2011 Fiscal Year Research-status Report
原子核密度汎関数法に基づく中重不安定核の系統的線型応答計算
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23740223
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
吉田 賢市 新潟大学, 自然科学系, 助教 (00567547)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 原子核密度汎関数法 / 巨大共鳴 |
Research Abstract |
スキルム型の密度汎関数を用いた、質量数の大きな安定核・中性子過剰核における巨大共鳴状態の系統的計算を遂行した。それにより、余剰中性子や原子核の変形がもたらす寄与を明らかにした。希土類領域にある原子核は、中性子数を変化させると、その形状が球形から楕円体に変化することが知られている。そこで、これらの原子核を対象として様々なタイプの巨大共鳴状態を計算し、巨大共鳴における変形効果を調べた。単極子型の巨大共鳴は圧縮性のモードであり、核物質の非圧縮率を決めるのに重要である。変形によって、角運動量が2の成分と結合し、元の共鳴エネルギーから少しエネルギーの低い領域に新たな共鳴ピークをもつことが分かった。この新しい共鳴状態のエネルギー及び遷移強度は、原子核の変形の大きさと直接関係しており、原子核の変形を見るための新しい物理量となることを、微視的な理論計算により明らかにした。中性子放出の閾エネルギー近傍にある双極子遷移強度やその分布は、r過程での元素合成に大きな影響を与えることが議論されている。最近の理研の実験で、Zr同位体はr過程の経路上では大きな変形をしていることが分かってきた。Zr同位体は安定線の近傍では球形であり、中性子数の関数として原子核の変形と余剰中性子の効果を同時に調べることのできる研究対象である。安定核から中性子ドリップ線近傍にあるZr同位体に対する、双極子励起の系統的線型応答計算を遂行し、そのアイソスピンの構造を調べた。原子核の表面付近や内側では、中性子と陽子が同位相で運動しており、表面の外側では中性子のみが励起に関与し、その位相は内側と逆であった。これは、中性子スキンと芯との間の双極子運動であることを示唆している。現在、確率の流れ密度分布などを調べようとしている段階である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
安定核や中性子過剰核を含む中間質量の原子核に対する線型応答計算を遂行し、系統的な計算結果から初めて分かる現象を見いだした。それは変形の大きさや中性子過剰度に応じた巨大共鳴状態の励起エネルギーの変化の仕方である。本研究の目標の一つは、シミュレーション計算による「エネルギー公式」の導出であり、それに向けて順調に、計算結果が蓄積されてきている。
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Strategy for Future Research Activity |
原子核密度汎関数法の最大の強みは、他の原子核構造の微視的モデルに対して、質量数の大きな原子核の励起状態を調べることができる点にある。今年度は、質量数が100~150程度の中間質量の原子核を研究対象としてきたが、来年度は、200を超える重い原子核の集団運動の性質を調べる。特に、変形の発達した超ウラン元素の光吸収断面積や、低励起の八重極振動モードについて、その微視的構造を調べる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は国内において大きな国際研究集会がいくつか開催され、予定していた旅費、特に外国旅費に余剰が出た。その代わり来年度は、欧米を中心に大きな国際研究集会が予定されており、本年度の余剰分は相殺される見込みである。また、大規模計算に関して、理研や筑波大学等の専門家との議論を増やしていく方針であるので、旅費の総額は本年度に比べて増加する。また、物品費として、大型計算機で得られた結果を解析するためのデスクトップ型のコンピューターを導入する。
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