2011 Fiscal Year Research-status Report
元ホームレス生活保護受給者の健康・栄養状態の実態把握と食生活支援システムの開発
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23730526
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Research Institution | Kanagawa University of Human Services |
Principal Investigator |
五味 郁子 神奈川県立保健福祉大学, 保健福祉学部, 講師 (80363852)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 生活保護 / 元ホームレス / 低栄養予防 / 食生活自立支援システム / 地域サービス資源 |
Research Abstract |
わが国では「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する目的で生活保護制度があるものの、生活保護受給者が実際のところ健康に暮らしているかの問題は直視されていない。申請者はこれまでに、元ホームレス生活保護受給者において、低栄養ならびに脂質異常症や糖尿病のための栄養・食事ケアの必要性について明らかにしてきた。また、その一方で、生活保護として金銭的保障を受けていても、食べることへの動機を失い、金銭管理や炊事などの日常生活技能を失っている者も少なくなく、栄養・食事ケアのニーズは多様であることも質的調査で明らかにした。以上をふまえ、本研究は、食生活支援ニーズシートを作成し、生活保護受給者の食生活の実情を示すとともに、個別の支援ニーズと地域サービスをつなぐ食生活自立支援システムの開発を行うことを目的としている。 平成23年度にまず、食生活支援ニーズシートの原案を作成し、調査票として通所リハビリテーション利用高齢者69名ならびに介護予防事業参加高齢者173名を対象に試用し、地域在住の要支援・要介護者の食生活状況を把握した。結果をふまえ、食生活支援ニーズシートの設問は、栄養摂取に関する内容を必要最低限にまとめ、食事療法、入院・服薬、体重変化、咀嚼・嚥下、買い物・調理、食費負担感等17問に選定した。 次いで、東京都新宿区ならびに神奈川県逗子市の2地域をモデル地域として食生活支援サービスのリストアップ作業を進行している。しかしながら、既存の食生活支援サービスは配食サービスなど要介護度が高い人向けのサービスに偏っており、自立支援サービスの開拓が必要であることが判明した。ニーズシートと地域サービスをパッケージ化した「食生活自立支援システム」が開発されれば、管理栄養士の在籍がない福祉分野においても、栄養・食事ケアの必要な人の把握、適切なニーズアセスメント、サービス対応、フォローが可能となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
【総評:1年目計画達成度90%、研究全体の進度55%】元ホームレス生活保護受給者において栄養・食事の支援ニーズがあることは明らかである一方で、支援体制に管理栄養士等栄養の専門家の関与がほとんどない現状に向き合い、管理栄養士として何ができるか・何をすべきかという着眼点で実践的研究を推進した。また、生活困窮者の支援者らから本研究は賛同を得ることができ、研究協力体制が研究をより促進していると言える。【食生活支援ニーズシートの作成:達成度95%】カナダ栄養士会が地域高齢者の食生活支援システムの一環で開発したアセスメント票・マニュアルおよび妥当性検証報告を参照し、日本版・食生活支援ニーズシートの案を作成した。プレテストを実施後、神奈川県内の老健通所リハビリテーション利用高齢者69名ならびに介護予防事業参加高齢者173名を対象に食生活支援ニーズシートを調査票とした食生活状況調査を実施した。低栄養に陥りうる食生活状況は高齢者によって様々であり、食生活支援ニーズシートの設問項目および回答項目は、在宅高齢者で低栄養予防のための対応が必要な者の把握に役立つことを確認した。今後、食生活支援ニーズシートでは把握しきれない食事の問題がないかフォーカスグループによるディスカッションで検討する。【食生活支援サービス・地域資源リストの作成:50%】食生活支援サービスは、地域性があると考え、本研究では二地域(逗子市・新宿区榎町)の地域サービス資源リストを作成することとした。逗子市国保健康課および社会福祉協議会、新宿区高齢者総合センターの協力のもと配食サービス、買物代行(配達)サービス、ヘルパー、食事付サロン等の情報を収集した。一方で、これらは要介護度の高い人向けのサービスであり、自立をサポートする食生活支援サービスは十分整理されていない現状を把握した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、元ホームレス生活保護受給者の食生活自立支援システムの開発をゴールとしている。現在までに、食生活自立支援システムのための(1)食生活支援ニーズシートの作成および(2)地域の食生活支援サービスのリスト作成が進行している。平成24年度は、(2)の食生活支援サービスの情報収集を拡大する(平成24年6月まで)とともに、(1)の食生活支援ニーズシートと(2)の地域の食生活支援サービスをリンクする作業を行う(7月)。一つのサービスが複数の食生活支援ニーズに対応する場合等あるため、ニーズ項目とサービスのマッチング作業は管理栄養士・社会福祉士らと検討を重ねて行う。 (1)食生活支援ニーズシートおよび(2)地域の食生活支援サービスのリンク、さらに(3)サービス紹介、(4)サービス申込の一連を情報システムとしてプログラミングし、「食生活自立支援システム」を開発する(8~9月)。当該システムを携帯端末機器(i-pad等)に搭載し、新宿区の元ホームレス生活保護受給者を対象に試験的運用を行う(11~12月)。また、当該システムは元ホームレス生活保護受給者に限らず、低栄養予防が必要な地域在住高齢者にも活用できると考えられることから逗子市の生活困窮高齢者にも試験的運用を行う。 また、食生活自立支援システムのプログラミングの一方で、地域のサービス提供側やサービス紹介側の関係者により検討会を開催し、食生活自立支援システムの構築にむけて意見交換を行うとともに、食生活自立支援システム運用の理解・協力を得る(10月)。また、本研究で参照しているカナダ栄養士会Bringing Nutrition Screening to Seniors(BNSS)の開発者(Prof. Heather Keller)から助言を得てわが国における食生活自立支援システムの構築を推進したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
食生活自立支援システムのプログラミング委託費ならびに携帯端末・携帯用プリンター機器の購入費が次年度研究費の主な使用用途となる。食生活自立支援システムは、対象者の生活の場においてタッチパネル型ディバイスによってニーズシートをチェックし、対応サービスリストからその場でネットあるいは電話申込、さらにサービス内容確認や栄養教育情報をプリントアウトしてハンドアウトできる即時対応型をねらいとしている。地域サービス資源情報の更新作業・システム維持費等 利用者や支援者の円滑利用に係る費用を負担する。 また、自立支援システム構築に向けた検討会の開催に係る費用(会場費、交通費、謝礼等)、食生活自立支援システムの試験的運用にあたり対象者への協力費を必要に応じ研究費から支出する。 さらに、フードバンク等今後わが国での活動が期待される新たな食生活支援サービスの現地視察やヒアリングを行う場合の旅費等を支出する。
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Research Products
(1 results)