2011 Fiscal Year Research-status Report
非平衡動的平均場理論による強相関系の非線形・非平衡状態の理論
Project/Area Number |
23740260
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
岡 隆史 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (50421847)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 物性基礎論 / 光物性 / 国際研究者交流 |
Research Abstract |
銅酸化物などの強相関物質に強い電場をかけた時に誘起される非平衡状態についての基礎理論を構築することが本研究課題の目標である。そして、応用として、金属絶縁体(モット)転移や超伝導・磁性転移を電場や強力なレーザー光によってコントロールする方法について考察し,非平衡相転移の一般論を拡張する。併せて新奇計算手法の開発として、最近開発されたハバードモデルに対する非平衡動的平均場理論をさらに発展させていく。具体的には、以下のように手法開発とその物理への応用を研究の軸とする。(a)非平衡動的平均場理論の手法開発(b)非線形伝導―実験と理論の矛盾の解消(c)非平衡相転移―秩序の外場による制御 クラスター化DMFT(d)冷却原子気体の非平衡ダイナミックス。平成23年度の研究内容は非平衡動的平均場を用いた研究がPhys. Rev. Lett.誌に掲載された(N. Tsuji, T. Oka, P. Werner, H. Aoki,Phys. Rev. Lett. 106, 236401 (2011)).さらに、関連する研究として相関系の緩和現象についてK. Hashimoto, N. Iizuka, and T. Oka, Phys. Rev. D 84, 066005 (2011)、また、光誘起輸送現象に関してT. Kitagawa, T. Oka, A. Brataas, L. Fu, and E. Demler, Phys. Rev. B 84, 235108 (2011)に研究を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の目標は非平衡動的平均場理論の拡張を行い、電場をかけたモット絶縁体の非平衡状態の研究を行うことにあった。Phys. Rev. Lett.誌で掲載された論文では、この目標にそった研究が行えた(N. Tsuji, T. Oka, P. Werner, H. Aoki,Phys. Rev. Lett. 106, 236401 (2011))。具体的には電場によって反転分布を実現した場合、非平衡系特有の相転移が起きることを明らかにした。一方、当初のもう一つの目標であった、Migdal-Eliashberg理論を用いた電子格子相互作用の導入につては現在計算手法の開発の段階にある。Migdal-Eliashberg理論は電子系と比較的弱く結合したフォノン系を取り扱う理論的手法であり、過去にはフォノン機構の超伝導体の理論(BCS理論など)において広く用いられててきた。Migdal-Eliashberg理論を非平衡系に対して拡張し、動的平均場理論と結合させるために、現在、Keldyshグリーン関数法の拡張を行っている。冷却原子の非平衡ダイナミクス:平成23年度にHarvard大学に滞在し、冷却原子の非平衡ダイナミクスに関してE. Demler氏らと研究打ち合わせをおこなった。動的に誘起されるトポロジカル効果(光誘起ホール効果)の冷却原子気体への応用を念頭に置いている。平成23年度の研究結果についてはT. Kitagawa, T. Oka, A. Brataas, L. Fu, and E. Demler, Phys. Rev. B 84, 235108 (2011)にまとめられた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度以降の研究の大きな方向性としては、動的平均場理論の拡張に加えて、非平衡スピン揺らぎの研究を取り入れることにある。非平衡スピン揺らぎは、相関電子系の非平衡相転移を議論する上で本質的に重要な役割を果たすものである。この研究を行うために、高吉氏を平成24年度に新たに特任研究者として雇用する。高吉氏は量子スピン系の理論の専門家であり、特にエンタングルメント繰り込み群の一種であるiTEBDを用いた、スピン系の実時間ダイナミクスの研究が可能である。また、当初より進めていた目標も実行する。具体的には、非平衡動的平均場理論とその他の理論手法(例えばKeldysh+FLEX)を銅酸化物、有機導体、冷却原子気体、さらにグラフェンなどのように、近年実験的に非常に興味を持たれている対象に対して応用していく。特に非平衡相転移現象に関してはハバード・ホルシュタインモデルに代表される強相関模型の非平衡条件下での非平衡相図の決定する。クラスター化:動的平均場を動的クラスターへと拡張し、計算プログラムの大規模並列化を行う。これにより、より現実的な物性に近い非平衡相転移が議論できるようになる。すなわち、二次元銅酸化物における擬ギャップ状態での非平衡状態の解明、また、高温超伝導体への応用も視野に入れる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度の研究の結果、本研究課題の目的の達成には大規模数値計算が不可欠であり、その計算プログラムを早急に整備する必要があることが明らかになった。そのため、平成24年度に特任研究員として高吉氏を雇用し、共同でこの課題に取り組むことを決めた。高吉氏は相関量子系の研究の一人者であり、平成23年度に関連した研究で学位を取得している。人件費として月額27万円程度を11か月間(年総額として約300万円)を支払う予定である。そのため、平成23年度に執行予定であった130万円のうち115万円を繰り越すと同時に平成25年度に執行予定であった100万円のうち90万円を平成24年度に前倒しして執行する。平成25年度の予算規模は10万円と当初予定より縮小されるが、研究は前年度の計算プログラムを用いて物性研究所の大型計算機を用いて行う予定である。この計算は岡が実行し、また、大型計算機の費用は新たに必要ない。計算結果の解析は平成23年度に購入したノートパソコンを使用して行い、論文として研究結果を発表する。平成24年度は研究結果の発表のために学会への参加が必要であり、そのための費用を請求する予定である。このように、平成25年度の請求額は当初の予定と比べて少なくなるが、計画全体には大きな変更はなく、当初の予定通りの研究成果をあげられると考えている。
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