2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23740287
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
渡辺 宙志 東京大学, 物性研究所, 助教 (50377777)
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Keywords | 分子動力学法 / Ostwald成長 / 多重気泡生成過程 / 大規模計算 / ハイブリッド並列化 |
Research Abstract |
昨年度までに開発した、超並列環境を超える環境で実用的に利用できるハイブリッド並列短距離分子動力学シミュレーションコードを利用し、急減圧液体における気泡分布関数のOstwald成長について調べた。これは「平成25年度HPCIシステム利用研究課題追加募集『京』一般利用枠」に採択されたもので、急減圧直後に多数気泡が生成した後、気泡間相互作用により大きな気泡はより大きく、小さな気泡はより小さくなるOstwald的成長を観測した。計算には京の4096ノードを用いて、最大で7億3千万粒子程度の計算を行う事で、気泡数密度分布関数を精度よく測定することに成功した。得られた分布関数の時間発展をOstwald成長の古典論により解析し、分布関数がスケーリングされるスケーリング領域が存在すること、そのスケーリング指数が、ダイナミクスのボトルネックが界面成長にあるか拡散過程にあるかによって変化することを確認した。この、気泡生成の時間発展の後期過程がOstwald成長の古典論によりよく記述されるという事実は、古典論において仮定されている平均場的な描像や、力学平衡の仮定などが妥当であるということを示唆する。物理的な解析と合わせ、計算結果の出力フォーマットについも検討を行った。計算規模が大きくなるにつれ、出力データも莫大なものとなるが、莫大なデータの保存は難しく、さらに解析も困難となる。そこで、解析結果を重要な情報を失わずに、効率的に圧縮して出力するフォーマットを考案し、実装することで、計算後の解析を容易にした。得られたデータの効果的な可視化手法の検討も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記載した通り、本研究の大きな目的の一つに「平成24年度に共同利用が開始される次世代スパコン(京コンピュータ)を用い、その計算資源を利用しないと実現不可能な計算を実行することで初めて見える物理を追求する」というものがあった。その目的は、本研究課題に直接関係した課題が「平成25年度HPCIシステム利用研究課題追加募集『京』一般利用枠」として採択され、「気泡生成過程におけるOstwald成長」という典型的な相転移を伴う非平衡現象を、粒子相互作用のみを仮定した全粒子計算によりシミュレーション、解析を行ったことにより達成された。これにより、マルチスケール、マルチフィジックスな問題を、ハミルトンの運動方程式という単一の支配方程式から再現、解析を行う全粒子計算という方法論の妥当性、そして今後の可能性についてもある程度の知見を与えたと考えられる。以上から、現在までの研究の進行はおおむね順調であるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題における大きな目標は、相転移を伴う非平衡輸送現象の解明であるが、そのために研究対象を気泡生成に絞って研究を行って来た。これまでに多数の気泡が生成する状況の再現、及びその相互作用によるOstwald成長を、気泡分布関数の時間発展という形で解析し、系のマクロな振る舞いからミクロな相互作用やボトルネックの解析を行った。今後、さらに詳細に非平衡輸送現象を解析するため、気泡が生成する際に液体に対して行われる非平衡仕事の直接検証、及びマクロな流れ場に気泡が存在した際に、相界面における相間摩擦と運動量輸送について調べる。特に、輸送現象と相転移がカップルした系を調べるには、当初の見積もりよりもさらに大きな計算資源が必要であることがわかったため、京コンピュータの次世代、エクサスケールの計算機を見据えたコードの検討、開発も行う。
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