2012 Fiscal Year Research-status Report
近現代日本における省エネルギー・低公害型技術革新の社会経済史的研究
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23730323
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
小堀 聡 名古屋大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (90456583)
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Keywords | 日本経済史 / 産業技術史 / 公害史 / 地域開発 |
Research Abstract |
現在、日本の製造業は世界的にみて優秀な省エネ・低公害技術を有する。こうした技術形成の要因としては、石油危機を契機とする技術革新が指摘されてきた。だが、石油価格高騰時に省エネ的な技術革新が模索されることと、それに成功しえたこととは峻別される必要があろう。そして、成功要因を解明するには、石油危機以前の段階における日本の到達点が分析されねばならない。この際、省エネ技術が低公害技術とは必ずしも両立しないことにも注意が必要である。 そこで、本研究では、日本の省エネルギー・低公害的な技術革新の進展について、戦間期以降を視野に入れた歴史的実証研究を行なう。具体的には、(1)省エネルギー・低公害化に関する産業技術史的研究、および(2)低公害化に関する地方自治体史・住民運動史的研究である。 まず、(1)省エネルギー・低公害化に関する産業技術史的研究、については、鉄鋼業に注目し、高度成長期を中心とする技術革新の過程を追跡している。具体的には、社史・学協会の報告書の収集・分析を開始した。収集方法は専門図書館の利用や古書店からの購入によっている。製糸業などボイラーを利用する業種についても資料収集を実施した。 また、省エネ技術・低公害化技術の双方に関連する政府機関として資源調査会に注目し、それに関する資料収集・分析を進め、成果を学会で報告した。この際、資源調査会関係者がエネルギー節約・低公害化と同時に原子力政策にも関与していたことを重視し、その一端についてシンポジウムでの報告・論文執筆を行なった。以上を通じて、省エネと原子力との技術思想・政策における共通点・相違点も浮き彫りにできる。 (2)低公害化に関する地方自治体史・住民運動史的研究、については、主要都市(とくに北九州市と横浜市)の公害防止運動や公害防止政策について資料収集と分析を進めた。その端緒的な成果を講演やテキスト執筆を通じて発信した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、(1)省エネルギー・低公害化に関する産業技術史的研究については、前年度に注目した資源調査会やそれに関与した技術官僚(安藝皎一・大来佐武郎・阿部滋忠ら)の論稿の収集・分析を継続した。こうした作業により、戦後復興期においてエネルギー節約政策・公害防止政策がどのように構想されていたのかを検討し、その成果を学会報告することができた。また、安藝皎一・阿部滋忠といった資源調査会関係者が原子力政策の開始にも大きく関与していたことに注目することで、省エネ・公害防止と原子力との技術思想・科学技術政策における関係性を分析することができた。成果の一端はシンポジウムでの報告・論文作成として公表した。この点については、当初予想以上の進捗を実現することができたと評価できる。 また、省エネ技術に関連しては、鉄鋼業・製糸業についての資料を入手することができたため、これらの分析を進めた。ただし、当初予定していた計器産業や熱管理から低公害技術への技術移転については、上述の研究を先に進めた影響で、予定通りの進捗をみることができなかった。 (2)低公害化に関する地方自治体史・住民運動史的研究については、エネルギー多消費産業・公害排出企業が立地した主要自治体(とくに北九州市・横浜市)について住民運動や開発政策についての資料を収集することができ、政策のあり方がその地域の住民運動や技術発展にどのような影響を与えたのかをいくつか検討することができた。そして、その端緒的な成果を、講演会やテキストの執筆を通じて公表することができた。これらは概ね予定通りの進捗をみることができたといえる。 以上の諸状況を総合すると、本年度の研究進捗状況は、おおむね順調であったと評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度における研究の推進方策は以下の通りである。 (1)省エネルギー・低公害化に関する産業技術史的研究、については、高度成長期を中心とした鉄鋼業の分析を進めるとともに、計画よりも遅れている計器産業・計測管理についての分析をさらに進める。熱管理から低公害技術への技術移転については、高度成長期鉄鋼業などの分析を通じて調査を進める。また、資源調査会については資料の追加的な収集を行ない、論文を投稿する。この際原子力についても資料収集を続け、省エネ・低公害化技術をより広い射程から評価・検討する。具体的な資料調査先は、土木図書館・機械工業図書館・国立公文書館・外交史料館・横浜市史資料室などである。 (2)低公害化に関する地方自治体史・住民運動史的研究、については、関連する研究や地域開発・公害対策・住民運動などに関する自治体史・回想録の消化を進める。横浜市・北九州市についてはさらに分析を続け、また比較対象として法廷闘争に至った自治体(千葉・四日市など)や他の革新自治体(京都府など)についても比較調査を行なう。調査先は各地の図書館・文書館などである。 ついで、平成26年度以降における研究の推進方策は以下の通りである。 (1)省エネルギー・低公害化に関する産業技術史的研究、については、前年度までの研究をさらに継続するとともに、研究内容の報告・投稿を行なう。また、(2)低公害化に関する地方自治体史・住民運動史的研究、については北九州・横浜に関する研究を継続する。また、問題解決を地方自治体独力ではできず、法廷闘争に至った事例(千葉・四日市など)や他の革新自治体(京都府など)、コンビナート建設自体を阻止した自治体(三島市など)にも着目し、これらとの比較史的研究を実施する。また(1)、(2)の両研究内容について、論文ないしワーキングペーパーを和文・英文双方で作成することで、情報発信を行なう。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初計画では、平成24年度に、北九州市での資料調査を予定していた。しかし、鉄鋼業や製糸業についての新たな資料が見つかった結果、これらの分析を先に行なう必要が生じたため、24年度内の調査を見送った。そのため、平成24年度には61,735円の残額が生じた。 平成25年度における研究費の使用計画は以下の通りである。 まず、(1)省エネルギー・低公害化に関する産業技術史的研究について。資源調査会については、東京(国立国会図書館・国立公文書館・外交史料館・土木学会土木図書館など)や横浜(横浜市史資料室)での調査旅費や資料の複写費・マイクロフィルムへの撮影費(外注)などに充てる。また、鉄鋼業や計測管理・計器産業史については東京(上記図書館のほか企業・業界団体等のライブラリーなどを予定)への調査旅費に、熱管理から低公害化への技術移転については東京のほか24年度に中止した北九州市(北九州市立図書館や北九州市環境ミュージアムなど)での調査旅費に充てる。 ついで、(2)低公害化に関する地方自治体史・住民運動史的研究、について。地方自治体史関係では、各地の自治体史・資料目録など基本的な文献の購入、東京(市政図書館、国立国会図書館憲政資料室・議会官庁資料室、国立公文書館など)や各地の公立図書館・文書館などでの調査旅費に使用する。また、住民運動史については、代表的な回想録や「戦後住民運動資料集成」など基本資料の購入、複写費、横浜市・北九州市での調査旅費などに充当する。 以上のほか、(1)(2)の双方に関連して、研究書の購入、資料の撮影・デジタル化依頼、資料整理用のフォルダー購入費用、製本の依頼費用、研究成果公表に利用する抜刷の購入などにも充当する。
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Research Products
(9 results)