2011 Fiscal Year Research-status Report
菊池俊諦の児童保護事業職員養成における「児童の権利」擁護認識に関する研究
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23730538
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Research Institution | Tohoku University of Community Service and Science |
Principal Investigator |
竹原 幸太 東北公益文科大学, 公私立大学の部局等, 講師 (30550876)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 児童の権利 / 親権 / 権利擁護 / 菊池俊諦 / 感化教育 / 少年教護 / 菊池文庫 / 武蔵野学院 |
Research Abstract |
本年度は、先ず菊池俊諦(1875~1972)の児童保護事業職員養成年表を作成するために、基礎的な文献・史料を収集し、その整理・検討を行った。具体的には、菊池が編集に携わった日本感化教育会編『感化教育』及び日本少年教護協会編『児童保護』を検討し、「会報」、「児童保護彙報」欄から、菊池が各地で担当した講習会・講演の年表作成に着手しつつ、矯正図書館「菊池文庫」(東京)、安専寺「菊池文庫」(石川)、武蔵野学院図書・資料室(埼玉)の所蔵史料から講習会・講演記録の照合を行った。 先行研究では、菊池の文献目録や社会的活動に関しては、『菊池俊諦氏還暦記念文集』(1936)及び『武蔵野学院二十年史』(1941)が参照されていたが、本研究では、菊池の児童保護事業職員養成活動という観点から菊池の業績整理を行い、暫定的に菊池の講習会・講演年表及びその記録の所在先を記したリストを作成した。 同リストは、矯正図書館「菊池文庫」に所蔵される手書き原稿の位置づけを明確にするものであり、今後の菊池研究のアクセスの利便性を図ることもねらいとしている。 次に、菊池の児童保護論の位置づけを明確にするため、感化教育・少年教護の実践的基盤を形成した池上雪枝や留岡幸助等の児童処遇観と比較しつつ、小河滋次郎、牧野英一等の法学者の説く社会事業対象者の救済される権利論とも比較して、菊池の児童処遇観及び「児童の権利」論の特色を検討した。そこでは、菊池は児童処遇の基盤として、一人格として児童を観て「児童の権利」を位置づけ、その権利観は「個人の権利」と「社会・国家の保護義務」との調和関係を前提としながらも、児童の立場に立った観点に力点が置かれている点を明らかにした。そして、菊池は今日の児童福祉法の理念に通ずる視点を持ち、援助技術的には「児童の権利」擁護を求めていたことを仮説的に位置づけた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、暫定的に菊池俊諦の児童保護事業職員養成年表を作成し、矯正図書館「菊池文庫」、安専寺「菊池文庫」、武蔵野学院図書・資料室の所蔵史料から講習会・講演記録の照合を行い、その残存状況を特定することができた。 ただし、安専寺「菊池文庫」は一般公開された公共物ではないため、所蔵される一部の史料を閲覧したのみであり、確認できていない史料も多数存在する。また、菊池が主宰した児童保護協会の発行誌『児童保護』の検討も必要であり、継続して年表を加筆していく必要がある。 菊池の「児童の権利」論の考察に関しては、小河滋次郎、牧野英一等の法学者の説く社会事業対象者の権利論を概観しつつ、主に矯正図書館「菊池文庫」所蔵の1930年から1940年代の講義録(手書き原稿)を検討した。 具体的には、第三回日本感化教育会主催児童保護講習会『児童良化の倫理的意義』(1931)、北信五県会合『感化教育の本態』(1932)、愛知県児童保護会『少年教護の理論並実際』(1934)、第一回日本少年教護協会少年教護事業講習会「少年教護事業」『少年教護講義要綱』(1934)、第二回日本少年教護協会少年教護事業講習会「少年教護事業に就て」『昭和十年雑記ノートA.III』(1935)、第三回日本少年教護協会少年教護事業講習会「児童保護事業」『昭和十一年雑記ノートB.II』(1936)、座談会「東京市荒川区役所座談会」『少年教護講案』(1937)、第五回日本少年教護協会少年教護事業講習会「少年教護事業大観」『少年教護講案』(1938)、日本少年保護協会少年保護講習所「少年教護事業講案」『少年教護』(1939)、司法保護協会少年保護職員講習所「少年教護事業に就て」『少年教護』(1940)等を検討し、各記録における「児童の権利」論の言及頻度を明らかにすることができ、概ね計画通り作業を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は本年度の研究作業を踏まえ、菊池俊諦が児童保護実践において「児童の権利」を尊重することを、具体的にどのように捉えていたのか考察する。 「児童の権利」と「社会・国家の児童保護義務」とを調和関係で捉える菊池は、親権が適切に行使されていない状況において、国家が親権を適正に擁護し、児童を保護することが「児童の権利」に適うと捉え、感化院長の親権代行についても論じている。これは、国親思想に基づくパターナリズム的な児童保護観と類似しており、親権の国家的擁護の反射的利益として、「児童の権利」が捉えられているようにも見える。 しかし、一方で菊池は温情的児童観に基づく保護を退け、一人格として児童を捉えて「児童の権利」を論じている。そして、具体的な実践場面においては、児童鑑別等の科学的調査により、児童の個性を捉えて個に応じた処遇を行うことを求め、児童の立場に立った観点からの処遇が「児童の権利」に適うと捉えている。 そこで、適正な親権擁護により「社会・国家の児童保護義務」を求めることが、児童個人の成長発達を支える「児童の権利」擁護へと連なるという菊池の調和論理は、家族国家観が根強かった社会において、いかに受容されていたのか、菊池と実務をともにした森鏡壽、宗像守雄、石原登らの論調に注目しながら検討予定である。 とりわけ、1937(昭和12)年の日中戦争突入以降は、児童の立場に立った観点からの「児童の権利」論は論じにくくなり、人的資源としての児童観が台頭してくるが、こうした中で、菊池はいかに「児童の権利」を取り上げ、周囲に受容されていたのか検討したい。これは、戦争という国家的事情の中においてもなお、現場レベルで「児童の権利」を擁護する観点が残存したか否かを検討する作業と思われる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は本年度行った菊池俊諦の児童保護事業職員養成年表作成等の基礎的作業を踏まえ、菊池が児童福祉法の理念に通ずる視点を持って「児童の権利」擁護を説いていたという研究仮説に関して、社会事業史学会等にて学会報告を行う予定である。そこで、学会報告費として、報告資料の印刷費、学会参加費や交通宿泊費等を計上している。 また、児童保護事業職員養成年表の加筆を図るため、史料収集を継続して実施する。具体的には、史料調査費(史料複写費、交通費、宿泊費)として、児童保護協会編『児童保護』に関わる出張費(東京)、安専寺「菊池文庫」に関する出張費(石川)等を計上している。なお、経済的合理的に費用を運用するため、東京出張の際には、可能な範囲で積み残した矯正図書館「菊池文庫」及び武蔵野学院図書・資料室の史料収集をまとめて実施することとする。 その他、菊池の「児童の権利」論を社会事業史等で位置づけていくための児童保護・児童福祉関連文献費、史料整理に関わる文具費、研究成果に関わる印刷費、通信費等を計上している。
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