2011 Fiscal Year Research-status Report
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23730422
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
岩本 明憲 関西大学, 商学部, 准教授 (10527112)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 再販売価格維持制度 / Posner / Fishwick / シカゴ学派 |
Research Abstract |
本研究は「英国および日本の書籍再販制度研究」というテーマの下、両国の書籍業界において長年続けられてきた再販売価格維持行為・制度に関する主要な3つの研究アプローチ、具体的には、(1)歴史研究、(2)理論・学説史研究、(3)環境分析を通じて、今後の日本における書籍流通の制度設計の議論において基盤となる理論的枠組みを構築・提示することを主要な目的としている。また、近年、日本で普及が目覚ましい電子書籍が我が国の書籍業界の各プレイヤーに及ぼすミクロ的影響と最終的に再販制度にもたらすマクロ的影響についても明らかにすることを企図している。 平成23年度における主要な研究成果としては、主に以下の2点があげられる。第一に、1980年代以降の再販理論の主要な論者として位置づけられてきたPosnerの学説は、それ以前のシカゴ学派の伝統、具体的にはTelserの「スペシャルサービス仮説」およびBorkの「(小売)カルテル仮説」への批判を通じた「生産数量増加説」に基づく再販制度正当化論、の延長線上にあり、さほど目新しい理論的展開がなされていないことが明らかとなった。またPosnerの理論は、再販制度の発生メカニズムを明らかにするためのものではなく、あくまでその(法的・経済的)正当性を主張するためのもので、その一つの手段として排他的テリトリー制に関連付けた再販理論が打ち出されている。こうした、他の垂直的統合の手法を隠れ蓑にして再販制度の正当性を主張するという方向性は、1980年代以降の再販理論の一つの大きな潮流となった。第2に、英国における再販理論を主導したFishwickは主に米国において展開されていた(ミクロ的な)再販理論ではなく、マクロ的な結果に基づき再販制度の影響を論じ、その主張を補強するために必要に応じてミクロ的再販理論を用いていたということである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究の達成度に関しては、当初の見込みと比べてやや遅れている状況であると言わざるを得ない。その理由は、主に2つある。第1に、本研究を申請した2010年秋以降、日本において本格的な電子書籍ブームが始まり、その動向に対応すべく、日本の再販制度を研究するにあたって、電子書籍化の影響を新たに主要な変数として考えざるを得なくなったことがあげられる。これに関しては、別途、新たな派生的研究テーマに据えて、現在、米国、英国、EU諸国の電子書籍化が再販制度および書籍業界の流通構造に及ぼしている影響を調査中である。この調査および文献渉猟に研究資源が費やされたことによって、元来設定されていた研究の遅延がもたらされている。ただし、この研究テーマに関しては、新たな共同研究者と共に今年度中に研究成果として発表する予定であり、この研究は、日本における書籍電子化が流通構造に及ぼす影響を理論的に分析・考察した初めての本格的研究成果になりうるものである。そして、その研究成果は当初設定した研究テーマと齟齬をもたらすものでは決してない。むしろ、本来の研究の目的を果たす上で必要不可欠な研究テーマであり、早い段階で着手することが望ましいという考えで、若干の軌道修正が図られた次第である。 第2に、研究計画の段階から予想されたことではあるが、1980年代以降の再販理論の量が膨大であり、かつ、既存研究において当時の中心的理論を形成したと評価されているPosnerの理論が、それ以前の再販理論の理論的発展の文脈から見たときに、それほど重要な進歩を遂げていないことが明らかになったことが指摘できる。これにより、新たな理論的支柱を発見する必要性に迫られており、現在様々な文献を再度検討している段階である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、基本的には研究計画書に記した通り、以下の3つの研究を中心に据える方針である。第1に、書籍取引における返品制の登場の経緯を明らかにすることで、書籍再販制度と返品制の位置づけを定式化する、第2に、主に1980年代以降に展開された経済理論モデルに基づく返品制の既存研究を再吟味・再構成する、第3に、我が国の書籍流通の特殊性を考慮することによって書籍流通における返品制の役割を明らかにする。 とりわけ3点目に関しては、そこに我が国の電子書籍化が再販制度および返品制度に及ぼす影響についての考察を加味する予定である。というのも、電子書籍化が進めば、現在の書籍業界の高コスト体質の1つの根本的理由である返品制度は、全く意味をなさないものになりうるからである。言いかえれば、電子書籍の場合、そもそも返品すべき書籍が存在しないのである。このことは、長年、再販制度の経済合理性を担保してきた返品制度の理論の抜本的見直しが必要なことを示しており、既存の返品制度の理論研究ではほとんど考察されていない点でもある。この観点を新たに付け加えることによって、現在の我が国の書籍業界の実情により沿った再販理論および返品制度の経済理論を提示できるものと考えられる。 また、返品制度にとどまらず電子書籍化が我が国の書籍流通構造に及ぼす影響を幅広く考察する予定である。一例を挙げれば、電子書籍化は、例えば、離島や限界集落における書籍流通の現状を抜本的に改善する可能性を秘めている。これは、長年、文化(書籍)を全国津々浦々に同一価格で提供するための社会保障システムとしての再販制度という枠組みを根本から覆す可能性があり、前年に引き続き、辺境の地における書籍の流通に現行の再販制度と返品制度がもたらしている負の影響を現地でのフィールドワークを通じて明らかにする方針である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費の主要な使途としては、英国及び仏国における書籍流通の現地調査を目的とした海外出張が最も大きな比重を占めると考えられる。これは、共同研究者が今秋に仏国に長期滞在する予定であることから、共同研究者とのミーティングを目的として兼ねている。文献調査としては、欧州の流通構造を調査した公刊物(パンフレットの類)や政府系機関のレポートや統計資料などに直接アクセスすることは、日本においては難しい側面があるため、あらかじめ英国及び仏国の複数の図書館で資料を検索したのちに、現地に赴き現物の必要か所を一つずつ発見・調査するプロセスが必要と考えられる。現地調査の詳しい内容については、共同研究者が事前に欧州に入っているので、その情報を参考に調査対象を決定する予定ではあるが、現段階では仏国のフナックや英国のウォーターストーン、WHスミスといった主要書籍業者を念頭に置いている。 次に、今年の5月に行われる北海学園大学にて行われる日本商業学会への参加を兼ねて、北海道の北東部における書籍流通の現状に関するフィールドワークを実施する予定である。前年度に行った沖縄の離島および鹿児島の奄美大島でのフィールドワークの結果、東京の取次からの書籍の配送が雑誌の配送と抱き合わせの形で行われ、返品の費用負担が各書店に押し付けられている状況が確認された。これが特殊な事例なのか否かを確認するうえでも、現地での調査が不可欠と考えられる。
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