2011 Fiscal Year Research-status Report
企業関係者間の利益分配問題に関する実証研究(日米英の比較)
Project/Area Number |
23730355
|
Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
三好 祐輔 佐賀大学, 経済学部, 准教授 (80372598)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 法と経済学 / 民事訴訟 / 経営学 |
Research Abstract |
日本では近年、司法に国民の意思を反映させるという理念の下に、様々な司法制度の改革が行なわれた。なかでも、急激な弁護士数の増加や弁護士報酬の改定が訴訟にもたらした影響は、民事訴訟の件数の増加や弁護士利用率の増加につながっている可能性が高いことが予想される。平成23年度では、翌24年度から実証的に検討するためのデータ・セットの構築を行うための事前調査、さらに文献精査等の基本的な分析を行った。 第一に、計量分析を行う上で必要となる、海外を中心とした先行研究の詳細なサーベイである。具体的には、計量分析を行う上で必要となる先行研究、たとえば、World Bank[2002],Buscaglia[1999],Posner[1996],Breen[2002],Botero,La Porta,Lopez-de-Silanes,Shleifer and Volokh[2003]etcを参考にして詳細なサーベイを行った。これにより、専ら訴訟件数を減らすことで裁判の遅れを解消することを考察している先行研究と本研究の違いを明確化することができるなど、また、分析モデル、計量分析の手法に関する有益な情報を得ることができた。 第二に、分析で用いるデータベースの構築である。ここでは、具体的な作業として、民事訴訟に関する司法統計データと弁護士報酬に関するアンケート調査結果など異なるデータセットを作成するため、電子化されていない数値データの入力及び共通項として利用できる項目の整理と対応させる作業などで、かなりの労力を要した。 作成したデータベースの一部(クロスセクションデータ)を用いて、簡単な分析を行い、概観について、法と経済学のワークショップで報告を行った。こうした一連の作業工程を経ることにより、計量分析の一連の流れ、研究を遂行するに当たっての問題点等を把握することができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H23年度は、本研究の初年度であったことから、日本における民事訴訟の実態をまず掴むことが必要であった。その際、弁護士会からの協力を得て、訴訟の現場で活躍している弁護士の情報を収集することができたことは、何よりも大きい成果であった。 また、都道府県単位ではあるが、弁護士の民事訴訟に関わる割合etcの資料を新たに入手できたことにより、当初の研究では想定していなかった、別の視点から考察する機会に恵まれることになった。さらに、先行研究で扱っていたモデルを改良する余地が増えることが可能になったこと、理論モデルの精緻化に成功する可能性が広がったことにより、実証研究の課題としている焦点が明確になったことが挙げられる。 以上の点から、資料収集に関する作業が当初の予定通り進んでいること、並びに新たな問題意識の啓発に成功した点を斟酌するなら、現在までは、当初の研究計画どおり、概ね順調に進展しているといえる。ただし、弁護士に関するアンケートデータの情報収集に時間を割くあまり、司法統計に関するデータベースの構築作業が少し遅れており、単年度でしか計量分析できていない。次年度でその遅れを取り戻し、法制度の変更によって、経済主体の行動に変化が生じているか、分析してゆく。
|
Strategy for Future Research Activity |
H23年度の成果を基に、次年度以降、データベースの追加作成、計量分析を行っていく予定である。H24年度では、弁護士の訴訟に関わる割合の増加、弁護士の増加などの要因がきっかけとなり、弁護士による誘発需要が引き起こされているどうかについて、リスク回避度に着目したモデル分析を通して都道府県データや弁護士アンケートに基づいたデータによる実証分析を行なう予定である。 まず、弁護士の報酬の自由化により、成功報酬割合を高めることが出来るようになったことが、株主代表訴訟を起こす要因として大きく関わっているか否か、すなわち、依頼主と弁護士との間で訴訟のリスク・シェアリング(リスク負担)を行われているのかに関する回帰分析を用いて分析する。 一般的に、成功報酬(contingent fee)は、代理人と依頼主の間で情報の非対称性がある状況下で、効率的な報酬契約であるということが指摘されている(e.x.Posner(1986),Halpern / Turnbull(1983))。しかし、成功報酬の割合が高まると代理人のリスク負担が増加するため、訴訟代理を弁護士が引き受けなくなる問題も発生する。つまり、成功報酬の比率を高めること自体が動機としてあるわけでなく、その動機については別途注意して分析を行う必要がある。 その上で、法曹拡大政策等の司法改革制度が、弁護士に「過度に訴訟制度を行うようにしたものであったか」について、先行研究と比較考察し、再度検証を加えることを予定している。具体的には、弁護士の報酬の自由化が利用者の自発的な需要と弁護士による誘発された需要に与える影響を把握するため、弁護士及び依頼主の危険回避度に着目し、訴訟に対するリスクを弁護士がどの程度負い、需要を喚起できているのか、そして誘発需要が発生している場合、弁護士が着手金目的で引き起こしたものかに関する実証研究を行う。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前年度は、分析期間が単年度でしかできなかったため、司法制度改革が民事訴訟に与える影響を長期間に渡って追うことができなかった。また、既存のモデルに沿った実証分析に留まったため、研究報告の回数が当初予定してたよりも少ない結果になってしまった。次年度では、この遅れを取り戻すことはもちろん、これまでの調査結果を理論モデルに反映させるようにモデルの再構築に時間を割く。そして積極的に学会、ならびにワークショップでの発表を行ない、さらに、資料収集を精力的に行い、最終年度に向けて、論文の完成度を高めるように努力したい。
|