2012 Fiscal Year Research-status Report
原子核密度汎関数法に基づく中重不安定核の系統的線型応答計算
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23740223
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
吉田 賢市 新潟大学, 自然科学系, 助教 (00567547)
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Keywords | 原子核密度汎関数法 / 低エネルギー集団励起モード |
Research Abstract |
今年度は、余剰中性子と原子核の変形によって、低励起双極子型の振動モードの性質がどのように変化するかを調べた。対象としたZr同位体は、最近理研の実験施設RIBFにおいて、中性子数64付近で大きく変形していることを示唆する結果が得られ、大きな話題となっている原子核である。 スキルム型SkM*エネルギー汎関数と混合型のペアエネルギー密度汎関数を用いて、まずZr同位体の基底状態の性質を調べた。安定線付近の90Zrから98Zrまでは球形であるが、100Zrから114Zrまではプロレート変形である。これは、上で述べた実験結果と矛盾しない。さらに中性子数を増大させると球形となり、中性子ドリップ線近傍の136Zrから140Zrでは、再びプロレート変形になるという予言を得た。 このようにして得られた基底状態の上に、変形QRPA法を用いてアイソベクトル型双極子遷移強度分布を計算した。巨大共鳴状態として13-15 MeV付近に共鳴ピークが得られた。安定核でも知られているように、変形した同位体に対しては、ふた山構造をとる。これは、変形の対称軸に沿って振動するモードと対称軸に直交する軸に振動するモードでは、振動数が異なるためである。r-過程での中性子捕獲反応に重要な役割を果たすのは、8 MeV以下の中性子の分離エネルギー付近の励起モードである。安定線近傍の同位体では、ほとんど遷移強度が見られないのに対し、中性子数が大きくなるにつれ、特に110Zr近傍から有意な“肩構造”が見られた。基底状態からこの励起状態への遷移密度分布を分析すると、変形の対称軸方向に原子核の外側に広がった中性子が、表面より内側に対して逆位相で振動するモードと、対称軸と直交する軸方向に振動するモードがあることが分かった。これは、変形した中性子過剰核の低エネルギー領域での特異的な振動モードである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
変形QRPA法を用いた系統的計算によって、中性子数50から100までのZr同位体における双極子振動モードの性質を調べ、余剰中性子と原子核の変形によって、低励起状態に特徴的な振動モードを発現することを明らかにした。これは、元素合成過程に大きな影響を与える可能があり、天体物理など他分野への波及効果があると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究で見出した、変形した中性子過剰核に特有な低励起双極子振動モードの性質を、遷移密度の分析などを通して詳しく調べる必要がある。また、原子核密度汎関数法の最大の強みは、他の原子核構造の微視的モデルに対して、質量数の大きな原子核の励起状態を調べることができる点にあるため、より質量数の大きな原子核においても同様に系統的計算を遂行し、低励起双極子振動モードの一般的性質を見出すことを目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
データ分析用のコンピュータの購入を検討していたが、該当年度内の購入は間に合わなかった。次年度の早い時期の購入・納入をめざして選定する。次年度の物品購入や旅費は、当初の予算通りに執行する予定である。
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