2011 Fiscal Year Research-status Report
近代ドイツへの『国富論』導入をめぐる経済思想史的研究
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23730206
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
大塚 雄太 名古屋大学, 高等研究院, 特任助教 (70547439)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 経済思想史 / 社会思想史 / アダム・スミス / 道徳哲学 / 市民社会論 / 啓蒙思想 / ファーガスン |
Research Abstract |
23年度は当初の計画通り、まず『国富論』のガルヴェ訳とオリジナルとの対照作業を進めた。この作業によって、前者が、単なる言語上の置換ではなくニュアンスの当然の変化を伴い、それはまた少なからず翻訳者ガルヴェの解釈によるものであるという本研究の基本的な方向性が具体化されてきている。全体像が見えていない現段階ではその学術的意義を十分に提示することはできないが、少なくとも『国富論』のドイツ語訳とオリジナルとの区別は、ドイツでの『国富論』の普及過程に言及するうえで極めて重要だろうと考えられる。また、ガルヴェ訳に関する同時代人たちの評価について資料収集・調査を、主にドイツにて現地研究者の助力を得つつ進めた。この過程で、本研究が『国富論』翻訳の下地となったガルヴェ自身の思想形成過程を重視していることもあり、『国富論』に関係するもののみならず、広くガルヴェの思想的インパクトを示すような著作・論文を収集することに努めた。なかでも、初期ガルヴェの思想が後に社会哲学的方向に展開していく際のコントラストを示すような資料を入手できたことは望外の成果として特筆すべきことである。したがって、それらを早急に活用するためにも、当該年度に24年度以降に予定していたガルヴェの道徳哲学についての研究を前倒しした。これについては、初期ガルヴェの思想形成を考察する場合に重要な、アダム・ファーガスンの『道徳哲学綱要』のガルヴェ訳および注釈の全体像を明らかにし、社会思想史学会第36回全国大会(名古屋大学)にてその一端を報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『国富論』のドイツ語訳の実態を精査するという目的は、比較対照表を着実に作成しており、おおむね順調に進展している。ガルヴェの思想史的位置づけに関しても、ヨーロッパの研究者からの助力を得つつ学際的観点から行われており、こちらは当初の計画以上の進展をみている。学術論文のベースとなる学会報告をすでに行い、ドイツ啓蒙と中国との関係を問うた著作の書評を手掛けたこともあり、本研究の目指す学問的新水脈の発掘が着実に進行しつつある。ただしその反面、ガルヴェの近代社会認識についての研究が若干手薄になったことは否めず、この点を24年度にカバーする必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も現在の研究の方向性に即して進めていくが、23年度に若干手薄になったガルヴェの近代社会分析の研究をはじめ、彼の道徳哲学についての研究などを論文として公表することに努める。また引き続き、ガルヴェと『国富論』に関係する最新の研究動向を追跡するとともに、当時の雑誌論文の収集を海外にて行うつもりである。その際、23年度に構築した海外研究者とのネットワークを存分に活用し、国際的研究状況のなかで本研究の位置づけを探っていきたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初支出を見込んでいた古書数冊に関し、期せずして海外で複写する機会に恵まれたため、若干その分の差額残余が生じたことと、外部から研究者を招いて意見交換をする機会を逸したことでここでもまた残余が生じた。とはいえ、この残余については24年度の支出計画に組み入れ、資料収集(図書購入)および研究者招聘費用に充当する予定である。
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