2011 Fiscal Year Research-status Report
アジアにおける靴産業の再編とバリューチェーン:インフォーマル経済に注目して
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23730227
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
遠藤 環 埼玉大学, 経済学部, 准教授 (30452288)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | バリューチェーン / インフォーマル経済 / 靴産業 / 東南アジア / グローバリゼーション / タイ / 中国 |
Research Abstract |
本研究の目的は、グローバル化時代のインフォーマル経済に注目しながら、バリューチェーン(Value Chain)分析を、経済的側面、制度・社会的側面の両方から実証的に検討することである。 本年度は、第1にマクロ統計分析への着手、第2に資本類型別に、生産・輸出の実態とその再編に関する理解を深めるため、生産・販売に関するデータを公開している大手資本に関しては企業別に資料を収集した。また個別に体系的なデータを公開していない零細資本に関しては、集積地において数社を事例として選び、インタビューを実施した。 明らかになったのは以下の通りである。マクロ統計分析からは、欧米諸国への輸出の縮小傾向と、近隣アジア諸国、中東などに対する緩やかな増大傾向が続いていることが確認された。輸出入の動向の変化の理由は、経済危機の直接的な影響よりも、グローバルな生産拠点の再編の影響による可能性が高い。元来、グローバル資本は直接生産を行うことはなく、タイ系大手企業がブランドのライセンスを得る形で生産をしてきた(OEM)。靴は革靴とスポーツシューズでは、必要な技術が異なり、生産体系にも個別の特徴がある。近年、国際的な生産拠点の再編が顕著であるのは欧米市場向けのスポーツシューズである。一方で、零細資本が近隣アジア諸国に輸出を伸ばしているのは革や布製品である。これらの動向をより詳細に把握するため、靴の種類別の統計分析に着手した。また、川上部門から川下部門を全て総括的にコントロールできるのは、一部の大手資本のみである。それ以外の企業は原材料や部品を中国や他国からの輸入に依存している場合が少なくない。資本類型別、メゾレベルでの分析が必要となる。これは次年度の課題でもある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度はマクロ統計分析、個別企業のデータ収集はある程度は進んだものの、まとまった体系的な既存の分析がないため、資本類型別、特性別のメゾレベルでの分析を時系列に行うためには、細かい作業を伴う詳細な統計処理を行う必要があり、年度内には終えることが出来なかった。平成24年度は、これらの分析を進め、類型別に特徴を浮かび上がらせたいと考える。 また、大手資本、零細資本ともに、夏にインタビューを実施することが出来たが、当初の予定では、冬に再度、平成24年度の質問表調査に向けて、予備調査を兼ねたインタビュー調査を実施する予定であった。ただし、タイにおける洪水によって、主要なターゲットにしていた中堅企業は打撃を受けたため、インタビュー調査は延期された。また、洪水というリスクによる影響が大きいため、生産・輸出の動向に関する変化を分析する際にも今後は留意が必要になる。平成24年度には、生産を再開したこれらの企業に対して、再度調査を実施する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、アジア市場を鳥瞰するマクロ分析、およびタイにおける靴産業の再編の概要把握を受けて、第1には、靴の種類別、資本類型別動向の分析を更に進める。第2には、その分析結果に基づき、タイにおける大手資本、零細資本の代表的、重要な事例を選び、質問表調査を実施する。生産、輸出に関する基本情報のみならず、産業の高度化、労働者の雇用形態などに関する質問が含まれる。あわせて、大手資本と零細資本の下請け関係の有無やその変遷についても明らかにする。産業の高度化に関する視点は特に重要となる。同じく国際的競争にさらされているタイの衣料産業に目を向けると、零細資本に関しては競争圧力の増大に対して、産業の高度化、生産性の向上を志向するよりも、賃金の安い地域への移転や移民労働者の活用、インフォーマル化によって対応しているのが現状である。したがって、生産性が上がりつつある中国やベトナム、ミャンマーといった競合国に対して優位性を確保できておらず、重要な転換点にある。靴産業に関しては、技術習得が衣料ほど容易ではない。衣料産業との相違も念頭におきながら、各企業の戦略に関して分析を行う。第3には、中国などの靴産業集積地への下見調査を実施する。なお、平成24年度は、在外研究のため、イギリスにおいてバリューチェーン分析研究に従事している。各国には滞在先から出張する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は、「今後の研究の推進方策」で前述の通り、タイにおける本調査(企業に対する質問表調査)を予定している。夏に3週間ほど使用し、大手企業、零細資本などの類型別に質問表調査を実施する。また、特に重要な事例に関しては、詳細なインタビューを行うことを予定している。また、中国の生産集積地への下見調査も予定している。旅費は主に、これらの海外出張のために使用される(なお、イギリス滞在中のため、起点はロンドンになる)。また、マクロ統計分析、各個別企業のデータの収集と分析を進めるため、資料整理や分析のためにアシスタントを必要とする。謝金は、中国における通訳や、データ入力のアルバイトのためのものである。物品費は例年通り、関連文献や資料の入手、文房具などに使用する。年度末には成果報告を予定している。関連する出張や英語校閲に対する支出も予定している。
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Research Products
(3 results)