2011 Fiscal Year Research-status Report
三次元空間における物体表面の色知覚メカニズムの解明
Project/Area Number |
23730696
|
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
福田 一帆 東京工業大学, 総合理工学研究科(研究院), 助教 (50572905)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | 色覚 / 色恒常性 / 照明光推定 / 三次元空間 |
Research Abstract |
本研究では,三次元空間における照明光の分布と物体表面の色知覚の関係を示すため,空間的に不均一な照明光が色の恒常性(照明環境によらない安定した物体色の知覚)に与える影響を検討している.当該年度は,大きく分けて2つの研究をおこなった.第1の研究では,照明光の色みが空間的に変化するシーンにおいて,そのシーンの二次元的な情報と三次元的な情報が物体の色の見えに与える影響を示した.第2の研究では,視野内に照明光とは独立の光源が含まれるような照明の影響が均一でない環境における物体の色の見えについて検討した.第1の研究における実験では,幾何学物体を並べた三次元シーンを実際に作成し,異なる観察条件(両眼,単眼,両眼同一像視),背景条件(階段状の背景,無背景),照明条件(一様照明,色勾配照明)の下での物体色の見えを比較した.その結果,背景条件と照明条件に依らず両眼条件では他2種類の観察条件よりも色の恒常性の成立度合いが高いことが示された.これは,三次元的な色・輝度情報の分布が物体表面色知覚に影響していることを表す.第2の研究における実験では,コンピュータを用いてディスプレイ上に表示した幾何学パターンの各色の輝度を変化させ,シーンの中で独立の光源と知覚されるような高輝度色光による色恒常性への影響を調べた.その結果,被験者が独立の光源であると認識するような高輝度色光による色恒常性への影響は極めて小さいことが示された.これは照明光推定メカニズムが,独立の光源や光沢などの色光を排除し,照明光の影響が同様な物体表面による色光のみの情報を選択的に処理することを示唆する.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の達成目標は,照明光分布の推定が,三次元的な色輝度情報の分布に基づくか,網膜上の二次元的な色輝度情報の分布に基づくかを明らかにすることであった.実物体を用いた研究により,二次元的な情報のみの場合と三次元的な情報を含む場合との結果に有意な差が示され,三次元的な色輝度情報に基づく照明光分布の推定が示されたことから,初年度の目標は達成された.ただし,この目標達成のためにコンピュータ画像を用いた実験を必要としなかったため,立体映像表示が可能な実験装置の作成は次年度に持ち越した.一方で,予備観察の中で,目標達成にあたり高輝度色光の影響を検討する必要が生じたため追加の実験をおこない,本研究の最終的な目的に対して有用な結果を得た.
|
Strategy for Future Research Activity |
初年度の研究から,不均一照明環境における物体表面の色知覚は,周辺の物体表面による色光の三次元的な色輝度情報の分布によって決まることを示す結果が得られた.そこで次年度は,三次元空間内における照明光分布を変化させて,視覚系が推定可能な照明光分布の空間特性を明らかにするための実験をおこなう.具体的には,立体映像表示が可能なステレオスコープを用いて,コンピュータで作成した三次元のシーンを呈示する.このシーンの中には,色知覚の測定対象となる物体(テスト刺激)、その周辺の背景や物体(周辺刺激)を配置する.そして被験者には、テスト刺激が指定した色の紙のようにみえるように色度を調整する課題を与えることで,物体表面の色知覚を測定する.こうして得られたテスト刺激の色知覚と照明光条件の関係を定量的に表す.照明光条件として,照明の空間分布,照明の色の違い,照明変化の空間周波数,物体の影の影響などを変化させる.その結果から,シーンの任意の位置における物体表面の色知覚を推定するモデルの構築と,その検証を目指す.
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
初年度の研究は,研究室所有の実験環境を利用して実物体を用いた実験に年度当初から取り組むことで,目標を達成できた.次年度は,新たにビームスプリッターを用いて実環境とコンピュータ画像の重複提示が可能なミラーステレオスコープを作成するため,実験用コンピュータ,プロジェクタ,光学機器(ビームスプリッター,ミラー等),刺激作成用ソフトウェアなどの購入,実験準備及び実験実施のため大学院学生への謝金支払を計画している.
|