2011 Fiscal Year Research-status Report
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23730167
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Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
井上 正也 香川大学, 法学部, 准教授 (70550945)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 中ソ対立 |
Research Abstract |
本研究の目的は、1950年代から1970年代初頭にかけての中ソ関係の変遷を、日本政府がいかに認識しており、日中国交正常化に至る日中関係において、「ソ連要因」がいかなる影響をもたらしたかを解明することにある。本研究は、とりわけ、外務省内の専門家の情勢分析に着目することで、従来、軍事的・戦略的思考の欠如が強調されてきた日本外交が、共産主義諸国に対して、いかなる戦略的見地にあったかを解明する。また、中ソ対立と戦後日本外交という観点から分析することで、従来、二国間関係史が中心であった戦後日本外交を広くアジア冷戦史の文脈の中で位置付けることを目指す。 本研究は、(1)日本政府の中ソ関係に関する情報収集体制の成立過程。(2)中ソ対立に関する情報が日本政府の政策形成にもたらした影響。(3)日中国交正常化に至る両国関係において「ソ連要因」の影響の解明、の三点を明らかにすることにある。 本研究は以下の三点で独創的である。(1)従来の研究では、これまで明らかにされてこなかった日本の情報収集体制に着目し、外務省専門家の情勢分析という視点から戦後日本外交史と捉え直す試みである。(2)本研究は、情報収集の制度研究に偏りがちなインテリジェンス研究とは一線を画し、伝統的な外交史的手法を組み合わせることで、中ソ関係をめぐる日本政府の収集情報が、いかに政策形成に反映されたか(されなかったか)を解明する試みである。(3)日中関係における「ソ連要因」という観点から見直すことで、しばしば米中関係の従属変数と見なされがちであった日中国交正常化交渉を異なる角度から描き出す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は(1)を中心に検証を行った。まず1950年代前半から1960年代前半にかけての、中ソ関係に対する日本政府の情報収集体制の構築について明らかにした。講和直後から吉田政権は、将来的な中ソ対立を予測して、対共産圏の組織的な情報収集を行うことを目指していた。本研究は、日本政府の米国中央情報局や台湾の国民党政権との情報提携の構築過程や、英仏との定期的な情報交換協議を設立の経緯を部分的ながら解明した。また、中ソ関係の分析を目的とした国際資料委員会の成立過程を分析し、同委員会が、1963年に国際資料部に改組される過程を論じる。本研究では、近年公開された外務省史料を駆使することで、ヒューミント(人的情報)を中心とした戦後日本の情報体制がどのように形成されたかを検討した。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度に引き続き、研究目的における(2)と(3)の検証を行う。(2)に関しては、前述した情報体制で入手された中ソ関係の情報が、政府レヴェルの政策形成にいかなる影響をもたらしたかを分析する。本研究がとりわけ着目するのは、中ソ対立の情報に対する日本の政策決定者の姿勢である。本研究は、外務省内で、アジア局を中心とする中国専門家と、欧亜局を中心とするソ連専門家の分析の違いに着目し、日本政府がなぜ情報を有益に政策に反映させることができなかったのかの要因を明らかにする。 (3)に関しては、1969年の中ソ国境衝突以降、日本が日中国交正常化に向かう政治過程において、「ソ連要因」が日中関係にどのように影響を与えたかを明らかにする。日中接近に消極的であった外務省のソ連専門家が日中交渉積極派に転じた背景には、中ソ対立をめぐる情勢認識が存在した。本研究は、中ソ対立をめぐる情勢分析が、実際の日本の中国政策に結びつく過程を明らかにすることで、米中関係を軸にした従来とは異なる視点から日中国交正常化を論じる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
計画第二年度は、前年度に引き続いて史料調査とインタビューを継続すると同時に、(3)日中国交正常化に至る両国関係において「ソ連要因」の影響の解明、に関する史料収集を実施する。(3)に関する日本側史料については、外務省関係記録に加えて、『佐藤榮作日記』や『楠田實日記』といった当時の政権関係者の公刊された一次史料、さらに未公刊の『森田一日記』(森田氏蔵)なども活用予定である。外務省の中ソ対立に関する分析と、官邸の政策決定がいかに連関していたかを解明できればと考えている。 なお、研究第二年目の海外史料調査としては、中華人民共和国外交部档案館(北京)での史料収集を予定している。中国側の史料公開状況は未だ限定的とはいえ(日中国交正常化の時期については現時点では未公開)、1950年代から1960年代初頭にかけての中ソ関係に対する中国側の認識や、日中交渉における「ソ連要因」を検証する上では不可欠である。
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Research Products
(5 results)