献調査と非公開資料収集と予備選挙過程の現地調査を並行して推進した。 第1に、有権者のイデオロギー的分極化の基礎研究として、アメリカのイデオロギー的分極化を共和党・民主党の政党間の対立だけでなく、共和党と民主党を構成する選挙民の変容に着目することで、分極化の端緒を党内分裂の過程から明らかにすることを試みた。とりわけ2010年中間選挙前後から全米規模で台頭したティーパーティ運動とその構成要素の変容を事例に、共和党内保守派のリバタリアンと社会保守派の分裂に焦点を絞って検証した。文献調査により、ニクソン政権の南部戦略以後、深南部保守層を組み入れた共和党が、東部穏健派と南部保守派の対立を経て、レーガン政権の誕生とキリスト教連合など宗教右派を動員する保守化の道筋を整理した。その上で、ティーパーティ運動が反オバマ運動としての意味に留まらず、W・ブッシュ政権期に遡る共和党の財政政策に対する反発に源流のあるリバタリアン的な性質について、複数回の渡米による現地調査でのインタビューと資料を援用して明らかにした。 第2に、予備選挙を中心とした選挙制度の基礎研究として、アメリカの大統領選挙の制度的問題について、予備選挙過程を中心に文献調査を推進した。1:フロントローディングと呼ばれる日程の前倒しの深刻化、2:アイオワ、ニューハンプシャーなどの人口動態的にも州産業的にもアメリカの平均とは言い難い予備選挙における緒戦数州の民意が候補者選別に影響を与える現状、3:党員集会や予備選挙の参加者の偏りにより特定の人種・エスニシティ、信仰、利益団体のイデオロギーや地域的利害が結果に反映される問題、4:予備選過程における緒戦数州にメディア報道が集中する問題などについて、アイオワとニュー ハンプシャーにおいて政党・候補者、有権者団体にインタビューを中心とした質的調査を推進した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ティーパーティ運動の性質については、リバタリアンと憲法修正第10条運動に体現される「憲法保守」の思想を検討することに注力し、アイオワ州における定点観測による模擬投票などへの参与観察も併せて行うことで、資料が必ずしも揃っていない分野における質的調査の蓄積に貢献した。他方で、予備選挙過程の研究においてはアイオワ党員集会とニューハンプシャー予備選挙で現地調査を行い、共和党の非公開資料収集に努めたほか、ハワイ州においてバラク・オバマの多文化的遺産の形成過程についての調査を聞き取り中心に進め、それらの成果は学会報告に加えて単著と論文の発表を行った。 他方、選挙過程のもたらす制度的功罪を照射すべく、大統領選挙過程がイデオロギー的分極化の促進と同時に、民主主義に貢献する側面を検討し、アイオワ党員集会についての先行研究を整理し、党員集会方式には公正な民意の反映の点で制度的欠陥が認められるものの、候補者と有権者の距離が近いリテール・ポリティクスが、グラスルーツの民主主義を活性化し、シニシズムの防波堤になる可能性も探った。さらに、ソーシャルメディア出現後の大統領選挙のグラスルーツ活動の先行研究更新に対する貢献を目的に、2008年のオバマ陣営によるアイオワ州選挙戦でのソーシャルメディア利用の質的含意を、民主党と共和党の党員集会の制度的特徴の相違点に焦点を絞って、2012年の共和党予備選に与えた影響に配慮しつつ検討し、ネット技術と伝統的地上戦との融合過程について国際学会(Western Political Science Association)において報告した。
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Strategy for Future Research Activity |
イデオロギー的分極化のアクターとして、議員や政党に影響を及ぼすアメリカのアドボカシー活動に着目した基礎研究をさらに進める。アメリカの大統領選挙に様々な形で参与するアドボカシー活動を、1:党や候補者の政策綱領に自らのイデオロギーを反映させ ようとする活動、2:選挙過程のメディア報道を通して全国的に主張を届けることを目的とする活動の2つのレベルに分けて、民主党系リベラル派、民主党系穏健派、共和党系穏健派、共和党保守派に連動するアドボカシー活動を把握する。平成23年度はティーパーティ運動を事例として扱ったが、反戦団体、環境保護団体、女性団体、人工妊娠中絶の禁止を訴える宗教的団体などの伝統的な政治グループが、選挙過程を通じて党・候補者とメディアの双方にアクセスしてきた経緯も精査する。 初年度の基礎研究における文献調査と資料収集を土台に、2012 年大統領選挙の進展に沿う形でアメリカでの現地調査を本格化させる。選挙アウトリーチの調査として、聞き取りによる質的調査で、民主党と共和党のアウトリーチによる集票戦略の実態から強調されるイデオロギー的争点の摘出を行う。(1)2012 年選挙で政党や候補者のアウトリーチ対象となっている団体や集団に 2008 年以前とどのような差異が存在するか。 (2)2012 年選挙で政党や候補者がアウトリーチ対象としていたり、政党や候補者にアクセスのある団体や集団に見られるイデオロギー的特質。 (3)上記2点について、共和党と民主党で顕著な差異があるか、党内の穏健派とリベラル派や保守派などで、支持母体のイデオロギー性に大きな違いが存在するか。 (4)政党や候補者がどの程度、アウトリーチ対象の団体や集団からの要望を政策綱領や演説に反映させているか。 (5)オンライン技術の利用者と平均的有権者との差異を地域別、人口動態。以上の点に留意した調査を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
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