2011 Fiscal Year Research-status Report
ロシア帝国ムスリム地域におけるジャディード運動:教育改革・地方自治・ネットワーク
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23730766
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
渡辺 賢一郎 東洋大学, 人間科学総合研究所, 客員研究員 (30328637)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 教育史 / ロシア史 / イスラーム史 / 社会運動史 / 帝国史 / 地方自治 |
Research Abstract |
中央ユーラシアにおける「ジャディード運動」と総称される教育改革運動について、教育思想ならびに現場での実践、さらに教育と地方自治の観点から調査している。調査・分析する観点のうち、平成23年度は、ジャディード研究全般に関する現地における文献調査、ロシア帝国の民族政策と地方自治のあり方に関する現地における文献調査、および国内所蔵の文献調査を重点的に行った。具体的には、秋にはトルコ共和国イスタンブル、および黒海沿岸地域の図書館等において文献調査を行い、タタール人による教育の実情および改革運動についての文書を閲覧、撮影、複写した。さらに、年間を通じて国内の主要研究施設および大学図書館において関係する先行研究の調査および読解整理をおこなった。また、近代におけるイスラーム教徒(ムスリム)の新聞発行物について、二次文献を中心に調査した。新聞は19世紀半ばごろからムスリムによって数多く発行されており、そうした新聞の書誌情報を扱った研究書を中心に調査した。また、初年度であるため、本研究計画の位置づけをより大きな文脈から俯瞰することができるよう、ムスリムの近代化運動について扱った文献や、ムスリムに限らず、近代における教育改革運動全般についても、文献調査を行った。ムスリムによる近代化にかかわる社会運動は各地域で見られるため、そうした運動とロシアのそれとの比較研究を行うべく、インドネシアからエジプトに至る地域の社会運動、また特に教育改革運動について文献調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画どおり、ロシア帝国ムスリム地域における教育改革運動、社会改革運動に関する史料類、研究文献等についての調査を行った。ジャディード運動についての基本的な史料や、ロシア帝国の地方自治制度について、多くの史料を複写し、順調に読解している。基本的な情報の整理はもちろん、当時のタタール人コミュニティのネットワークが強固にさまざまに張り巡らされていることを、教育関係の史料上から確認しており、さらに今後も調査する必要性があることを再確認しえた。国内で収集できる文献の調査においては、より大きな文脈から本研究計画を位置づけるべく、近代における各地の教育改革運動も概観しており、順調に整理を行っている。新聞記事については項目別にデータ整理を行っている。教育、言語、政治、宗教、ロシア、オスマン帝国、海外認識等の項目ごとに分類しデータベース化を図っており、作業としては順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、平成23年度に引き続き、海外における現地調査および国内における文献調査を行う。今年度特に分析の対象とするのは、まずムスリムの学校であるメクテブ(初等教育)とメドレセ(高等教育)について、教科や教育内容をいかに設定し実行したのか明らかにする点にある。次に、ムスリム教育におけるメクテブとメドレセが「新方式」では有機的連関がいかにはかられていたのか、思想および実践面から明らかにする。「ジャディード運動」推進者たちが、自らが置かれていた地政学的状況をいかに認識し、教育改革や人材育成の必要性をどう考察していたのか整理する。それは、彼らが国家・民族・宗教を超えて、中央ユーラシアにおけるゆるやかな連帯を志向する社会構築を目指した、大きな動機づけであった。具体的には、ロシア帝国による同化政策、イギリスなどの帝国主義政策、オスマン帝国スルタンによるイスラーム社会の「近代化」政策、中国および日本など東アジア世界の人口増大と経済圏の変容などの諸要素について、いかなる認識を有し、またそれが中央ユーラシアにどのような影響を及ぼすと考えていたのか、現地調査および各種文献調査から整理分析する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初の計画では平成23年度末にロシアにおける予備的な海外調査を予定していたが、現地協力者の都合により延期し、旅費を繰り越して平成24年度に調査を行うこととなった。したがって、平成24年度は予定している中央アジアの調査に加え、ロシアにおける調査もあわせて行うことになる。具体的にはロシアやウズベキスタンでの調査を行い、各種文献を閲覧、複写を行う。時期は8月中旬から9月上旬にかけてを予定している。また、平成23年度に引き続き国内の主要研究施設および大学図書館において、広く近代における教育改革運動を含む社会運動について、先行研究の調査を行う。時期は6月より年間を通じて5回程度を予定してる。そうして収集した史料や文献について、アルバイトを雇用し、デジタル化の作業を行う。特に、マイクロフィルム化された新聞記事のデジタルデータ化を行い、作成中のデータベースとのリンク付をはかる。また、調査に必要な機器類についても今年度において購入して、研究環境の整備に努める。
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