2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23740296
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
松本 剛 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (20346076)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 弾性乱流 / 乱流 / 粘弾性流体 |
Research Abstract |
稀薄な高分子水溶液は粘性と弾性を併せ持つ流体(粘弾性流体)として振舞うことが知られている。この稀薄な高分子は流体中で伸び縮みするバネとして流体に力を及ぼす。流れの非線型性が十分に小さくても、この高分子の伸縮がマクロな時間スケールで生じるとき、粘弾性流体特有の非線型流もしくは乱流が生じる。これが弾性乱流である。今年度は弾性乱流の数値研究の基盤となる数値シミュレーションプログラムの核部分の作成と、その数値的安定性の調査、および弾性乱流発生についての予備的なパラメータ調査を行った。本研究の最終目標は、弾性乱流の実験が行われたカルマンの旋回流であり境界条件は複雑である。しかし、まず最初に、この境界に起因する複雑性を加味する前段階として、3次元周期境界条件においてフーリエスペクトル法を用いて数値シミュレーションプログラムの作成を行った。こうした単純化した条件の下で調査を行なう理由は、粘弾性流体の方程式が数値的に非常に不安定であることが知られているために、その不安定性の性質を十分に把握しておく必要があるためである。稀薄な高分子の構造テンソルの発展方程式は、Oldroyd-B方程式、FENE-P方程式などがある。これらの方程式について数値的不安定性の主原因を回避するために構造テンソルの対称正定値性を保証するための数値スキームが複数提案されている。そのいくつかの実装をおこなって性能評価をおこなった。また、単純な流体駆動を伴う3次元コルモゴロフ流において粘弾性流体系(FENE-P)の定常解を解析的に求めて、数値解との比較を行なうことでシミュレーションプログラムの妥当性もチェックを行った。特にFENE-P方程式をもちいた3次元コルモゴロフ流の数値シミュレーションでは低レイノルズ数の非線型振動流や弾性乱流が生じることが判明した。また必要な時空間解像度などについても経験則を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
弾性乱流の数値シミュレーションにおいては、粘性の高い低レイノルズ数で発生した乱流が減衰せずに長時間にわたって自発的に維持されているか否かの判定が鍵となる。この「長時間」は粘弾性流体の特徴時間の目安であるワイゼンベルク数によって決まる。本研究の対象である弾性乱流の場合は、通常のニュートン流体の乱流の標準的な数値シミュレーションと較べて数十倍の長さが必要になるため数値シミュレーションの安定性維持は致命的に重要である。しかし、粘弾性流体方程式の数値的な不安定性により、数値シミュレーションが容易に破綻してしまう(渦度などが発散する)。このため安定性の維持自体が大きな課題となる。実際、粘弾性流体方程式の数値的不安定性を回避するために、変数変換法などの数値的手法が複数提案されており、本研究でも実装をしてそれらの効果を評価した。この評価をなるべく簡素な流れ場(周期境界条件の3次元コルモゴロフ流)で行ったため、本来の目的である複雑な境界条件(カルマンの旋回流)の実装が当初の目的よりも2ヶ月程度遅れることとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度の研究結果から、粘弾性流体方程式をある程度安定に数値シミュレーションする方法が実装できているため、このシミュレーションプログラムを実験でおこなわれた境界条件に対応するように変更を行う。具体的には、最終目的であるカルマンの旋回流に対応する一部動く壁をもつ境界条件をvolume penalty法を用いて既存のフーリエスペクトル法のシミュレーションプログラムに実装する。volume penalty法の特性によってシミュレーションに困難が生じる場合は、円筒境界に対応をしたスペクトル法の開発も視野にいれる。こうした境界条件に対応したプログラムが完成したのちに、本シミュレーションでは先行実験が行われたワイセンベルク数領域を可能な限り追跡し、動力学的データおよび統計量データを実験と比較検討し、実験では取得の難しい量の解析を通じて、その機構を解明する計画である。実験との比較をはかる基本的な量は揺らぎ量(速度や圧力)のパワースペクトルや確率分布関数である。シミュレーションの強味をいかした解析が、弾性応力をもたらす高分子構造テンソルの動力学的解析である。前年度の予備的数値シミュレーション結果から、高分子構造テンソルの特徴的な伸縮と、その統計的な性質が弾性乱流での乱れ生成の鍵を握っていると予想される。このため、実験で観測されている種々の振舞いが、構造テンソルを通じて理解可能かどうかをさぐることが本年度の焦点となる。また、境界層の構造(特に境界層厚さをなどの特徴量を决めている要素の解明)が本系での重要な問題と予想されているため、この点についても調査を行う。また、速度勾配テンソルなどの流れの量と高分子構造テンソル間の配向嗜好関係などの幾何学的関係について渦動力学的なデータ解析をおこなう。 最後に弾性乱流について高分子収縮の統計にもとづく現象論的解析を通して本研究の総括を行い、結果の発表を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前年度は国際学会(インド)に出席予定であったが、査証取得のための手続きに主催者側の予想以上の時間がかかり学会までに査証取得が間に合わなかったため、この参加費を次年度使用額として繰り越した。この分は本年度の成果発表の学会出張費として使用する計画である。さて、本年度では、まず、予備的計算を終えた本格的な数値シミュレーションの高速化をはかるために、高度な最適化機能(ノード内並列化機能)をもつ商用コンパイラを購入する(15万円程度)。また、粘弾性流体のレオロジーや数値シミュレーションについての専門知識をもつ外部講師との意見交換のため謝金を用意する(10万円程度)。さらに成果発表と研究議論のための国内学会出張旅費と国際学会出張旅費として合計30万円程度を使用する計画である。
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Research Products
(2 results)