2012 Fiscal Year Research-status Report
正則化法による逆問題の高精度近似理論と次世代計算環境による数値的実現
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23740075
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
藤原 宏志 京都大学, 情報学研究科, 助教 (00362583)
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Keywords | 多倍長数値計算 / 正則化法 / 数値的不安定性 / 非適切問題 / 高精度シミュレーション |
Research Abstract |
本研究は、逆問題の数値計算において最大の困難点である不安定性に対する高精度数値計算手法の確立を目的とするものである。平成24年度は二階線型偏微分方程式を対象として、再生核理論に基づく離散化手法の提案とその数値的実現について研究をおこなった。これは、不安定性な問題の典型例である Laplace 逆変換の数値計算に対して、再生核空間を適当に設定することで数値計算に成功した先行研究をもとにするものである。 本手法は近似解を適当な再生核Hilbert空間で求めるものであり、再生核の再生性による函数の表現を利用する。これを方程式に代入して、領域から適当に選んだ有限個の選点上でそれが成立することを要請する。アルゴリズムとしては、再生核を如何に近似的に構成するかが問題となるが、ひとたび再生核を構成することができれば、境界値が変更された場合であっても高速に解を求めることができるという特徴をもつ。同時に、本手法は差分法のような規則格子を利用しないため、領域が矩形でなくとも適用可能となっている。また、変数係数の場合や、設定が必ずしもHadamardの意味で適切でない場合にも適用可能という特徴をもつ。 本手法で提案する再生核の近似構成は正値対称行列を係数とする連立一次方程式の求解に帰着され、その行列の条件数が大きくなるために倍精度計算では高精度な計算が達成されないことがわかった。これについては報告者が提案する次世代計算環境である多倍長計算で対処することにより、現実的な計算資源(プロセサ、メモリ、時間)のもとで精度の高い数値解が構成可能であることが示された。数値実験により収束性をもつことも示唆されており、今後はその証明や高速計算法が課題として考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、計算環境の整備と数値計算の理論面の双方の研究から、次世代の高精度数値計算手法を確立を目指すものである。 このうち後者については予定を超えた進展をみせ、次年度においてより具体的な応用問題に取り組むための準備をおこなうことができた。 一方、前者については、報告者がこれまで構築してきたexflibの並列化による高速化を目指し、IvyBridgeマイクロアーキテクチャのAVX機能を利用することを考えていた。exflibは64ビット整数演算機能をもちいた高速演算が特徴であるが、AVX機能においては当初の予想と異なり、浮動小数点演算についてはSIMDによる並列演算が実装されているものの、整数型のSIMD演算については後継のAVX2において実装予定であると発表された。浮動小数点演算をもちいた多倍長演算は、報告者の先行研究により効率的でないことが示されているため、24年度のAVXによる具体的な実装は見送り、AVXにおけるSIMD並列計算の利用法の習得に留めた。具体的には、AVXを効率的に利用するためのアセンブリ言語の習得を指しているが、これはAVX2においても高速化などにおいて必須の技術であり、これにより次年度以降にAVX2機能を有するプロセサの入手後、直ちにexflibの移植に移ることができると考えている。 以上を考慮し、理論面においては当初の計画以上に進展し、計算環境の整備においてはやや遅れた面は否めないが次年度からの円滑な研究進展のための基礎技術を習得できたことを勘案し、全体としておおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本計画の中核として、高速な多倍長計算環境の構築があげられる。その一つの手法は並列計算であり、インテル社のHaswellマイクロアーキテクチャがこれに適する計算機アーキテクチャであると考えられる。特にHaswellにおいて実装されるAVX2は、その前身であるAVXに整数演算のSIMD並列処理が追加され、レジスタ長が256ビットとなることが発表されている。そこで計算環境の点においては、このAVX2をもちいた高速化が有効か否か検討する。多倍長計算環境は、報告者が先行研究において独自に実装したexflibをもとにする。このexflibは64ビット整数演算をもとに構築されたものであり、AVX2によるSIMD演算による性能向上が期待される。演算の対象がベクトル演算に限られるものの、報告者らのグループによる先行研究でGPGPUのSIMD演算によるベクトル演算が有効であることが示されていることから、この方針を策定した。数値計算法としては、再生核理論に基づく数値計算に必要な数値積分の並列計算を試みる予定である。 さらに、前年度に得られた再生核に基づく数値計算手法ならびに上述の並列多倍長数値計算環境をもとに、具体的な非適切問題の数値計算をおこない、本研究の有効性を検証する。例としてはTricomi方程式を考えている。これは流体力学で現れる問題であり、領域の内部で方程式の型が変わる困難性をもつ問題として知られている。前年度に構築した離散化手法は、変数係数の偏微分方程式を扱うことができるため、このTricomi方程式を扱うことができると考えている。 また、国内外の学会・研究会における研究発表と討論を行う予定で、これらを通して得られた知見を論文として発表する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
まず、本研究を遂行する上で不可欠な計算資源として、AVX2機能を有するHaswellマイクロアーキテクチャのプロセサを搭載する計算機の購入を予定している。このプロセサは2013年上旬に出荷されることから、最終年度の25年度に購入することとした。価格は現在のAVX機能をもつプロセサ搭載計算機を参考として200千円を予定している。 再生核理論にもとづく数値計算の研究においては、斎藤三郎教授(ポルトガル・アヴェイロ大学)との間で議論をおこなっている。そのため、直接訪問しての研究討論が効果的であると考えられるため、ポルトガルへ1週間程度の出張(300千円)を計画している。 また、高精度数値計算においては今井仁司教授(徳島大学)との議論を続けているため、引き続きの研究討論が効果的であることから、2泊3日程度での出張を予定している。 6月にはインドネシア・バンドン工科大学にて、East Asia SIAM が開催される予定である。これは数値計算・数値解析を含む応用数学についての国際会議であり、これに出席しての本研究についての研究発表は極めて有意義であると考えられ、1週間程度の出張(223千円)を予定している。 さらに、国内の学会・研究会において本研究結果の発表ならびに討論を予定している。また、非適切問題だけでなく、工学・地球物理・医学で扱われている逆問題に対する応用の知見を得るため、関係する学会・研究会として脳機能マッピング学会(7月)、計算数理工学会(12月)などへの出張を予定している。
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Research Products
(18 results)