2011 Fiscal Year Research-status Report
長寿命荷電粒子と原子核の反応をプローブにした標準模型を超える模型の解明
Project/Area Number |
23740208
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
山中 真人 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 博士研究員 (70585992)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 長寿命荷電粒子 / 初期宇宙元素合成 / 超対称性模型 |
Research Abstract |
本課題で対象としている長寿命の荷電粒子は、初期宇宙元素合成において特殊な核反応を引き起こす。2011年度に行なった研究では、元素合成時に、長寿命荷電粒子とヘリウム4原子核の束縛状態中で起こる特殊な核反応の存在を明らかにし、その影響を調べた。この特殊な核反応により重水素や3重水素の過剰生成が起こり得ることから、それらの観測値と反しないように制限を課すことで、長寿命荷電粒子の性質に厳しい制限を課した。さらに、導出結果を超対称性模型におけるスタウと呼ばれる長寿命荷電粒子に適用することで、超対称性模型のパラメーターに高精度の予言を与えた。長寿命荷電粒子や超対称性模型は、今まさに、様々な実験・観測で検証がなされている。そういった状況のもと、長寿命荷電粒子の性質やある種の超対称性模型シナリオに高精度の予言を与えたという成果は重要性の高いものである。この研究で築いた計算技術は、元素合成時代のヘリウム4に限らず、いかなる場面の他の原子核との反応を扱う際にも適用可能なものである。本課題の目標、すなわち、加速器実験で生成された長寿命荷電粒子の検出器原子核を用いた検証は、当然、長寿命荷電粒子と様々な原子核との反応を扱うことになる。加速器実験における検証に必要な計算技術の確立を成したという意味で、本研究は大きな意義を持つ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題は、加速器実験で生成される長寿命荷電粒子が検出器で止まった際、その粒子をどう検証するか、また、そのためにどういった検出器が適しているか検討することを目的としている。この目的を成すうえで、長寿命荷電粒子が原子核とどのような反応を起こすか、また、その反応のシグナルはどういったものでどれだけの頻度で検出できるものなのかを理解しておくことが必要である。2011年度、長寿命荷電粒子とヘリウム4が形成する束縛状態内の特殊な核反応(一種の原子核破砕反応)について研究を行なった。長寿命荷電粒子が起こす特殊な破砕反応の反応率を算出する際に、原子核の波動関数を計算に適した形に組む必要がある。2011年度の研究において、この波動関数構築方法を確立したことは、本課題の遂行に対する大きな成果である。このように、本課題を成すために必要な計算技術は着実に構築されてきており、本課題はおおむね順調であると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
加速器実験で生成された長寿命荷電粒子は、検出器を構成する原子核に捕獲され、束縛状態を形成する。本研究において行なうべき優先課題は、長寿命荷電粒子を検証するのに適した原子核を探し出すことである。長寿命荷電粒子を捕獲する能力が高く、かつ、終状態の検出が比較的容易な特殊な核反応を起こす原子核を探すことになる。これまでの研究結果から、長寿命荷電粒子との反応により、どのような原子核がどういった終状態をもたらすのか予測が可能である。さらに、参考文献[H. A. Bethe and E. E. Salpeter, Quantum Mechanics of One- and Two-Electron Atoms (Springer-Verlag OHG, Berlin, Gottingen, Hedelberg, 1957)]を参考に、原子核が長寿命荷電粒子を捕獲する際の反応率を算出可能である。これらに基づき、長寿命荷電粒子の検証に適した原子核を特定する。さらに、並行して、選んだ原子核がもたらすシグナルに対するバックグラウンドの種類・程度を調べ上げ、シグナルが検出可能か否かを検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度に行なった研究は申請者自身でなんとか遂行できるものであった。そのため、必要知識の収集に伴う議論や参考書の購入が予定より抑えられ、予算に残余が生じた。2012年度に行なう研究は原子核や加速器検出器といった申請者の及ばぬ知識、さらに、込み入った計算が予想される。そこで、本課題の計算を行なうため、mathematicaの購入を予定している。本課題遂行に要する知識を得るための参考書の購入、及び、専門家の意見を聞く際の謝金を予定している。また、2011年度に行なった長寿命荷電粒子がもたらす特殊な元素合成の研究を国際会議にて講演し、参加者達と議論を交わすことで、本課題の昇華を図る。そのための旅費・参加費を研究費により賄う予定である。
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