2012 Fiscal Year Research-status Report
現代アメリカ政治のイデオロギー的分極化と大統領選挙:オバマ政権誕生以後の検証
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23730129
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
渡辺 将人 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 准教授 (80588814)
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Keywords | 大統領選挙 / アウトリーチ / 共和党 / 民主党 / 分極化 / イデオロギー |
Research Abstract |
平成24年度は、大統領選挙本選挙の年度であることから大統領選挙の現地調査を中心に聞き取り調査と資料収集をさらに本格化させ、イデオロギー的分極化のアクターとして、議員や政党に影響を及ぼすアメリカのアドボカシー活動に着目した研究を進めた。アメリカの大統領選挙に様々な形で参与するアドボカシー活動を、1:党や候補者の政策綱領に自らのイデオロギーを反映させようとする活動、2:選挙過程のメディア報道を通して全国的に主張を届けることを目的とする活動の2つのレベルに分けて、民主党系リ ベラル派、民主党系穏健派、共和党系穏健派、共和党保守派に連動するアドボカシー活動を把握を目指した。具体的には、民主党全国委員会、NDN(旧ニューデモクラティックネットワーク)などの政党関連組織のほか、ワシントンの保守系メディア、リベラル系メディアに対する聞き取り調査を行ったほか、アジア系、ヒスパニック系などのエスニック集団、反戦団体、女性団体、人工妊娠中絶の禁止を訴えるカトリック系の宗教的団体などの伝統的な政治グループ が、選挙過程を通じて党・候補者とメディアの双方にアクセスする過程の象徴的事例として、大統領選挙年における夏の全国党大会に焦点を絞り、共和党と民主党の両党大会の全過程で現地調査を行った。2012 年選挙における政党や候補者のアウトリーチの動向について、2008年以前との変化および2012 年選挙で政党や候補者がアウトリーチ対象とした集団に見られるイデオロギー的特質について、オバマ陣営とロムニー陣営、さらに党内の穏健派とリベラル派や保守派などの実態を把握することを目指し、聞き取り調査と資料収集を軸に調査を深めた。2012年大統領選挙以後は、新しいオンライン技術がアメリカの選挙をどのように変えているのかをオバマ陣営のデータ選挙と地上戦回帰傾向を中心に陣営と党関係者への聞き取りで調査した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
イデオロギー的分極化については共和党と民主党の党内分極化を相当程度解明した。前年度までの研究の蓄積があるティーパーティ運動について、フロリダ州タンパで開催された共和党大会におけるロン・ポール候補派などのティーパーティ系集団の反ロムニーの動きと保守派包摂を試みるロムニー陣営の動向を現地で調査し、レーガンに代わる保守派の理念喪失状況を確認した。他方で民主党内部の分極化については、2008年大統領選挙におけるオバマ政権の生成過程を民主党内の穏健派とリベラル派の対立に起源を求め、2010中間選挙後のオバマ政権の経済政策における中道化と2011年後半からの労働者寄りポピュリズムによるリベラル回帰の流れを党内関係者への聞き取り調査と文献調査で整理した。これらの成果の一部は『 オバマ・アメリカ・世界』 (NTT出版, 2012年)ほか口頭報告などに盛り込まれた。また、アウトリーチの新展開をめぐるフロントとして、民主党独特の党大会のアウトリーチ活用戦略について、ノースカロライナ州シャーロットでの党大会現地調査で解明を試みた。民主党の全国党大会は代議員による候補者指名投票という伝統的儀式やメディア向けのテレビ演説会という目的とは別に、アウトリーチへの応用を見据えたイベント開催による有権者のソーシャルネットワーク構築を目指している実態を明らかにした。激戦州重視、資金獲得競争の激化、テクノロジーの進歩によってその意義が増している傾向をアジア系を事例として調査した結果である。こうした動きを支える技術進歩の選挙への影響については「アメリカ大統領選挙における新技術と集票過程:アイオワ党員集会と2008年オバマ陣営の事例を中心に」『メディア・コミュニケーション研究』63号(北海道大学, 2012年)に盛り込まれたが、党大会を用いたアウトリーチ過程の実際については、現在執筆中の寄稿論文にて報告する。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度はこれまで行ってきた現地調査とイデオロギー的分極化の実態を踏まえ、アメリカの選挙におけるアウトリーチの全体像と今後の行方を包括的にまとめる段階に入る。要すれば、2012年大統領選挙のオバマ陣営戦略は資源配分と集中的なアウトリーチによる選挙のターゲティングが最先端までいった選挙であった。これにより一般投票では接戦だったオバマは、激戦州をほぼすべて勝ち取って再選を決めた。その激戦州戦略は民主党が伝統的に得意としていた地上戦を、マーケティング手法によるターゲティングとソーシャルメディアを利用した動員という新技術に接合した点で、過去の選挙と完全に異質であった。共和党ロムニー陣営はスーパーPACによる巨額の資金を旧式のスポットCMに注いたものの、本選でオバマ陣営の新戦略には歯が立たなかった。最終年度では、こうした最先端の現状を1980年代の「空中戦」一辺倒の選挙から新技術による新たな「地上戦」回帰が起きていることとを新しい支持者ネットワークが生まれている現象と捉え、より体系的にまとめる。その上で、1970年代から本格化した候補者中心選挙がさらに深化したのか、それとも政党の影響力が残存しているのか、イデオロギー的な分極化はそれにより変動するのかを考察し、アメリカの選挙とアウトリーチの変遷の中に適切に位置づけて解釈することも目指す。まず、アウトリーチ戦略を位置づけるために集票をめぐる技術革新の経緯を整理し、さらにアジア系のような人口が少ないマイノリティ集団や若年層など伝統的に投票率が低かった集団が投票に意欲的になる相互コミュニケーションとしてのアウトリーチの可能性、とりわけソーシャルメディアなどの技術進歩の含意を省察する。ヒスパニック系の増加による人口動態と世代交代で共和党が圧倒的に不利にある問題など共和党と民主党の今後の課題をめぐる比較検討も視野に入れる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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