2012 Fiscal Year Research-status Report
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23740186
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
平松 尚志 京都大学, 基礎物理学研究所, 特定研究員 (50456175)
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Keywords | 宇宙論 / 密度揺らぎ / インフレーション / 宇宙論的位相欠陥 / 宇宙紐 / 数値宇宙論 |
Research Abstract |
密度揺らぎの初期条件を構築するという目的で作成した、ダークマター・光子・バリオンの各揺らぎの共進化を記述するボルツマン方程式ソルバーについて、これをそれぞれの二次摂動まで取り扱えるように拡張した。この改良によって、初期条件を作成するという当初の目的を越えて、このコード単体でインフレーション起源の揺らぎが持つ原始的非ガウス性やプランク分布からのずれに関する研究などへの応用が可能となる。 修正重力理論の一つであるf(R)重力理論との比較については、その準備研究に取りかかった。東京大学の樽家氏らとの共同研究に参加し、以前作成した摂動論に基づくコードを用いて、N体シミュレーションの結果からf(R)重力理論が持つモデルパラメータの推定に関する研究を開始した。この研究を踏まえて、本研究課題の有用性についても議論していく予定である。また、この修正重力理論の研究に関連して、一般相対性理論との整合性を保つために重要な「第五の力の理論的遮蔽機構」の一つである Vainshtein 機構に関する考察を、シカゴ大学の Hu 氏らと共に行った。連星を想定し、それぞれに働く Vainshtein 機構が互いの周囲の重力場に対してどのように影響を及ぼし合うかという点に着目した。 数値宇宙論の基盤構築という観点からは、他大学・他分野との連携が開始されたという点が特筆に値する。京都大学の大河内氏を始めとする素粒子理論のグループとの連携では、超対称標準模型において特定の状況下で実現される準安定な宇宙紐の挙動を考察した。特に、そのような宇宙紐同士の衝突によって生じる「真空状態の爆発的成長現象」について、私自身が作成した格子シミュレーションコードを用いてパラメータサーベイを行った。さらには、熊本大学、弘前大学、東京大学のグループとの連携で、I型宇宙紐と呼ばれる特殊な宇宙紐のネットワーク形成シミュレーションを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
流体コードを用いた密度揺らぎの非線形進化の研究そのものについては、遅れが生じている。これは当初の想定にはなかった、ボルツマンコードの開発に大幅な時間が取られたためであるが、年度末に Planck 衛星による観測結果の公表などが予定されるなど、今後もこの種のボルツマンコードの有用性が非常に高いと判断したため、こちらを優先させた。また、数値宇宙論という考え方が徐々に浸透し始めた実感があり、それによる他大学・他分野との共同研究も実現させた。これによって、当該分野でこれまで立ち往生していた課題を解決しつつ、そこから新たな課題が生み出されるという循環が生まれ、本研究課題の根底に存在する数値宇宙論の基盤構築という点については、個々の課題の遅れを補うに余りあるほどの進展があったと確信している。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の目的である密度揺らぎの非線形進化については、最終目標を LCDM モデルにおけるコード構築という点に変更する。当初予定していた修正重力理論への応用に関しては、その準備的研究に止めることにし、その分の時間を、数値宇宙論という大枠の考え方に立ち戻って、その有用性、適用可能性をより広い分野から探ることに充てることとする。特に、密度揺らぎのコードのベースとなっている格子シミュレーションコードの機能を拡充し、密度揺らぎや宇宙紐といったものだけでなく、重力波なども含んださらに広い応用が可能なものに進化させることを目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度への繰越額が、3年間に割り当てられた研究費総額に対して 0.1% 程度(3千円程度)にしか満たないため、特定の物品や旅費等への割り当てを具体的に宣言することは困難と考えられる。したがって、次年度に割り当てられる研究費との合算でもって適切に使用する。
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Research Products
(8 results)