2011 Fiscal Year Research-status Report
鉄ニクタイド超伝導体におけるディラックコーンへの不純物置換効果
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23740251
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
田邉 洋一 東北大学, 原子分子材料科学高等研究機構, 助手 (80574649)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 鉄系超伝導体 / ディラックコーン |
Research Abstract |
本研究は、最近、鉄ニクタイド超伝導体の母物質において発見された正孔と電子のディラックコーンに起因する高速キャリアと超伝導の関係を明らかにすることを目的とした。高温超伝導体においては、熱揺らぎによる超伝導電子対の位相の乱れを防ぐことが高い転移温度を得るための鍵となる。先行研究から、超伝導体と金属の界面において、超伝導電子対のコヒーレンスが上昇することが報告されていることから、超伝導と有効質量がゼロのディラックフェルミオンの共存は超伝導体のコヒーレンスの制御に関して非常に興味ある課題である。本研究では、鉄ニクタイド化合物の超伝導が出現する組成において、ディラックコーンの存在の有無を明らかにすることを目的として、Ba(Fe1-xTMxAs)2 (TM = Ru, Co)において、磁気抵抗効果とHall係数の測定を行った。その結果、超伝導が出現する組成において、ディラックコーンの量子極限として解釈することができる磁場に線形な磁気抵抗効果を観測した。さらに、易動度解析からは、サイクロトロン有効質量がディラックコーンのキャリア数の1/2乗に比例して増大することを観測した。これはディラックコーンに固有の振る舞いである。すなわち、本実験から、鉄ニクタイド超伝導体の超伝導が出現する組成においてディラックコーンが存在することが明らかになった。鉄ニクタイド超伝導体においては、高い超伝導転移温度を有するにも関わらず、超伝導転移温度付近での超伝導揺らぎの効果が弱いという特徴がある。本研究成果は、鉄ニクタイド超伝導体において高温超伝導の背後に高易動度キャリアが存在することを示していることから、高易動度キャリアの存在と小さい超伝導揺らぎの間に相関がある可能性を示している。すなわち、ディラックフェルミオンが超伝導のコヒーレンスを向上させている可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、鉄ニクタイド化合物において母物質において観測されたディラックコーン状態と超伝導の関係を明らかにすることを目的として鉄サイトへのCo, Ru置換により超伝導が出現するBa(Fe1-xTMxAs)2(TM = Ru, Co)において磁気抵抗効果とHall係数の測定を行った。その結果超伝導とディラックコーンが共存していることを初めて見出した。 鉄ニクタイド超伝導体においては高い超伝導転移温度に対して超伝導揺らぎが小さいことが知られている。本研究成果は高温超伝導の背後に高易動度キャリアが存在することを示していることから、高易動度キャリアが超伝導のコヒーレンスの向上に寄与している可能性があることをを示している。すなわち、これらの成果は研究目的に対して一定の回答を示していることから、研究は順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年の研究から、鉄ニクタイド化合物Ba(Fe1-xTMxAs)2(TM = Co, Ru)において超伝導が出現する組成においてもディラックコーンが存在することが明らかになった。一方で、鉄系超伝導体の反強磁性相においては、バンド計算から4つのフェルミ面が存在することが指摘されていることから、超伝導とディラックフェルミオンの関係を具体的に評価するには4つのキャリアを仮定したモデルを用いて輸送特性を解析する必要がある。本年度は、鉄ニクタイド化合物Ba(Fe1-xTMxAs)2(TM = Co, Ru)において最大50Tの磁場下で磁気抵抗効果とHall係数を測定し、電気伝導テンソルの詳細な解析から、ディラックコーンとその他の超伝導に寄与するバンドにおけるキャリア数と易動度を明らかにする。 さらに、Ba(Fe1-xTMxAs)2系において観測した超伝導とディラックコーンの共存が、鉄系超伝導体において普遍的かどうかを明らかにすることを目的として、最近単結晶の育成が報告されたFeSeにおいて磁気抵抗効果とホール係数の測定を行う。FeSeにおいては、数GPaの圧力下で反強磁性相が出現することが報告されていることから、超伝導と反強磁性が共存する領域において、磁気抵抗効果とホール係数の測定から、ディラックコーンの有無を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は、新たにFeSeの単結晶の合成を行う。このため、試料原料を購入する必要がある。なお、単結晶の育成には昨年度購入した電気炉を用いる。Ba(Fe1-xTMxAs)2(TM = Co, Ru)とFeSeの単結晶を用いて、最大50Tの磁場下で磁気抵抗効果とHall係数の測定を行う。測定は、東北大学金属材料研究所附属強磁場超伝導材料研究センターと大阪大学極限量子科学研究センターで行う予定である。測定に使用する金線、低温用の基板、金ペースト、液体ヘリウムを研究費を用いて購入する必要がある。また、大阪大学に出張するための旅費を支出する予定である。本年度は本研究課題の最終年度に当たることから、研究費を用いて成果発表を予定している。具体的には査読付きの英文誌へ論文を投稿するとともに、7月に開催される超伝導国際会議と9月と3月に開催される日本物理学会において本研究成果を公表する予定である。このため研究費から、論文投稿料と成果発表旅費を支出する予定である。
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Research Products
(7 results)