2013 Fiscal Year Research-status Report
多元的政策スキームとガバナンス:PRSP体制とHIV/AIDS対策の交錯
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23730170
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
元田 結花 学習院大学, 法学部, 教授 (20292807)
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Keywords | 開発援助 / HIV/AIDS / ガバナンス / ウガンダ / 政策調整 / 多中心的ガバナンス / 権力分析 |
Research Abstract |
本研究は、PRSP体制とHIV/AIDS対策を対象として、複数の援助スキームが現在の被援助国のガバナンスに及ぼす影響の解明を目指すものである。しかし、現在の援助ガバナンスが、グローバルレベル・国家レベル・地方レベルと多元的に展開され、多数の行為主体が各レベルにおいて領域横断的に、かつ、他者との関係性を常に変化させながら参加していることから、両スキームが交錯する「政策空間」の分析が予想以上に膨大な作業となることが、研究が進展するにつれて明らかになった。そこで、まずはHIV/AIDS対策に焦点を絞ることが戦略的に有用と判断した。 理論的枠組みについては、平成25年度前半に一層の精緻化を進め、「多中心的ガバナンス概念」を導入し、①その特徴、②それが政策運営に与える影響(利点と課題)、③そこにおける権力作用、を分析するための視座を特定した。この枠組みを元に、平成25年度の後半にはウガンダを事例とした現地調査の準備を進め、平成25年10月末~11月末の1ヶ月間、および、平成26年2月中旬~3月末の6週間の2回に分けて、カンパラとムバララにおいて、HIV/AIDS対策に関係する人々(計65名)を対象にインタビュー調査を行った。 第1回目のインタビュー調査から得られた情報は、特に多中心的ガバナンスが政策運営にもたらす影響に関する理論枠組みの修正と、第2回目の調査のの質問内容の精緻化に繋がった。第2回目の調査から得られた情報によって、Power Cube(権力立方体)の考え方を出発点とする本研究の権力作用についての分析枠組みを修正すべきことが明らかとなり、その作業に着手した。これは同時に、「権力立方体」概念が、多面的に展開する権力作用を特定するには役立つが、特定された複数の権力作用をどう結びつけるのかを説明するものではないことを意味しており、当該概念の限界を明らかにすることにも繋がった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は当初、PRSP体制とHIV/AIDS対策を分析対象としていた。しかし、それぞれの援助ガバナンスが展開する次元・領域が拡散し続け、そこに参加する行為主体が加速度的に増大している現状では、各スキームの多中心的ガバナンスを分析するだけでも膨大な作業量が必要であることが、研究を進めるにつれて明らかになった。とりわけ、国際機関・先進国の援助機関・途上国の中央政府・市民社会団体(国際的なものと途上国内部のもの双方)・現地の人々、を主たる分析対象としてきた従来の開発援助研究の射程範囲を超えて分析を進めるという本研究の目的を遂行するには、両スキームを一度に取り扱うのではなく、まずはHIV/AIDS対策を綿密に分析することが有用と判断した。その結果、PRSP対策については、平成25年度は先行研究のフォロー以外はあまり進まなかった。 その一方で、HIV/AIDS対策を対象とした多中心的ガバナンスの分析については、①国家中心のガバナンスと対比した七つの特徴の抽出、②政策運営における利点(政策の柔軟性・独創性の確保、広範な資源の動員、多様な選択肢の提供)と課題(政策調整の欠如、取引コストの増大、責任の所在の不明確化、認知の不均衡、文化間の対立)、③権力作用の多面的展開、の三点について理論的枠組みの精緻化に努め、これらをケース・スタディの手法を用いて、二回にわたる現地調査から得た情報を元に、ウガンダのHIV/AIDS対策に実際に適用していく作業を行い、かなりの進展が見られた。現地調査では、首都カンパラのみならず、地方都市ムバララにも足を運び、上述の先行研究が分析対象としてきた行為主体に加え、国会議員・地方政府担当者・公衆衛生機関従事者・メディア関係者・私立財団関係者など、より広範な行為主体にもインタビューを行った点も、平成25年度の成果と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度の前半は、まず二回の現地調査で得られた情報を元に、多中心的ガバナンスにおける権力作用についての分析概念の再構築を行う。その後、今までの作業で準備しておいた草稿を元に、研究の目的と方法について扱う序論(第1章)と理論的枠組みについての章(第2章)の第一稿を用意する。この二つの章に照らし合わせる形で、ケース・スタディの章の議論を構築し、その具体的な論拠を用意していく。具体的には、二回の現地調査で得られた情報を用いて、ウガンダのHIV/AIDSセクターにおいて展開する多中心的ガバナンスを対象として、①七つの特徴の当てはめ(第4章)、②政策運営にもたらす利点と課題の分析(第5章)、③権力作用の多面的展開の分析(第6章)、を扱った三つの章のたたき台となる、詳細なレジュメを完成させる。 平成26年度の後半には、事例研究の三つの章の第一稿を完成させるとともに、ウガンダのHIV/AIDS政策についての概要を記した章(第3章)と、結論(第7章)の第一稿を用意する。こうして得られた全体の議論は各種研究会・ワークショップにて報告し、理論的枠組みと事例分析の妥当性を検証した後、平成26年3月末までに、最終稿を用意する。 なお、事例分析についてのレジュメの作成は同時に、二回の現地調査で得られた情報で十分かどうかを検討することにも繋がる。現時点では、カンパラで最低でも4名・ムバララにて最低でも4名、インタビューを行うことが望ましい行為主体がいる。レジュメを完成させるのと並行して、インタビュー対象者とそれぞれに対する具体的な質問内容を確定し、必要な準備を経て平成26年度の後半(現時点では、平成26年11月上旬を候補として考えている)にもう一度現地調査を行うこととする。また、状況によっては、スカイプなどの代替手段を通じて情報を入手することも選択肢に入れる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額が生じたのは、平成26年度2月16日~3月30日までの、第2回目のウガンダにおける現地調査の費用が反映されていないためである。時期については、インタビュー対象者のスケジュールと研究代表者のスケジュールを調整した結果、年度末に実施せざるを得なかったという事情がある。6週間に及ぶ現地調査であることから、その金額も大きく、1,248,532円のうち、大半は本来はそちらに充当されるはずの費用であり、平成26年度に処理される予定である。 なお、手元の計算では、上記の次年度使用額から第2回目の現地調査の費用を差し引くと、250,000円ほど余る。これは、ウガンダのような途上国では、インタビュー対象者側の事情による予定変更により、予期せぬスケジュール変更にともなう、交通費や宿泊費をはじめとする想定外の支出が必要な場合もあるため、予算を多目に見積もっていたことによる。 上述の通り、次年度使用額の1,248,532円の大半は、平成26年度2月16日~3月30日に実施した現地調査の費用として、平成26年度に処理される。残りの250,000円程度は、本年度の経費と合わせて、現時点では、平成26年度11月上旬に予定している第3回目の現地調査の費用に充当する予定である。
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