2012 Fiscal Year Research-status Report
アジアにおける靴産業の再編とバリューチェーン:インフォーマル経済に注目して
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23730227
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
遠藤 環 埼玉大学, 経済学部, 准教授 (30452288)
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Keywords | バリューチェーン / インフォーマル経済 / 靴産業 / 東南アジア / グローバリゼーション / タイ |
Research Abstract |
本研究の目的は、グローバル化時代のインフォーマル経済に注目しながら、バリューチェーン(Value Chain)分析を、経済的側面、制度・社会的側面の両方から実証的に検討することである。 本年度は、第1に、タイにおける企業調査(大手資本、零細資本の両方)、業界組織(タイ靴産業振興組合、工業連盟など)に対するインタビュー調査を実施した。第2には、アジアにおける靴産業再編の動向を把握するため、日本の大手靴メーカーや、上海に立地する中国の靴メーカーの工場調査などを実施した(中国における予備調査を兼ねる)。第3には、タイ工業省から入手した工場登録データの分類、集計に着手した。 明らかになったのは以下の点である(主にタイについて記述)。第1に、タイにおける靴産業の再編の進行とその特徴についてである。靴産業は、典型的なバイヤー主導型のバリューチェーンを特徴とする。グローバルバイヤーの生産拠点の変更と他国への発注に伴い、大手資本は一時的に稼働率を下げたりしつつも、新たなOEM生産の発注元を獲得すると同時に、自社ブランドの開発に目を向け始めた。一方で、零細資本についても、近隣アジア諸国やアフリカ諸国の市場を視野にいれ、国際展開を開始している。ただし、2011年の洪水やリーマンショック、原材料価格の高騰、ユーロの下落の影響を受け、業績には差が出てきている。いずれも、2015年のAEMを視野に入れ、新たな戦略を検討している。第2には、熟練労働者の不足の深刻化と、それに伴う移民労働者の雇用の増大、国境地帯への生産拠点の移動などの傾向である。 全体としては、従来交わることのなかったグローバルブランドを扱う企業や、国内市場向け中堅企業、零細資本のバリューチェーンの近接化が、生産面、労働面において徐々に進んでいる事が特記に値する。この動きをアジア全体の再編の中で理解する事は今後の課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は、靴産業振興組合の協力もあり、大手企業に関しては、年次総会にて複数の企業へのインタビューの実施や、その後の各工場訪問などが実現した。平成23年度には、洪水の影響で調査を延期せざるを得なかった企業に関しても、調査が実現した。零細資本については、工業省に登録しておらず組合の会員にもなっていない企業が多いが、個別に接触し、カンボジア国境沿いに生産拠点を移動した企業などを調査した。タイの靴企業の全体像を示すような統計は存在しておらず、個別の企業の情報を積み上げながら、それぞれ部分的にカバーしている業界組織の会員情報などと照らし合わせて行くしかない。工業省統計データの集計(継続中)と合わせて、地道にその作業を続け、平成25年度は、マクロな概要と個別のこれらの企業調査のデータを照合しながら、より高い水準の実証分析を行うことを目指す。一方、世界の靴の70%を生産する中国に関しては、予備調査は上海に立地する企業にとどまり、集積地などにおける調査は着手できなかった。在外研究でイギリスに在住しており、長期での訪問を何度も繰り返す事が出来なかったことが一つの理由である。これは今後の課題である。なお、類似産業である縫製産業に関して、バリューチェーンを生産面から分析した論文(共著、Journal of Contemporary Asiaに掲載予定)、労働面から分析した論文(近日、ワーキングペーパーに登録、ジャーナルに投稿予定)を執筆した。縫製産業と靴産業では、いずれも労働集約産業であり、労働者不足という同様の問題を抱えつつも、生産関係、技術体系が異なり、再編の動向や、産業の高度化の可能性において異なる特徴も持っている。比較の視点から、靴産業の動向を明らかにする事も試みる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、第1には、「現在までの達成度」で触れた通り、タイにおける靴産業の再編と産業の高度化の可能性に関して検討するために、マクロ分析と個別に積み上げた企業分析を総合し、より実証的な分析を進める。特に、異なる特徴を持っているバリューチェーン(大手グローバル資本、大手地場資本、零細資本)の近接化の動向の中身をより具体的に明らかにする。第2には、生産面のみならず、バリューチェーンの労働の側面にもより着目し、労働者の実態調査に着手する。インフォーマル化が進行する縫製産業との比較も念頭におきながら、靴産業の再編や最低賃金上昇の結果、どのような変化が起こっているかを明らかにする。第3には、アジアにおける靴産業の再編の中に、タイを位置づけることを試みる。中国における調査、アジア各国に生産拠点、下請け発注を展開している日系企業に対するインタビュー調査などを予定している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし。
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Research Products
(5 results)