2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23740115
|
Research Institution | Okayama University of Science |
Principal Investigator |
鬼塚 政一 岡山理科大学, 理学部, 講師 (20548367)
|
Keywords | 関数方程式 / 安定性 / リヤプノフの方法 / 相平面解析 |
Research Abstract |
零解が吸収的であるとは、零解近傍におけるすべての解が零解に漸近するときをいう。零解が吸収的でかつ安定であるとき、漸近安定と呼ばれ、さらに零解近傍におけるすべての解が指数のオーダーで零解に収束するとき、指数漸近安定と呼ばれる。変数係数をもつ常微分方程式系(以下、非自励系と呼ぶ)に対する安定性は古くから研究されてきたが、係数が周期関数でない非自励系の指数漸近安定性は線形系ですら十分解明されたとは言い難く、その不安定性については殆ど未解明である。本研究では、2次元非自励系の不安定性理論の構築を中心に非線形系の零解の安定問題を考察した。 平成24年度は前年度に引き続き、2次元非自励線形系の安定性及び不安定性の判定条件を与えることを目標に研究活動を行ってきた。今年度行った研究は以下:(I)2次元線形系の零解の指数漸近安定性及び非指数漸近安定性、(II)2次元線形系の零解の有限長吸収性と無限長吸収性、(III)2次元半分線形系の零解の吸収性と安定性の同値関係の3つに集約される。当初の研究計画では、(I)に挙げた2次元線形系の零解の指数漸近安定性及び非指数漸近安定性に関する成果を半分線形系の理論へ拡張することを目標としていたが、2次元線形系における新たな問題である(II)を発案し、有限長吸収性と無限長吸収性と言われる「零解に収束するすべての解の相平面上への射影の長さが有限であるか否か」を判定するある種の安定問題を考究した。さらに、(I)の半分線形系への拡張を考察するうえで、線形系が持つ「吸収性と安定性の同値関係」が半分線形系においても成り立つ予想が生じ、新たに(III)のテーマについても考察した。(I)、(II)、(III)の成果は現在、学術論文投稿に向けて準備中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は2次元非自励線形系の安定性及び不安定性の判定条件を与えることを目標に研究活動を行った。今年度行った研究のテーマを以下に時系列で示す:(I)2次元線形系の零解の指数漸近安定性及び非指数漸近安定性、(II)2次元線形系の零解の有限長吸収性と無限長吸収性、(III)2次元半分線形系の零解の吸収性と安定性の同値関係 研究代表者の異動に伴い本年度の研究開始は少し遅れた出だしとなったが、前年度から継続して(I)に関する研究を推し進めた。研究再開当初は不安定性と相対する性質である安定性の状況を十分に調査するため、書籍を重点的に購入し、不安定性理論構築に関する情報を得ることに専念した。また、(I)に関連する研究発表を招待講演1回(京都)、国際会議2回(岡山、テキサス)、国内集会2回(大阪、愛知)行った。得られた結果は今後学術論文として執筆予定である。(II)については、岡山理科大学理学部の田中敏准教授と研究連絡を行い、有限長吸収性と無限長吸収性の新たなテーマに着手し、ある一定の成果を得た。得られた成果は現在学術論文への投稿へ向けて執筆中である。年度後半からは(III)に関する研究を推進しており、通常線形系で使用される理論を使用することなく、半分線形系においても線形系と同様の解の挙動をとることを明らかにした。このテーマに関する成果は既に、国内集会で3回(高知、愛媛、岡山)発表を行っており、次年度から執筆活動を開始する。 平成24年度の研究成果は、招待講演を含む口頭発表8回として実を結び、今後、(I)、(II)、(III)の成果は何れも学術論文投稿へ向けて準備段階にある。研究計画に掲げた目標をおおむね達成しており、研究の進展状況は良好と言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、平成24年度で得られている研究成果:(I)2次元線形系の零解の指数漸近安定性及び非指数漸近安定性、(II)2次元線形系の零解の有限長吸収性と無限長吸収性、(III)2次元半分線形系の零解の吸収性と安定性の同値関係を学術論文としてまとめることが最優先事項となる。その後は、(I)や(II)に関するテーマにおいて、2次元半分線形系を扱った学術論文との比較・検討を行うことで、2次元半分線形系及び2次元非線形系に対する新たな解析方法を開発し、より一般の非自励系に適用可能な安定性理論や不安定性理論を構築したい。もしも計画通りに研究が進展しないようであれば、次に示す対策を講じる。 (1)問題を単純化して研究遂行:例えば、複数ある変数係数のうち何れかを定数に固定して、本質的にどの係数の情報が不安定性に影響を与えるのかを見極める。 (2)リヤプノフの直接法と相平面解析の長所・短所の明確化:平成24年度の成果により、両解析手法に関する長所と短所はある程度明確化がなされてきたが、場合によっては、リヤプノフの直接法のみで証明を進めるか、もしくは相平面解析のみでアプローチする手段も必要と考える。異なる角度から証明方法を考察することで、それぞれの手法の長所、短所を洗い出し、何が証明に有用であるのかを明らかにする。 (3)研究動向をよく知る研究者への相談:研究集会等に積極的に参加し、本研究分野の近隣のテーマで研究されている方々(研究相談者:島根大・杉江実郎教授、岡山理大・田中敏准教授、愛媛大・内藤学教授、大阪府立大・松永秀章准教授、山岡直人准教授、一関高専・片方江講師)と研究の交流をすることで、当該研究に関連するアイディアや情報を得る。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は、研究代表者が都城工業高等専門学校から岡山理科大学へ異動することにより、当初の計画よりも出張旅費が軽微で済む状況にあった。岡山市は宮崎県都城市と比べ各都市への交通の便が良いことが理由として挙げられる。このため、旅費が大幅に抑えられる結果となり「収支状況報告書」の「次年度使用額」の合計欄は0ではない。次年度は、関西、関東への交通の便が良いことを活かし、本研究の近隣である偏微分方程式や流体力学等に関連するさまざまな集会へも積極的に参加し、本研究の応用に関する情報収集を行いたい。したがって、研究費は主として国内外における出張・講演旅費に充てる。出張・講演では、国内外の多くの研究者と研究交流を図ることで、当該研究に関わるアイディアや情報を得るだけでなく、他の研究分野との関わりから、本研究の現在の位置づけ及び今後の発展性をより明確にするという重要性がある。また、本研究自体もある研究集会で投げかけられたたった一言の質問がきっかけで開始した経緯もあり、研究交流は大きな情報源となると考える。 次に必要となるのが、書籍の充実である。他分野に比べて膨大な文献を有する微分方程式の研究において、学術論文を執筆する際、関連論文のみを挙げるだけでは説得力が弱く、受理されるのには時間がかかる。良い論文を書くためには安定性やその応用をはじめとする幅広い書籍が必要である。 最後に、出張や講演する際に必要となる機材や本研究で補助的に使用している計算機の数式処理ソフト等が挙げられる。数式処理ソフトを使用し、微分方程式の解の軌道の状態を把握することで、相平面解析を用いた証明のヒントになる発想を効果的に引き出したい。
|