2011 Fiscal Year Research-status Report
多元的政策スキームとガバナンス:PRSP体制とHIV/AIDS対策の交錯
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23730170
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
元田 結花 学習院大学, 法学部, 教授 (20292807)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 開発援助 / ガバナンス / アフリカ / ウガンダ / 貧困削減戦略文書(PRSP) / HIV/AIDS |
Research Abstract |
第一に、国際開発一般、アフリカ国家論・市民社会論、PRSP(貧困削減戦略文書)体制、HIV/AIDS対策の四分野における文献リストを作成し、それをもとに資料収集を行い、先行業績を総括した。加えて、グローバル・ガバナンス論も批判的に検討した上で、特にウガンダにおいて、PRSP体制とHIV/AIDS対策という複数のグローバルな政策対応が受け入れ国に及ぼす影響の解明に向けた作業仮説と分析枠組みを構築した。その成果を‘Governance of Development in African Countries under the Plural Aid Schemes: What is Emerging at the Confluence of the PRSP Approach and HIV/AIDS Policies?'にまとめた(University of Tokyo Journal of Law and Politics, Vol. 9に掲載予定)。 第二に、アフリカ諸国と歴史的に密接な関係にあるEUを取り上げ、現在の国際開発援助政策の潮流と、その下での個別ドナーの具体的戦略を分析した。この作業の成果は、元田結花(2012)「EUの国際開発援助政策に見る規制力の限界:利他性・規範性の後退」遠藤乾・鈴木一人編『EUの規制力』日本経済評論社、221-240頁にまとめた(平成24年2月公刊)。 第三に、平成24年9月より在外研修の機会を得ることが確定したので、受入予定機関である英国ウォーリック大学政治・国際学部で関連する研究に従事しているスタッフと連絡を取り、ウガンダでの長期の現地調査に向けた準備に着手した。同時に、平成24年2月~3月に予定していた同国での短期の現地調査は、実施期間を次年度以降に延長し、数ヶ月単位で、地方を含めた現地調査を複数回行う形に修正することにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
主にウガンダを事例として、PRSP(貧困戦略削減文書)に依拠する援助スキームと、世界銀行が主導する国家エイズ委員会を中心とするHIV/AIDS対策スキームが、途上国のガバナンスに及ぼす影響を解明するにあたり、最初の作業仮説および分析枠組みの構築を進めることができた。具体的には、両スキームの政策過程が交錯する中央および地方における複数の「政策空間」に着目し、関連する行為主体――ウガンダ政府・市民社会団体・民間セクター・援助供与主体(ドナー)――の間の関係を、各空間を取り巻く国際的・国内的要因と関連づけながら動態的に把握することを目指していくことになった。 同時に、EUの近年の国際開発援助政策の分析は、個別の援助スキームを大きく方向付ける国際開発援助政策の潮流のフォローアップと、その下での個別ドナーの具体的な戦略への理解の深化につながった。ウガンダを対象とした現地調査において、援助の現場で各ドナーの行動様式を分析するための背景知識を獲得する意味でも、重要な作業となった。 但し、平成24年2月~3月に予定していたウガンダにおける短期の現地調査を延期したことを受けて、既存文献からは分からない実態の把握に努め、「政策空間」を軸とした作業仮設・分析枠組みの有用性を確認し、必要に応じて修正を施していく作業も次年度以降に持ち越されることとなった。これは、平成24年9月からの在外研修の機会を活用して、より詳細な長期の現地調査を行う方が、本研究目的に資すると判断したからである。受入予定機関であるイギリスのウォーリック大学政治・国際学部は、グローバル・ガバナンス、HIV/AIDS政策、開発援助、途上国の市民社会についてそれぞれ専門に研究しているスタッフを擁しており、在外研修の準備も兼ねて、これらスタッフとの交流を通じて、現地調査に向けた準備に着手した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年9月より予定されている2年間の在外研修を活用して、(1)関連分野の文献リストのアップ・デート、(2)最新の文献リストに基づいた資料収集・分析、(3)作業仮説・分析枠組みの修正、(4)ウガンダにおける長期の現地調査の事前準備、(5)長期の現地調査の実施、(6)現地調査に基づいた新たな作業課題の探求、(7)最新の文献のフォローアップと作業仮説・分析枠組の確定を踏まえた最終的な研究成果の総括といった形で、作業を進めていく。 数ヶ月単位で数回にわたって、首都カンパラに加えて地方も対象に現地調査を進めるためには、当初予定していた以上に入念な準備が必要となる。現場感覚を培うための予備調査を平成25年3月に行うことを念頭に、平成24年9月からの1年間は、全体の研究計画と作業仮説・分析枠組みの精緻化に努めるとともに、現実的な現地調査の計画・準備を進めていく。長期の現地調査は平成25年夏以降に行う予定であるが、現地調査から戻る都度、調査を総括し、情報収集・整理・分析、作業仮説・分析枠組の検証・修正を次の調査に向けて行い、帰国前の平成26年6月~8月には、まとまった分量の原稿を用意する。 在外研修期間を通じて、受入予定機関であるウォーリック大学での研究交流を活用し、関連する領域を研究するスタッフから幅広いインプットを得る予定である。また、英国にはアフリカ関係・開発学関係の研究機関が多いことから、研究代表者がかつて学び、現在も交流があるサセックス大学開発問題研究所などウォーリック大学以外の機関の図書館にもアクセスすることで、日本では入手できない情報を活用していく。英国とアフリカとの歴史的なつながりから、現地との接点を有する研究者も多く、人的ネットワークを広げながら、ウガンダでのインタビュー対象者へのコンタクトや、通訳・ロジスティックの手配、質問票の適切な言葉遣いの確認など、現地調査の準備を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年9月からの2年間の在外研修という、大きな予定の変化を受けて、予算の配分も変更することが求められる。平成24年2月~3月に予定していたウガンダにおける短期の現地調査を延期したことを主たる理由として、本年度の使用残額は620,192円となった。これを次年度の平成25年3月に予定している2~3週間の予備調査に充当する。拠点が英国となることから、航空券代が日本-ウガンダ間よりも安価になるため、全体の費用は当該金額よりも少なくなる可能性が高い。但し、最終的な金額は、地方への交通手段、安全性・通信面を考慮した宿泊施設の値段、通訳の相場なども考慮する必要があり、現時点では確定できるものではない。 書籍代は、本年度に関連書籍をある程度揃えることができたので、次年度は200,000円の見込みである。また、文献リストのデータベース化に際し、ワープロソフトの変更(MS-Office 2003からMS-Office 2010へ)に対応させるために、文献管理ソフトもEndNote X5を導入する必要があり、50,000円の支出を予定している。複写費・通信費は50,000円を用意しておくが、英国に拠点が移ってからの扱いは現地で確認する必要がある。予備調査で用いるICレコーダに10,000円、デジタルカメラ用のSDカード他記録媒体に10,000円、事務用品に10,000円を割り振っておく。 予備調査の費用が不確定であるものの、上記の合計金額は、本年度の使用残額と次年度の研究費の総和よりも少なくなる見込みである。予算を最も費やすことになるウガンダでの長期の現地調査は、平成25年夏から平成26年の前半までに行うことになるため、当初予定していたよりも、次年度の配分を少なくして、平成25年度・26年度に割り振ることにする。
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